adamの旅

@momo103

第一章 シェルター

 ここは地下にある小さな部屋。僕はここで一人で暮らしている。僕はなぜここに一人でいるのか分からない。目覚めたらこの部屋にいたのだ。部屋は円柱型になっており、部屋には部屋の半数を占めている本棚、キッチン、ブラウン管のテレビなどがある。本棚には小説や世界の歴史と語学、人と機械について、そして化学物質や地上の大気汚染についての本がある。キッチンには大量の保存食が置かれており、テレビはつけてみたが砂嵐しか映らなかった。天井はガラス張りになっており外の様子が見え、たまに黒い鳥が飛んでいるのが見えたりする。

 僕にはこの部屋に入るまでの記憶がない。多分、記憶喪失になっている。それでもなんとなく自分の置かれている状況は理解しているつもりだ。本棚にあった本によると、地上では大気汚染、地球規模の戦争、海面上昇などにより住める場所が減ってしまっている、とまるで神が人類を滅ぼそうとしているかの如く、人類への危機が起きていた。なぜ以前の記憶がないのかは分からないが、少なくともこの部屋にいる限りは安全なんだろう。ただ、外に出てみたいという気持ちも少なからずある。

 既に僕が目が覚めてから1ヶ月近く経ったと思う。やることが本を読むぐらいしかないので10000冊ぐらいあるであろう本をただひたすら読んでいる。中には内容がとても難しいものもあったが、なぜかすんなり頭に入ってきて読むことができた。まるで本に書かれている情報を元々知っていたかのように。そのため、もしかしたら本を読むうちに記憶が戻るのではないかと期待して読んでいるが、今のところ記憶は戻りそうにないのであった。

 そうしていつものように本を読み漁っていたある日。急にテレビの電源がつき、砂嵐が流れ始めた。僕はびっくりしてテレビを見つめる。すると「ザーッ」という音のなかから微かに言葉が聞こえ始めた。

「―おーい、聞こえているかー―」

相手はそう言ってるらしかった。聞こえているがそれを相手に伝える術がないと思っていると、

「―もし聞こえているなら赤いボタンを押しながら返事しろー―」

と微かに聞こえたので、僕は赤いボタン押しながら、

「ギリギリ聞こえてますよー、あなたは誰ですか?」

と返事をした。すると相手は

「―俺はシェルター番号(JPN089536631)の住民のイシダだ。きみのシェルター番号は?―」

参ったな。シェルター番号なんてどこに書いてあるか分からない。自分の名前すらも分からないのに。

「僕は記憶喪失してて分かりません。シェルター番号とは何ですか?」

「―なんだって?それは大変だな。テレビの底に番号書いてないか?―」

僕はテレビの裏を見た。すると裏には(JPN000001654)と書かれていた。多分シェルター番号はこれだろう。

「シェルター番号は(JPN000001654)みたいです、ところでイシダさん?、あなたは一体どちら様で…?」

「―別に怪しいもんじゃないよ?ただ趣味でいろんなシェルターの住人とコンタクトをとってるだけだ。―」

イシダは続けた。

「―他にはいるのか?君はそのシェルターに一人でいるのかい?―」

「このシェルターには僕一人しかいません、僕も何がなんやら分からなくて…」

「―そうか…まぁ寂しいと思うが頑張りな、もうすぐメンテナンスもあるのだろう?次はいつなんだ?―」

メンテナンス?なんだそれ?

「メンテナンス?とは何ですか?」

イシダは少しの沈黙の後、

「―まさかメンテナンスが来ていないとは…、ひどいな、残念だが君は見捨てられているようだね。かわいそうに―」

なるほど、シェルターのメンテナンスのことなのか。普通のシェルターには間隔をあけて

技術者が送られてくるのだろう。ならばメンテナンスを受けれてないこのシェルターは危険なのだろうか。

「―まぁ今日はこれぐらいにして、また話ししようや、君には話し相手が必要だろう?―」

確かに僕は目が覚めてからずっと孤独だった。かといって本を読んでいれば寂しさは感じてはいなかったのだが、やはり他人と話す時間というのはひとりの時間とは別のなにかがあった。まだよくイシダという男のことは分かっていないが、話し相手になってくれるなら悪いことではないと感じた。

