第2話 混雑の中での触れ合い

次の駅に着くと、ドアが開いた瞬間、大勢の人が一気に乗り込んできた。

先まで静かだった車内は、急にざわめきに包まれる。


俺たちの間にあったわずかな距離も、自然と消えていった。

華乃の肩が俺の肩に、腕が俺の腕に、そっと触れる。

けれど、それを嫌がる気配はどこにもなかった。


むしろ、俺たちは動けないふりをして、互いに身を寄せ合っていた。


電車が急に揺れたとき――

華乃の手が、俺の手にそっと触れた。


一瞬の沈黙。

でも、俺は手を引っ込めなかった。

いや、もう引っ込めたくなかった。


「……華乃。」


小さく名前を呼ぶと、彼女が目を見上げてくる。

その目は、驚きと少しの不安、そしてほんの少しの期待で揺れていた。


俺は、ゆっくりとその手を包み込むように握った。

ためらいながらも、でも確かに、優しく、指を絡める。


華乃の手が、きゅっと握り返してくる。

それだけで、胸が熱くなった。


言葉なんていらなかった。

今、この手のぬくもりが、すべてを語っていた。


「…ほんとに、もう離れたくない。」


小さくこぼした俺の言葉に、

華乃がふっと笑って、少しだけ俺の肩に寄りかかってきた。


電車はゆっくりと次の駅に向かう。

けれど、この時間だけは、永遠に止まっていてほしいと思った。

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