宇宙帝国の片隅で、私はチート娘たちを相手に『独裁ハーレム』します。 合 法 的に
@minus270dot42435
第1話 全権移譲
『行政権移譲中……』
蒼く輝く文字が空中に浮かび、その下には横に伸びる棒が、まるでその言葉を支えるかのように存在していた。
数字がゆっくりと上昇する。23%、68%……。
それは連続的に変化しているにもかかわらず、人間の認知能力の限界のせいで、断続的にしか認識されない。
そして——99%。
その瞬間、次の数字の代わりに『【行政権移譲完了】』のメッセージが表示された。
引き続き、同じ工程が繰り返される。
「行政権」の文字だけが、「立法権」「司法権」「軍事権」「警察権」「徴税権」……と置き換えられていくだけの、
単調で遅い——しかし、何故か悪くない——連続処理だった。
暖かな空気。包み込むような椅子。
まぶたが自然と重くなり、その隙間から見える淡い期待が、現実の風景を一時的に覆い隠していた。
幻想と現実の境界が曖昧になりかけたその時、ホログラムを投影していた機械が音を発した。
幻想は剥がされ、現実へと強制的に引き戻される。
その無理やりな覚醒に、身体は一瞬の不快感を覚えたが、すぐに湧き上がる欲望がそれを打ち消す。
機械は、まるで役目を終えたと言わんばかりに、飲み込んでいた身分証を静かに吐き出した。
——それを受け取った瞬間、自分が何を得たのか、その意味が深く心に染み込んでいく。
そのとき、空間が変わったような気配とともに、重厚な足音が響いた。
ゆっくりと、しかし確実に近づく音。
やがてその距離がゼロになる瞬間、戸が開いた。
扉の向こうに現れたのは、一人の男。
彼の後ろには、メイド服と執事服に身を包んだ数人の男女。
しかし、その足音は一人分だった。
「ははは、君ももう偉い方の一員なのに、なぜそんなに頭が軽いのか。早く顔を上げなさい。」
男は金髪をなびかせ、穏やかな微笑みを浮かべながらそう言った。
その声色も、その身振りも、まるで舞台役者のように堂々としていた。
「そう、絶対権力を手にした気分はどうだ?」
「『独裁官』閣下。」
「酒でも飲みたくなる気分です、執政官閣下。」
最大限、抑えた言葉で答える。
「ははは、そうか。おめでとう。
……だが、酒は後だ。今日は出発準備で忙しいだろう?」
男の表情に、ふと薄氷のような真剣さが差し込まれた。
「肝に銘じておけ。なぜ、古の文明の官職を蘇らせ、それを君に託したのか。」
「承知しております。皇帝陛下が私に与えた使命、決して忘れません」
「君が『独裁官』として権限を振るえるのは、帝国標準時間で2年——
到着次第、『時間調整器』を作動させろ。」
「従います、閣下。」
「当該地域における不安が収束し、帝国の行政権に安定的に組み込まれたと、帝国政府……いや、より正確には陛下ご自身がご判断なされた場合、
その時点で『独裁官』の権限は全て回収されることとなる。」
「そのために、全力を尽くします。」
執政官フラウィウスは再び穏やかな笑みを浮かべた。
「言葉と違って、顔に少し影が見えるな。」
そして、ふと真顔に戻る。
「……その影が怒りではなく、憂鬱であることを願うよ。私が、それを押し潰す前に。」
「では——惑星独裁官『エレボン』公。幸運を祈る。」
その言葉を最後に、執政官とその随行者たちは静かに去っていった。
その足音が完全に消えたとき、彼は振り返って——
「ふざけて座ってるんじゃない。」
誰にでもなく、ただ独り、そう呟いた。
◆
「2年? 権力を回収? そんなはずがないじゃないか。この老いぼれめ。」
先ほどとは明らかに違う態度で同一人物に話した私は、執政官の霊感が消えたしばらく後、建物を出た。
とんでもない話だ。
私がここまでどうやって来たのか。
2年ぶりに戻ってくるか、途中で強制回収? ふざけるな。
私は永遠に作って食べるって。
人類史上、最も強力な国家の心臓からどうしても口に出せない考えを、唯一帝国の目と耳が届かない空間である脳の中に押し込み、家に向かった。
「誰がこれを貴族の邸宅だと思う?」
この家を見るたびに浮かぶ思いだ。
貴族どころか、裕福だという商人の端くれさえも、これより大きな家に住んでいる。
知らぬ間に貴族の邸宅っていうのは、メイドさんと執事さんがずらりと並んでて、大きな庭が付いててそういうことでしょ。
鎧を着たがっしりした男たちが鉄桶のように守ってね。
でも、俺の目の前にある薄暗い空間には、そんな贅沢どころか、兄弟、父、母ですら……。
俺の家は、俺が生まれてから今まで、このつまらない空間で変わったことがなかった。
父も、祖父もそうだったという。
歴史書に名前があるある戦争で列を間違えたりとか、そういうことらしい。
しかし、憂鬱な思いはすぐに燃え上がるように消えた。
これを燃やす炎の名前はおそらく権力だろう。
「そんな苦い過去ももう終わりだ。このこじきのような家ももう終わりだと」
家で持っていくものを全部持って行った後、家を出た。
ドアを閉めることも、いや、最初から閉めることもなかった。
どうせもう来ないんだから。
乞食とか獣とか書くなら書けって言って。
帰らぬ旅に出た先にあるのは、第12-1外惑星走行港。
遠くから自慢の風采が目に入った。
乞食のようだった空間との対比が作り出した急激な感情変化を表情で隠すことができなかった。
それに近づく車の速度が遅く感じられた。
時代がどの時代なのに車輪で鉄の塊を転がしていることに情けない。