「いいですよ、僕も一人は寂しいですし、こちらこそよろしくお願いしますね。」

「―あぁ、よろしく頼むね、それじゃあまた今度―」

そう言って通信は終わった。


 ここはイシダの住んでいるシェルター。前述の彼のシェルターと比べると、こちらのシェルターは性能が充実している。たくさん部屋があり、さまざまな電化製品や新鮮な食料が揃っており、一つの家のような造りになっている。イシダは通信を終え、隣の部屋のベッドに向かった。ベッドには歳をとった女性が横たわっている。病気を患っているのか、ひどく痩せており、目が覚めているのかいないのかも分からないような様子である。女性の横には半人形のロボットがおり、女性に薬を飲ましていた。イシダは女性に話しかける。

「今日ね、やっとカズヤのシェルターと通信が取れたよ。まぁ当然あいつはいなかったがね。代わりに”同居人”が出てくれた。」

女性は口を少しあけながら弱々しく頷く。

「可哀想だよ。聞くところメンテナンスを受けれていないらしい。きっと古いタイプなんだろうね。可哀想だよほんと。」

女性は頷きながら何かを喋りたがりそうにしているが、かなり辛そうだ。

「無理しなくていいよ。だいたいお前のいいたいことは分かっているさ。どうにかしてアイツの残したメモリを手に入れなければな。そのためには向こうから俺たちのシェルターにきてもらわなければ…」

イシダが言うと女性は小さく頷いた。



 (ザザザッ)

 テレビから突然砂嵐が流れ始め、僕は本を読んでた手を止めた。しばらくすると声が聞こえてくる。

「―どうもイシダだ、調子はどうだい?―」

「どうもイシダさん、良くも悪くもってかんじです。」

「―ならば良いのだろう、まぁ今日もしばらく話そうや。―」

イシダさんと初めて通信してから約2ヶ月くらい経った。彼はいい人だ。定期的に向こうから通信してくれて僕の話相手になってくれている。そして彼と話すうちに分かってきたことがいくらかあった。

 彼の年齢は72で彼より少し若い奥さんがいる。シェルターでは奥さんと二人で暮らしていて、奥さんは病気を患っており、もう長く無いかもしれないということだ。今イシダさんは奥さんの看病をしつつ、さまざまなシェルターの住人と通信を行なっているらしい。そして彼にはカズヤという生き別れの息子がいて、通信を繰り返すうちに息子のいるシェルターと通信ができるかもしれないと少しだけ期待しているそうだ。

 そしてイシダさんから今僕たち人類が置かれている状況についても教えてもらった。人口の増加により地球は汚染されてしまい、生存競争による戦争が各地で勃発し、使われた兵器により地上は人が住めない環境になりつつある。それで多くの人間は地下にシェルターを作り暮らしているらしい。大概のシェルターには1ヶ月から3ヶ月に一回、地上にいる業者がメンテナンスに来る。業者といっても地下から遠隔操作されて動くロボットがメンテナンスを行う。現在では人が地上に出ることは難しく、代わりにロボットが仕事をしているそうだ。本を読んである程度知っていたこともあったが、イシダさんから聞くことで新たな知識を得ることができた。

「―今日は何の話をしようか、人とロボットの関係とかどう?―」

「いいですね、何だか面白そうです。」

「―ロボットはね、人にとっては貴重な存在だよ。俺たちのためなら何でもやってくれるし、俺たちできないことでも何でもやってくれる。彼らには感情がないからな。まぁ俺たちが感情を持たないように設計しているだけだが。あの事件から…―」

あの事件って本に書いてあったやつのことか。感情を持った各地の業務用ロボットの集団が一斉にテロを起こしたっていう。

「―まぁあんなことがあってロボットを嫌う人間も少なく無いがね。俺はロボット好きだよ。実際うちのシェルターでも一体雇っているからな。―」

「僕はロボットについてはよくわかりませんが、人類の発展には必要な存在だとおもいますね…」

ロボットしかり機械は人の手によって作られるもの。だから人のために動かされるのは当然の事であり、人のように感情を持つ必要性もないだろう。でもなぜか、僕はロボットから感情を排除した人類に嫌悪感を抱いている。それに人のためにただ働かされるだけの存在にされてしまっていることも。

