『無能と呼ばれた俺は、全魔法を“解析”することで最強になった』

すずきねこ

第1話 魔力量ゼロの少年

プロローグ


 生まれ変わりなんて、夢物語の中だけだと思ってた。

 まさか、それが現実になるなんて。


 ――ドンッ。


 雨の夜だった。

 アルバイトの帰り道、信号無視のトラックに撥ねられた俺は、空を飛ぶような感覚と共に意識を失った。


(……死んだ、のか?)


 気がつけば、暗闇の中で声が響いていた。


『如月レンよ。汝の魂は異界へと招かれた』


(誰だ……?)


『新たな世界にて、そなたは試されることとなる。これは運命であり、選定である』


 次の瞬間、俺の身体は光に包まれ、空間がねじれるような感覚が襲ってきた。


 ――そして、俺は異世界『エルディア』へと転移した。




...





「ようこそ、転移者よ」


 目を開けると、天井が高い神殿のような建物の中。目の前には、透き通るような金髪の女性が立っていた。


「私は女神アレイア。この世界にあなたを導いた者です」


 彼女の言葉は不思議と理解できた。魔法でも使っているのかもしれない。


「この世界・エルディアでは、魔力の有無こそが個人の価値を決めます。さあ、あなたの魔力量を測定しましょう」


 差し出された水晶に手を置く。ピクリとも光らない。


「……これは……?」


 神官が訝しげに眉をひそめ、もう一度測定を試みる。


 結果は――


「魔力量、ゼロ。完全なる無能者ですな」


「まさか、転移者が“空”だとはな……」


 嘲笑、失望、冷笑。人々の目が一斉に冷たく変わる。


 女神アレイアすら、申し訳なさそうな顔で口を開いた。


「申し訳ありません。選定は時に誤ることもあります。この世界で生きるのは厳しいかもしれませんが……どうか、せめて人々の役に立つ道を探して――」


 追い出された俺は、近くの村で居候を始めた。だが、そこで待っていたのも差別と冷遇だった。


「魔力ゼロの役立たずがまた増えたのか」


「働きもせず飯だけ食うな」


 村人たちの視線が刺さる。

 俺は何のためにここに来たんだ? 本当に“運命”なんてあるのか?



限界だった。

 ある日、耐えきれず村を飛び出した俺は、夜の森へと逃げ込んだ。


 死ぬつもりだった。

 だが、奇妙な石畳の道を見つけ、奥へ進んだ先――そこにあったのは、苔に覆われた石造りの建物。古代の遺跡のような雰囲気だった。


「……なんだ、ここは」


 天井には、見たこともない魔法陣が描かれている。

 好奇心に突き動かされ、壁のレリーフに触れたその瞬間――


 俺の目が青く光った。


《解析眼:起動》


「な、何だ……?」


 視界が変わった。

 壁に刻まれた魔法陣が、まるで設計図のように展開される。線の意味、魔力の流れ、動作原理――すべてが、脳に流れ込んできた。


(……見える。これは、“魔法”の中身だ)


 俺の中に知識が刻まれていく。


「……魔力量がゼロでも……構造が分かれば、俺にも……使える?」


 震える手で、地面に簡易魔法陣を描く。

 解析した火球魔法の模倣だ。


「――燃えろ」


 カッ、と空気が揺れ、火の玉が生まれた。


「……できた」


 俺は笑った。

 この力なら、俺でも……。


 たとえ“ゼロ”でも、理解し、再構築できるなら、

 ――俺は、必ず最強になれる。


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