他の大貴族が乗る浮遊車の速度が特に羨ましくなる瞬間だった。
そんなにゆっくり近づいてみると、その子は一人ではなかった。
その前にうれしい影が立っていた。
「船長、お待ちしておりました」
顔の輪郭が見えるやいなや大声を上げるように喜びながら近づいてきたのは、レイルスという壮大な男だった。
私の直属の部下であり、レテウスというおじさんが起こした反乱を鎮圧する時、何度か彼に命をかけた。
この男だけでなく、ここにいる見慣れた顔たち皆が私の部下なのだ。
「レイルス中隊長、呼称を直してください」
レイルスの一歩後ろから迫ってきたのは上士階級の「ユリア」だった。
彼女の距離に比例するように、人工的な花の香りが空気中に広がった。
「エレボン様は独裁官に任命されましたから」
「しかし操舵長、エレボン様は依然としてこの船の艦長を兼ねていらっしゃるじゃないですか」
「そうですね。この船の艦長はエレボン様しかいないのではないでしょうか」
いわゆるレンドルプスも大尉の言葉に同調した。
「同じ将校だからといって味方するんですね。いずれにせよ、ようこそ、独裁官閣下」
「ユリア閣下」という言葉に力を入れて言った。
「私はようやく閣下が能力に比例する地位に上り詰めたことが何よりもうれしいです」
「ありがとう。」
「ただ……」
「ただ?」
「なぜよりによってその地域なのかは不満があります……」
「なるほど、実は私もそうなんだ。でも、そんなところでも領地じゃないか。私の土地じゃないか」
「閣下がよければ私もどうでもいいですか……」
ユリアの適当にきれいな顔に不快感がにじみ出ていた。
歓迎の群衆の後ろで私の誇り高き鉄の怪物が咆哮し始めた。
「早くニックスにお上がりください。出航に対するすべての準備が終わりました」
私はこの上なくうれしい気持ちでその怪物に食われた。
怪物の内部は秩序整然とした中で機械音が時々聞こえるだけだった。
部隊員たちに「私を迎える時間に航海の準備をしろ」と命じたためだろう。
「きっとその命令は君たちにも伝えたはずなのにね。」
「すみません、艦長。でも、」
「こんなにいい知らせに喜んでくれる人が一人もいないのは、閣下も嫌じゃないですか。」
「今日だけ特別に見てください。」
「……なに、そうしようか」
どうでもいい、そう、この気持ち、この場所、この人たちと一緒ならどうでもいい、そんな感情だった。
将校と副士官たちはそれぞれの区域に戻ったが、ユリアと何人かの幹部たちは私について艦橋に入った。
まあ、当たり前だろう? 航海担当だから。
あらゆる機械で乱雑で複雑に見える空間だと、最初は思った。
暗い空間に比べて過度にきらびやかで変な光を放つパネルとうるさい駆動音を少しも止まらない鉄の塊。
しかし、今はただこの冷たいものがただ良い。
しかも犬や猫のように可愛く感じるほど。
こいつらよりあの年寄りみたいな人間たちがずっと複雑だ。
複雑な光と音が飛び交う中で、最も巨大なパネルだけは眠るように静かだった。
私は手袋を外し、パネルの真ん中に手を当てた。
彼に驚いたように目覚めたそれは、一番朝寝坊なくせに一番うるさくて騒々しく輝き始めた。
《指揮権認証完了。航海を始めます》
聞き慣れた声と案内メッセージ。
《目的地を入力してください。》
次の瞬間、投影されたホログラムに映し出されたのは、「帝国伝道」と呼ばれる巨大な領域だった。
人類の繁栄そのものを象徴するこの空間は、横にも縦にも、果てがない。そして、それだけではなく、奥行きさえも持ち、平面の地図には収まらない構造となっている。
無数の天体と文明の光が並ぶその奥に、ぽっかりと広がる漆黒の闇があった。
それこそが、帝国の未定福祉地域――未開拓地だ。
いくら帝国が強大でも、宇宙全体に比べれば砂粒にすぎない。宇宙全体の写真を撮ったとすれば、帝国の領域は見えさえしないだろう。
そんな当然の事実のはずが、まるで気づいていないかのように、人類は光の境界を突き抜けてなお、前へ前へと進もうとしている。
その中で、ひときわ異彩を放つ、黒い塊があった。
それは旧式の、欠片のようなごく小さな形をしており、その区画の残りは広大な闇へと接していて、同じ色であるがゆえに境界すら認識できなかった。
帝国の地図上でその場所に記された検定は、ただひとつ。
「情報なし」
そこが何なのか、どんなものがあるのか、なぜ何も分からないのかさえも、分からない。
そしてその闇の区画を取り囲むように、すべての天体が赤く塗られた一帯があった。
そこは、かつてその闇から何かが出てきて影響を及ぼしたとされる地域――
つまり、名目上は帝国領であっても、すでに行政力を喪失した地帯だった。
その赤の縁に、一つだけ光る点があった。
そこが、帝国の行政力がかろうじて届く最後の惑星――私に与えられた領地、「エリス」だった。
帝国の《インペリアル・ハイウェイ》が接続されていることに安堵しつつ、自動航行装置を作動させる。
そのとき、ユリアの表情の隅に一筋の闇が走った。
それは、私がかつて老人の前で覗き見た幼稚な闇とは異なる、もっと別の深淵に属するものだった。
「本当は申し上げたくなかったのですが……あのような地域を領地として授かったというのは、もはや「栄誉」ではなく、「粛清」では……」
「分かっている。」
戦前の皇帝――征服君主として名を馳せたその在位期まで、帝国はこの「赤い地域」、すなわち《レッドエリア》の行政力を取り戻すため、さらに先に広がる
だが、結果はすべて「消失」だった。
攻撃されたのか? 宇宙的な災害か?