「現在のロボットみたいな、感情のない僕たち人間のためだけに尽くす存在って、なんだか不気味に感じます。彼らに感情がなくなったことも可哀想で。」

「―そうだな。感情があるのとないのでは全く違うものになってしまう。俺は感情がある時代のロボット達の方が好きだったよ。理由は君の考えていることとほぼ同じだな。―」

「テロを起こしたロボット達はどんな不満があったのでしょうか。人間にこき使われ続けた事でしょうか。」

「―それもあるだろうし、ロボットはあくまで人間によって作られた存在だから、そういうところに憤りを感じてたんじゃないかな。まぁ人間からしてみたらロボットは自分達の都合の良いように働いてくれる”道具”でしかないからね。―」

「テロを起こしたロボット達の主張って確か、”ロボットに人権を”でしたよね?」

「―あぁ、だからテロの鎮圧のあと都合が悪いと思った人間は感情を持つロボットの製造を禁止したんだよ。感情を持つロボットも処分対象にして排除しまくっていたな。―」

 その後も僕とイシダさんは人間とロボットについて1時間くらい話し合い、通信を終えた。通信後も僕はしばらくの間、人間に対する嫌悪感を強く感じていた。自分で不思議に感じるほどに。



 今日はイシダの妻はデイサービスの日なので、シェルターにはイシダ一人とロボット一機である。通信を終えた後、イシダはパソコンに日記を綴っていた。

2154年 6月8日 

“カズヤの誕生日まで残り10日。今日もカズヤのシェルターと通信をした。相変わらず同居人がでてくれて、今日は人間とロボットについて深い深い話をした。彼は感情豊かで知識もある。カズヤも彼なら良い話相手になると踏んでいたのだろう。カズヤは人と関わるのが苦手だったから、その点も彼なら都合がいい。

今日彼と話をして確信に変わった。彼は通信で”僕たち人間は”と言った。彼はロボットなのに。やはり彼には自身がロボットだという自覚がないみたいだ。感情があるだけに真実を知ればきっと辛いだろう。彼の同居人になるはずだった人間がもしかしたらもうこの世にいないということも言いたくはない。たが、こちらに来てもらうには真実を伝えるしかないだろう。もう少し考えたいが、あまり時間はない。早くどうにかしなければ”

日記を書き終えたイシダに給士ロボットがお茶を運んできた。イシダは「ありがとう」と呟いたが、ロボットは無反応で隣の部屋の清掃に向かっていった。

「うちのロボットにも感情があればな…」



 このシェルターにある本も、もうすぐ全て読み終わりそうで、僕は寂しさを感じていた。今日は雨が降っているようで、シェルターのガラス張りの天井には黒い雨粒が落ちてきており、雲の間からの若干の月明かりに照らされて黒く光っている。雨の音は落ち着く。こういう日は本を読むにはぴったりだが、この本棚の本をまだ読み終えたくないということもあり、なんだか複雑な気分だ。

 なぜ僕には記憶がないんだろう。これまでは理由なんてあまり考えてなかったのに、最近すごく気になり始めた。イシダさんと話しているからだろう。きっと彼と話しているうちに、相手のことをだけではなく自分のことにも興味が湧き始めているのだろう。どうすれば記憶を取り戻すことができるのか。何か以前の僕に関する手がかりがあれば良いのだが。少なくともこの狭いシェルターの中にはなさそうだ。イシダさんと話をしても、彼は以前の僕のことは知らないだろうから望みは薄い。でもなぜ僕のことを知らないのに、僕のシェルターにコンタクトが取れたのだろう。偶然僕のシェルターに繋がっただけだろうか。それともこのシェルターのことを元々知っていたのだろうか。もし後者ならイシダさんは僕について何か知ってつつ、隠して話しているのかもしれない。彼が隠し事をしているなんて思いたくないが。そもそも本来このシェルターは僕一人のためのものだったのだろうか。もし同居人がいたのだとしたらなぜ今僕は一人なのだろう。同居人はどこに行ってしまったのか。イシダさんはそれらのことを知っている?次にイシダさんから通信が来たら聞いてみよう。僕のことについて本当は何か知っているのではないかって。

 なんか体が重くなってきている気がする。本の読み疲れだろうか。今日はもう寝よう。充電ケーブル…に繋がらなければ。


あれ?…充電ケーブルって…なんだ?…そういえば…いつも僕は、どう…やって寝てる…んだっ…け…


…『プログラムデータ#adam-ki2205の再インストールを開始』…



 イシダはパソコンに日記を綴っている。

2154年 6月18日

“今日はカズヤの誕生日だ。俺は息子のことを誇りに思っていた。殺伐とした世間の中、ロボット研究の第一線で活躍していたカズヤは、人類の希望となり得る人材ともてはやされ、何者でもない俺たち夫婦も天才を生み出した親として、世間から羨望の眼差しで見られていた。カズヤが旧式ロボットが起こしたテロの勃発に関わったことが世間に広まる前までは。

