その手を離すな。
輝人
第1話 なんでいるの?
平日の夕暮れ、部活終わりの疲れた身体を引きずりながら、いつもの乗り換え駅にたどり着いた。駅のホームには、見慣れない静けさが漂っていた。
ふと目を向けた先――そこには、いるはずのない人がいた。
華乃。
違う高校に通う彼女が、どうしてこんなところに?
ホームの端、壁にもたれかかるようにして立つ華乃は、何かを待っているようだった。俺は驚きながらも、気づいていないふりをして足早に電車へと向かう。
そして電車が滑り込んできた瞬間。
背中に、そっと触れる手のぬくもり。
「……ねえ、輝人、」
小さくて、それでいて心に深く刺さる声だった。
電車の扉が開き、俺たちは無言のまま並んで乗り込む。座席は空いていたのに、なぜか華乃は立ったまま、俺の隣にいる。
揺れる車内、無言の時間が少しだけ流れる。
「待ってたの、ずっとここで。…もしかしたら来るかもって思って。」
「なんで…そんなこと……。」
「今日、輝人がここを通るって知ってた。偶然に見せかけたかったけど、我慢できなかったの。」
視線がぶつかる。
逃げられなかった。
その目はまっすぐで、まるで俺の心を全部見透かすようで――。
「本当はずっと、話したかった。好きって言いたかった。」
俺は息をのんだ。心のどこかで、ずっとこの言葉を待っていたのかもしれない。
「…俺もだよ。ずっと、ずっと君から離れたくなかった。」
電車がゆっくりと進んでいく。
車窓の外、夕焼けが流れる景色のように、俺たちの関係も少しずつ色づいていった。
この日から、俺と華乃の時間が、静かに動き出した。
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