第38話(最終話) 2周目は最弱がいい
「レイフ~、お前、苦労してたんだなぁ!」
「お前の苛立ち、今なら分かるぜ。オレだって依頼に何度も失敗して悔しさで眠れねえ日だってあった!」
「おまけにそんな体になっちまって……!」
同情的な視線と言葉に、レイフはさすがにたじろいだ。
「な、なんで知って――てめえ、マリン! お前が喋ったのか!?」
受付嬢に食ってかかるが、当の彼女は気安く受け流す。
「べつにいいでしょ。もう今日で終わりなんだし」
「ああ……まあ、そりゃそうなんだが……。調子狂うんだよ。最後まで罵倒されてったほうがいいと思ってたんだが……」
「最後? 終わりってどういうことだい、レイフ」
おれは疑問をそのまま口にしつつ、前に出る。
「エリオットか……。ちょうど良かった。まずは一番に、お前に謝らなきゃならねえと思ってたんだ」
するとレイフは頭を下げた。
「お前にはずいぶんひでえことをした。謝って許されることじゃねえが、この通り、謝らせてくれ。それに、二度も助けられたな。その礼も言っときてえ。本当に、ありがとう」
「どうしちゃったんだ、レイフ。いつもみたいにクソザコって言わないのか」
「言わねえよ。お前はクソザコじゃねえ。あんな活躍を見せられたら、力にこだわってた自分がバカバカしくなったんだよ……」
それからレイフは他の冒険者たちにも頭を下げる。
「みんなも迷惑をかけた。金を取っちまったやるもいるよな。あとで返す。すぐには無理でも、必ず働いて返すからよ」
「質問に答えてくれてないぞ、レイフ。終わりってなんなんだ?」
「……オレは冒険者を引退する。今日はその申請に来たんだ」
「冒険者を辞める? なんで?」
「なんでって、こんな能力値じゃ、もう冒険者なんて出来ねえだろ」
「おれの能力値知ってて言ってる?」
「お前が異常なんだよ。オレには……お前ほどの知力も、才能もねえ」
「そう悲観することもあるまい、レイフくん」
そこにゲイルが口を挟んでくれる。
「確かにエリオットくんほどの才能ではないかもしれないが、少なくとも私なんかよりは優れた才能を持っているよ。それにまだ若い。まだまだやり直せる」
「でも、オレは……」
「この街を守るって約束、守ってくれないのかい?」
レイフは目を見開いて、受付嬢に顔を向ける。
「マリンお前、そこまで話したのかよ?」
「うんまあ」
「受付嬢さんが話さなくても、それは知ってたよ。だからおれは、君に冒険者を辞めて欲しくないんだ」
「なんだと? その前になんで知ってんだよ」
「おれも、あの日、その場にいたんだ」
「そんなバカな。あそこにはオレとマリンとあの人しか……」
「能力値の低下なんて、むしろやり直すのにいい機会だと思いなよ。生まれ変わったと思ってさ。人生の2周目は最弱がいい」
そこでおれはレイフにだけ聞こえるように、耳元で呟く。
「おれも最弱になったからこそ見えたものがたくさんある。それを楽しむことだ」
「――!? 最弱になった? まさか? でもあの魔法、あの技……。お前――いや、あんたは――!?」
「内緒だよ」
しっ、と口元に人差し指を立てる。
「それにね、弱いからって辞めちゃうのも、力にこだわってるのと同じだよ。君が言ってた通り、バカバカしいでしょ?」
レイフは息を呑み、瞳を潤ませた。
「あ……ああ、そうだな……。あんたがそう言うなら、もう一度……もう一度やってみるよ……」
おれは笑顔で頷く。ゲイルも朗らかに笑った。
「それなら私も手を貸そう。鍛え甲斐がありそうだ。それにきっと今の君になら、他のみんなも協力してくれるだろう。頼ってみるといい」
レイフが振り返ると、冒険者たちはみんな好意的に笑ってみせた。
「すまねえ、みんな……。ありがとう。よろしく、頼む……」
再びみんなに頭を下げるレイフを見届けて、おれは身を翻した。
「じゃあ、おれはそろそろ行くよ」
受付嬢は首を傾げる。
「あれ、どちらへ? 依頼、なにも受けてませんよね?」