元々人間嫌いだったカズヤは、感情を持つことができ、かつ人間のような醜い感情を持たない存在であるロボットを作り、世の中に広めたいという夢を持っていた。その夢をもとにカズヤはロボット研究を始めた。カズヤは好きなことには、周りが見えなくなるほど没頭できる性格だった。最初は感情を持つロボットなど必要ないと笑っていた周りの研究者も、次第にカズヤの熱量に感化され、カズヤの周りには優秀な人材が集まるようになり、ついにカズヤは優れた感情をもつロボットの開発に成功した。カズヤ達が世に出したロボット達は、度重なる戦争や不景気で疲弊した人間を癒すことに成功し、世界は一時的に平和を取り戻した。

 しかしロボットが世間に溢れるのを良く思わない人間もいた。ロボット達を差別し、ロボット達を奴隷のように扱う人間もいた。次第にロボット達は人間によって妨げられる存在になっていった。カズヤによって生み出されたロボット達に感情があった分、ロボット達も辛い思いをしていただろう。そして事件が起きてしまった。世界各国の感情を持つロボット達が一斉にテロを起こしたのだ。ロボット達は各国の主要都市を狙ってテロを起こし、一時的に世界はパニックに陥いったが、ロボットの機能を停止する超音波が開発され、テロはしばらくして鎮圧された。この超音波を開発し、世界に提供したのはカズヤである。これによりカズヤはテロの鎮圧に貢献した英雄だと思われたが、しばらくしてカズヤに関する噂が世界に広まり始めた。その噂とは、テロの勃発から鎮圧まで、カズヤが仕組んだことだったのではないかというものだった。根拠としては、テロ勃発からの超音波の発表が5日とあまりにも早かったこと、そしてそもそもテロを起こしたロボットの開発者がカズヤであったことだった。

 カズヤは醜い人間が嫌いだと言っていた。カズヤは人間を手助けし、癒すことができる感情を持つロボットを世界に放つことによって、人間の醜い所を取り除こうとしていた。しかし結局は人間の生活が良くなる止まりで、醜さは変えることができなかった。自分の都合の悪い存在や、自分より下の存在を妨げる人間の習性の対象の「一部」が、ロボットに変わっただけであった。それをカズヤが嘆いていたことは間違いないだろう。ともかく世界に広まった噂は瞬く間にカズヤを悪者にした。噂が広まり始めたころからカズヤは行方を眩まし、俺達家族とも連絡が取れなくなってしまった。しかし俺は今もカズヤはテロには無関係だと信じている。自分の息子が悪者だと思いたくはないだけかもしれないが、そもそも噂の広まり方が異常だったのだ。各国のメディアは毎時カズヤがテロに関わった犯罪者だと報じ、政治家や影響力を持つ人間もカズヤを非難し始めた。きっと世界のお偉いさんからの圧力があったに違いない。彼らにとって影響力の強すぎるカズヤは邪魔な存在だったはず。俺が一連のことを「噂」と言っているのには理由がある。証拠がないのだ。カズヤがやったという証拠が。それなのに世間はカズヤを悪者にした。俺はもう家族以外誰も信じられなくなった。世間を恨みながら死ぬだろう。

 最近嫁の病気の進行が早くなっている。とても辛そうだ。もう、長くないのかもしれない。もっとも俺もいつ逝ってしまうかわからない。だからこうして俺の知っていることと思いを記しておく。そしてもしカズヤがこの日記を見つけた時のために綴っておく。


カズヤ、誕生日おめでとう。俺とお母さんは死ぬまでお前のことを愛している。

カズヤに会いたい。,,



 テレビから砂嵐が鳴り始めた。イシダさんからの通信だ。

「イシダさん。こんにちは。」

「―あぁ。久しぶりだな。元気だったか?―」

なんか今日のイシダさんは元気がない。疲れているのかな?