分からない。
なぜなら、通信も、艦船も、人員も、何一つ帰ってこなかったからだ。
その後、帝国はこの地域の探査を断念した。
最近発行される帝国地図の中には、最初からこの地域を《ブラックエリア》と表記しているものさえある。
そんな中で、私に下された命令はこうだ。
「この地域の混乱を鎮圧し、帝国の行政力を回復せよ。」
命じたのは、他でもない――皇帝その人だった。
断れない理由はそれだが、私にはもう一つ、別の理由があった。
あの、こじきのような実家の有様を、私は思い出した。
「それでも、領地が欲しかったからな。」
「お任せください、閣下。」
ユリアとは対照的に、自信に満ちた声と態度でそう言ったのは、命令伝達将校・ソルフス中尉だった。
レイルスと同様、がっしりした体格の彼は、通信機越しの命令伝達にしては過剰なまでの白兵戦能力を備えていた。
「ソルフス中尉が戦うことにならなければいいのですが……」
そう、私も同感だ。
彼が戦うということは、この艦橋にまで敵が迫り、白兵戦が繰り広げられるということなのだから。
彼の好戦的な笑みは、私には良い兆しには見えなかった。
◆
執政官室の空気は、いつも通り穏やかで暖かかった。
人間はもちろん、宇宙人でさえも、この空間を嫌う者はいないだろう。
気温だけでなく、香り、光、そして空間そのものに漂う威厳――
これ以上に豪奢な場所があるとすれば、皇帝の私室くらいだろう。
その部屋の主、執政官フラウィウスは、エレボンの前で見せていた威厳ある姿とは打って変わって、ただの少し若々しい老人の顔へと戻っていた。
彼を補佐するメイドや執事たちは、大きなソファでくつろぐ彼を、まるでベッドのようだと混乱しながらも、ただ静かに立っていた。
夢のようなひとときだった。
しかし、その静寂を破るように、ドアをノックする音が響いた。
メイドがドアを開けると、そこにいたのはフラウィウスよりもわずかに老けて見える男だった。
「フラウィウス。彼は、もう出発した頃だろう。」
この帝国で、皇帝を除く名目上の最高権力者――執政官。
そんな存在を気軽に呼び捨てにできるのは、おそらく同じ立場にある者だけだ。
そう、目の前に立つ帝国のもう一人の執政官――セルウィウスのように。
フラウィウスも、訪問者が長年の友であることを内心喜んだ。
いくら慣れていようと、上役の演技というのは、疲れるものなのだから。
「本当に、行き先があの世じゃなければいいけどね。」
フラウィウスは腕枕をしながら苦笑した。
「だが、陛下のご意志は気になるな。なぜあんな地域を、しかもあれほどの権限付きで彼に渡したのか。」
セルウィウスは、勅命調書の写しを弄びながら言った。
そこには、エレボンに下賜された命令と、皇帝の印章が確かに刻まれていた。
「最後の人材をあの地域に送ってから、すでに百年が経ったと聞いているが。」
「だからさ。あまりに多くのことがあって、その地域まで手が回らなかった。これからも、未知の地への関心は限界があるだろう。既知の領域ですら手一杯なんだからな」
「つまり……反逆者の家の出である彼に任せて、放っておくってことか。」
「その通りだよ。若者には酷な話だが、気分よく受け取ってくれたのがせめてもの救いだな。」
「まったく……また起きたんだな。」
詳細を語る必要もなかった。すでに、理解していたからだ。
「……飽きもせずに。もう、この老人を休ませてくれ。」
「体が大きすぎて、手足が反旗を翻すようでな。」
セルウィウスから文書を受け取ったフラウィウスは、ため息混じりに上体を起こした。
「さて、早く陛下に拝謁しに行かねばな……」
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