戦国タイムスリップしたけど、俺何も出来ないんだが?
飯田沢うま男
第1話 霧の向こうは戦国時代でした
そんな彼が、その日に限ってふらりとコンビニに向かったのは、たまたま冷蔵庫のアイスが切れたからだった。
「……さて、帰るか。」
買い物袋を片手に、ぼんやりと歩き出す。しかし、視界が突如、真っ白になった。
濃霧。そう呼ぶにはあまりにも濃く、息を吸うのもためらうほどだった。
慌てて来た道を引き返そうとしたが、どこまで歩いても家も道路もない。代わりに、霧が晴れた瞬間、目の前に現れたのは──
「……城?」
映画のセットのような巨大な城。呆然と立ち尽くしていると、背後から声がした。
「そこの男、何をしている?」
振り返れば、侍。しかも、めちゃくちゃ立派なヤツ。地味なのに華やかな着物、刀、鋭い目つき──現代人のコスプレでは到底真似できない。
「え、えっと……家から出て、すぐ戻ろうとしたら……」
自分でも信じられない話を、正直に伝えるしかなかった。どうせ信じてもらえないだろうと覚悟していたが、侍はじっと優也を見つめ、ため息をついた。
「お前がどこから来たのかは知らぬが、今は戦国の日本だ。」
「戦国……?」
言葉が飲み込めなかった。だが、侍はまっすぐ彼の目を見て名乗った。
「俺は伊達政宗の家臣、片倉小十郎。お前のその風体では目立ちすぎる。まずは城へ来い。」
言われるがまま、優也は城へ向かった。石畳の道、時折通りすぎる農民や足軽の視線。すべてが現実とは思えなかった。
「どうしてこんなことに……」
心の中で繰り返しても、答えは出ない。だが、もう引き返せないのだと、ぼんやりと理解していた。
やがて城門をくぐり、小十郎が言った。
「ここで待て。政宗様に報告してくる。」
取り残された優也は、重厚な木の壁に背を預けたまま、知らない世界の空を見上げた。
しばらくして小十郎が戻ると、表情が少しだけ和らいでいた。
「政宗様が会ってくださる。来い。」
中へ案内されると、畳と障子の奥に、堂々たる一人の男がいた。隻眼に眼帯。着物に洒落た羽織。まさに歴史の教科書に載っていたあの人だ。
「この人が……伊達政宗……?」
緊張で喉が渇く。だが政宗は、興味深げに優也を見て言った。
「奇妙な風体の男よ。名は何だ?」
「優也です……」
「優也か。何やら不思議な雰囲気を感じる。お前の話、聞かせてもらおう。」
優也は深呼吸し、意を決して口を開いた。
「俺は……未来から来たんです。信じてもらえないかもしれないけど……」
彼の言葉を、政宗は黙って聞いていた。
それが、すべての始まりだった──
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