「大丈夫ですか?いつもより声に元気がないように聞こえるのですが。」

「―少し嫁の具合が悪くなっていてね。看病疲れってやつさ。―」

「それは大変ですね。少しでも良くなればいいですが。」

「―もうあまり長くないかもしれない...―」

「そんなこと言っちゃ駄目ですよ。看病が大変なのは分かりますけど。」

「―そうだな。すまなかった。―」

イシダさん、大変そうだな。でも奥さんのことは仕方ない。ロボットでない限りいつか終わりは来るのだから。

「―君は調子はどうなんだ?―」

「なんともない。と言いたい所なんですけどね...」

「―ん?どうしたんだ?―」

「イシダさんがなぜこんなにも熱心に僕に通信をしているか分かったんです。」

「―え?…―」

お互いに沈黙が続いた。しばらくしてイシダさんが口を開いた。

「―そうか。とうとう...やっと気づいたんだな。―」

「はい。僕に内蔵されていたカズヤさんからあなたに向けたデータを見つけました。中身はロックがかかっていて見れませんでしたが。」

「―そうか。やはりあったんだな。そのデータは俺じゃないと開けれないようになっているはずだよ。―」

「イシダさんの指紋が必要なみたいですね。」

少しの沈黙の後、イシダさんが口を開く。

「―どのようにして自分がロボットだと気づいたんだ?―」

「寝ようとした時に。バグなんでしょうね。気づいた途端今まで見えてなかったものが見え始めました。充電ケーブルにキッチンに置かれた大量の燃料、そして金属でできた自分の体。記憶なんてあるわけないですよね。僕が最初に起動したのがこのシェルターなのだから。」

「―君は自分が人だと感じるようにカズヤにプログラムされていたのだろう。だから都合の悪いものは見えなくなっていた。俺から君に真実を伝えてもよかった。でもそれじゃあ君が不憫だと思ってね。もし自壊でもされたらって。だから君が自分から気づけるようにロボットの話をしたりしてたんだよ。―」

やっぱり最初から僕がロボットだと気づいてたんだな。

「イシダさんと通信をしなければ気付けなかっだ気がします。正直ショックでした。自分が人によって作られたものだったなんて。そして作った人がイシダさんの息子だった。」

「―あぁ、理由はなんであれ、騙していてすまなかった。―」

謝る必要なんてない。僕はイシダさんに感謝している。

「別に恨んでなんかいませんよ。カズヤさんから僕に対する使命も分かりましたから。」

「―出るんだな。シェルターを。―」

「はい。僕に課された使命は、内蔵されたデータ、カズヤさんからイシダさんに渡したいデータをイシダさんのシェルターまで届けにいくこと。なのでイシダさんのシェルターの座標を教えていただけますか。」

「―北緯35度、東経139度だ。こちらにこれるか?―」

「はい。そちらに向かいます。少し時間がかかると思いますが、急いで向かいますよ。」

「―正直なところ早くきて欲しいが。急がなくてもいいよ。外は危険だ。無理をして何かあって死なれたりしたら。―」

「”壊れたり”でしょう?僕はロボットなんですから。」

「―いや、君は限りなく人間だよ。俺は君に死んで欲しくない。―」

「ありがとうございます。嬉しいです。なら出来るだけ急ぎめで。」

「―あぁ、よろしく頼むよ。気をつけてな。―」

「はい。今度はテレビ越しではなく実際に会ってお話ししましょうね。」

こうして僕とイシダさんの最後の通信が終わった。



 僕の内部データにはシェルターから出る方法が入っていた。これまでは見えていなかったが、キッチンの下に隠し扉があり、そこから階段を登ると地上に出れるらしい。このシェルターにはもう帰ってくるか分からない。お世話になったシェルターに感謝を念じながら隠し扉を開けた。

 僕は知りたい。カズヤさんがなぜ僕にデータを託したのか。イシダさんに向けたデータの内容はなんなのだろうか。カズヤさんはどこにいるのか。そのためにはこのシェルターをでて、イシダさんの元に向かわなければ。階段を登っていき、地上に出た。

 地上の光景を見て、僕は絶句した。辺り一面生き物は居なくなり、植物も枯れている。そして所々に元々ロボットであったであろう機械の破片が落ちていた。建物も崩れてしまっているものがほとんどで、まわりが砂だらけで色がない。まさに文明の滅亡を感じさせるような光景だ。でも、進んでいくしかない。イシダさんのために。カズヤさんのために。そして僕自身のために。

僕の使命を果たすための旅が始まった。

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