第二章 再会編

第6話 激流の中で⋯

▽第二章 再会編▽


 崖から突き落とされ、激流の中で必死に藻掻いていると、脳裏に二つの言葉が浮かんできた。


(『今世』も『溺死』するのか……)


 その言葉が浮かぶと同時に、頭の中に違う記憶が蘇ってきた。


 前世の僕は【斎藤 輝人】15歳の高校生だった。教育熱心な両親に育てられ、中高一貫の超進学校に通いながら、剣術家だった祖父の道場で剣術を学んでいた。僕は頭脳明晰でスポーツ万能だったため、周りの人からは万能の天才などと呼ばれていた。


 そんな僕が溺死した理由、それは川で溺れる少女を救おうとしたからだ。決して泳げないわけではなく、人並み以上に泳げる自信はあったのだが、溺れた人を救助することに失敗して、15年という短い生涯を終えた。


「ごふっ、がはっ! こんなところで死んでたまるかっ!」


 激流に飲まれ、必死に藻掻くが体は浮かぶことなく沈んでいく。力むことが浮力を阻害していると気づいたので、全身の力を抜き流れに身を任せてみた。すると『ふわっ』と体が浮く感覚を覚えたので、そのまま流れに身を任せることにした。


「はぁ、はぁっ、わっぷ。流れが落ち着くまでこの状態をキープだ」


 激流に身を任せているので、多少の浮き沈みがあって水を飲むが、十分な呼吸は確保でき命の危機を脱することができた。しばらくすると流れが緩やかになったので、そこからは自力で泳いで岸にたどり着くことができて、ようやく一息つくことができたのだった。


「ふぅ~、溺死は回避できた~! 連続で溺死なんてシャレにならないもんな。そういえば一緒に追放された人はどうなった?」


 僕と同じく、異端者として追放された人のことを思い出したので、川の方へ目を向けると『プカプカ』とうつ伏せで浮かぶ姿を視界にとらえた。


「あっ……、成仏してください」


 そう言うと、名前も知らない間柄だったけど、両手を合わせて冥福を祈る。初めて死体を見たというのに全くショックを受けない? この辺りは転生した世界の標準仕様なのかな? 深く考えても仕方がないので、気持ちを切り替えてこの先のことを考えた。


「少し休んで集落を見つけないとな。あんな息苦しい家から出れたんだから、これからの人生を存分に楽しもう。でも、ジュンはどうしているのかな? 僕が異端者だったなんて聞いたら驚くだろうな。連絡手段がないから、無事だという連絡もとれないし。ここは穢れの地と呼ばれる辺境の国だし、もう二度と会うことはないだろうけど、もし再会することがあれば謝ろう」


 婚約者であるメリージュンのことが脳裏に浮かんだけど、今の自分ではどうすることも出来ないので、人が住む集落を探すために歩を進めたのだった。


§小桃の一言§

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