「旅に出るんだ。『破壊の種子』は放っておけないからね。探し出して、壊していこうと思ってる」
以前なら「不可能だ」と言われただろう。嘲笑の的にされたり、過剰に心配されたり。
でも今もう、誰もそんなことは言わない。
「エリオットくんなら、きっとなんとかするだろうな」
「ああ……絶対に、な」
確信を持って頷きあうゲイルとレイフ。
「いずれは私もその旅に出よう。『破壊の種子』を狩り尽くすには、多くの手が必要だろう。その一助になれればいいが」
「オレはこの街を守る。近くでまた『破壊の種子』が出やがったら、今度こそオレが叩き潰してやる」
おれは笑って親指を立ててから、ギルドを出た。
すると物陰からクレアが現れた。おれを待っていたらしい。
「エリオットくん、旅、わたしもついて行っていい?」
「いいのかい? せっかく街での評判も上がってきたのに」
「いいよ、そんなの。だって、エリオットくんのこと心配だし」
「とか言ってまスけど、絶対、心配なだけじゃないッスよねぇ~!」
そこに小さな荷車を引いてレベッカもやってきた。
「レベッカ? どうしたんだいその荷物は」
「アタシも旅に同行させてもらおうと思いましてぇ~! エリオットさんからはもっと勉強させて欲しいッスし、『破壊の種子』に寄生されたダンジョン、拾えるアイテムが高く売れるんスよねぇ~! 借金もありますし、ぜひご一緒したいッス!」
「あはは……危険なのわかってる?」
「もちろんッスよ~! それにアタシ、もうおふたりとは仲間だと思ってますもん! クレアさんだって、そうッスよね?」
「うん、もちろん」
「あっ、でもクレアさん、エリオットくんに対しては仲間以上に想ってますよねぇ~?」
クレアが素直に頷いたところ、レベッカにそんなことを言われて目を丸くする。
「でなきゃ人工呼吸が必要ってときに、秒で実行したりしないッスよね~? なーんか、あのとき、うっとりしてた気もしますしぃ~?」
「し、してない。してないよ! ていうか、必要ならすぐ実行なんて当たり前だよね? 命かかってるもん!」
「ほらほら、赤くなってるッスよ! いやぁ、エリオットさんモテるッスねぇ~!」
大騒ぎしながら、バンバンとおれの背中や肩を叩くレベッカである。
ポキっ!
「あっ」
「あれ? 今の音、もしかして――」
「うん。肩、脱臼しちゃった。めっちゃ痛い」
にわかにクレアはいきり立った。
「こ、こらぁ! レベッカちゃん、エリオットくんに触るの禁止って言ったでしょぉお!」
「ひぃい! すんませんッス! 調子に乗りすぎましたぁあ!」
全速で逃げるレベッカを、クレアが追いかけていく。
「いや先に治して欲しいんだけど……ま、いっか……」
おれはゆっくりとふたりの仲間のあとを追いかけていく。
痛みのある、弱くて遅い足取りかもしれないけれど、それこそが面白い。
そして天を仰いで、もうひとりの仲間にも呟く。
「さ、行こうか。エリオット」
おれたちの最弱の2周目は、まだ始まったばかりだ――。
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※
最後までお付き合いいただきまして、ありがとうございました!
本当に最後までお読みいただきありがとうございました!
これで物語は一旦完結ですが、本作は第7回ドラゴンノベルス小説コンテストに参加中です。こちらで良い結果があれば、続きをお見せできるかもしれません。
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連載開始をお伝えできるよう、作者である「内田ヨシキ」のほうも、フォローいただけましたら嬉しいです。よろしくお願いいたします!
RE:2周目は最弱がいい!~体力ゼロの元最強、不可能にも笑って挑む~ 内田ヨシキ @enjoy_creation
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