わかりやすく美味い油そば

 ある日のこと、知人から興味深い話を聞いた。


「ウチの近くに油そばの有名な店があるんだけど、超美味しい」


 へー、それは興味深い。

 私は店の名前を聞きマップで検索をかける。

 自転車でだいたい20〜30分か。まぁ行ける距離だな。

 帰宅した後に向かうか……そう考えていたところ、帰宅し、自転車で向かって到着する頃は営業時間ギリギリになってしまうことに気がついた。


 うーん……休日に行くか……。




 休日になり、昼過ぎに目を覚ます。

 寝ぼける目をシパシパさせながらも、行くか……なんてことを考えるとこれまた到着する頃には昼の営業時間が終了しそうな時間だった。

 どうしてこうなるんだ……。

 夜にするか……。




 くだらない艱難辛苦をのりこえて夜になり私はいざくだんの店へと向かった。




 到着すると有名店とあることもあり、普通に人は並んでいた。

 だがそんな物怖じするほどではなくその列へとすんなりと入っていく。

 程なくして店内へと入店し、そこでまた待機する。

 言い忘れていたがこの日はかなり気温が低かったため、店内で温まることが出来たのは凍える体を癒してくれたことにほかならなかった。


 並んでいる最中に食券を買っていく。

 色々とメニューがあったが、初めてくる店は大体1番人気やオススメを注文すると決めているため油そばを注文する。




「お待ちの1名様どうぞ」


 店員さんによばれ、店内の中央に位置する大きな大きな丸テーブルへと座る。

 実質これはカウンターかな。他のテーブル席は多分家族とか連れがいる人ようなのだろう。


 食券を渡し、私は後ろにあるテレビを見ながら油そばの到着を待つ。

 私だけかもしれないが、こういう店の中で見るテレビというのはどうしてこうも普段は見もしない番組内容であっても見入ってしまうのは何故だろうか。

 しかしながら内容など店を出て家に着く頃には大抵忘れているのだが。不思議なものだ。




「お待たせしました〜油そばになります」


 おっ来た来た。

 私の前に油そばが置かれていく。その姿は写真で見ていた通りであった。


 私は少し疑問に思っていることがあった。

 それはその油そばの様相だ。

 麺の上にナルト、メンマ、ネギ、チャーシュー……のみである。

 いや、別に不満とかそういうのがある訳では無い。わかりやすい油そばであると思うし、それが美味しいことも十分に承知している。

 しかしながら、私がこれまで行ってきた人気店というのは大抵何かしらのインパクトがあったのだ。正直なところを申し上げさせていただくとこの油そばにはそんなインパクトは無い。


 まー、色々と考えても仕方もない。

 とりあえず食べてみないことには始まらないのだから。


「いただきます」






 これは……美味い……!

 なんというか普通の油そばなのだ。

 特徴的な具材や麺、スープがある訳ではない。

 しかしながらその普通の水準が限りなく高い。そんな印象を受ける。

 モチモチツルツルとした麺、しっかりとした油と醤油ベースのタレの味わいが絡んでいく。

 ただただ高い水準のスタンダードな普通の油そばなのだ。

 なるほど、有名になるのもよくわかる。

 卓上には様々な調味料があり、自分のお好みで味を変更できる。これは油そばの特権だな。

 マヨネーズや酢、ラー油などを使いながら私は色々な味を楽しんでいく。

 そうやって味を七変化させながら楽しめるのも土台としている油そばがしっかりとした美味しさを保っているからなのだろう。




「ご馳走様でした」


 あっという間に完食し、私は満足気に微笑んだ。

 突出した何かがなくてもいいのだな。普通のスタンダードなものでもその水準レベルが高ければこうも満足できるのだと思い知らされた。

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