第2話 解析眼の覚醒〜修行の日々と最初の試練〜
廃墟の中は静寂に包まれていた。
壁一面に描かれた魔法陣、崩れかけた書架、散乱した巻物や装置の残骸。かつて栄えた魔導文明の名残が、ここにはあった。
「……これは魔法理論……いや、もっと精密なものか」
《解析眼》が起動している間、レンの視界には文字と記号の意味が自動的に解析されて表示される。
触れるたびに知識が流れ込む感覚は、脳が焼けそうなほど強烈だったが、レンは貪るように読み続けた。
そこにあったのは、『魔術回路』と呼ばれる理論体系だった。
通常、魔法とは魔力量を回路に流して初めて発動する。しかし、書物の一つにこう書かれていた。
《外部エネルギーによる回路通電、および再現魔術》
《魔力量ゼロの個体における導術実験例》
「……やっぱりいたんだ。俺みたいなやつが」
希望の光が灯る。
レンはそこに記されていた方法――“導術”という技法を試してみる。
体内魔力の代わりに、大気中の魔素を吸収・制御し、術式に流す。
何度も失敗した。術式は破裂し、爆風で壁に吹き飛ばされ、灰まみれになった。
だがレンは、転生して初めて“自分にしかない才能”に触れた気がして、笑った。
「失敗しても、原因がわかる……修正できる。これは、俺の力だ」
何十回もの試行錯誤の末、小さな光球が空中に浮かび上がった。
《導光(ルクス)》、初歩の光魔法。
魔力量ゼロでも、理論と技術で魔法は再現できる。
「……やれる。やれるぞ、俺は……!」
手を伸ばした先にあった“絶望”が、ほんの少しだけ、“希望”に変わった気がした。
目覚めるたびに、全身が悲鳴を上げる。
筋肉痛、魔力の暴走による熱、そして知識を詰め込みすぎた頭の痛み。
だが、レンは笑っていた。
「今日は《導火》の精度が1.8倍……次は、複合術式だ」
遺跡に残された書物、装置、古代語の碑文――
《解析眼》がなければ到底読めない難解な資料を、レンはひたすらに読み解いた。
魔力量ゼロで魔法を発動させるには、三つの要素が必要だった。
一つ、緻密な術式の設計。
二つ、大気中からの魔素吸引の技術。
三つ、集中力と制御力の限界突破。
何百回と試作と失敗を繰り返しながら、彼は“知識”を“技術”に変えていった。
「今度こそ……!」
大地に描いた魔法陣が淡く光る。
地表を走る光の線が交差し、空気が揺らぐ。
「《火弾・改(ファイアブラスト)》!」
レンの叫びと同時に、空間を穿つような炎の弾丸が飛び出し、遺跡の壁に直撃して爆ぜた。
轟音。熱風。石片が飛び散る。
しかし、レンの口元には確かな自信が宿っていた。
「……成功、だ」
やっと、“戦える魔法”を手に入れた。
それから数日後。
遺跡に侵入者が現れた。
黒いローブをまとった三人の盗掘者。
遺跡の宝を奪うために潜入してきた連中だった。
「なんだ、ガキか? ……殺しておくか」
魔法を使えぬ“無能”と侮られたレンは、初めての殺気に背筋を凍らせた。
足が震える。だが、逃げなかった。
(……ここで逃げたら、また無力なままだ)
恐怖を押し殺し、レンは詠唱した。
「《光閃(フラッシュ)》!」
目くらましの光が空間を貫き、敵の視界を奪う。
次の瞬間――
「《導爆陣・連式》!」
足元に描かれていた複数の魔法陣が連鎖起爆し、爆風と土煙が舞い上がる。
咄嗟に展開した《防壁・簡》で衝撃を防ぎながら、レンは走った。
「こいつ、魔力量ゼロじゃねぇのか……!?」
「くっ、囲め!」
魔力量はゼロ。だが、《解析眼》がレンにすべての魔法の“動作”を教えてくれる。
術式の隙も、展開速度も、魔力配分も――彼には見えている。
「……お前たちより、魔法のことを知ってるのは俺だ」
最後の一人が倒れた時、レンは膝をつき、荒く息を吐いた。
だが、その顔に浮かんでいたのは、戦いを生き延びた者の誇りだった。
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