第2話「はじめまして、まるちゃんです!」

――数日前。


その日、ぼくは命の危機だった。 腹の中が空っぽで、頭はボーッとして、目の前がぐらぐら揺れていた。


スズメとの知恵比べにも負け、 人間にスリスリしても、誰も見てくれず、 プライドは捨てたつもりだったけど……もう、だめだった。


「もう歩けニャい……」


そんなとき、ふわっと香った。 魚。あぶらのにおい。焼いた音の記憶。 それはまるで――ぼくを呼ぶ声だった。


ふらふらと吸い寄せられた先は、古いマンション。 二階の一室から、窓が少しだけ開いていた。


ぼくは、本能のままに飛び上がり、 するっと侵入。迷いは、なかった。


そこには、神々しい皿があった。 乗っていたのは、焼き魚。 言葉にできない旨さだった。



――至福のとき、だった。

……後ろから声がするまでは。


「…………このマル猫め」



びくりと背中の毛が逆立つ。 目つきの悪い、でっかい人間がいた。 いつの間に現れたのか、その手には――拳銃。


「ここは……俺の家だ」


低く、重い声。 一歩、また一歩と近づいてくる。


ぼくの心臓が破裂しそうになる。




「……ったく。メシは許してやる。どこへでも行きな」



……え?


今、ぼくのこと……名前で呼んだ?



マル……猫?

ぼくがマルって名前なのか?


たしかに、ぼく、まるい。

このふわふわお腹もまるいし、丸く収まる性格だし。



「許してやる」って、つまり――

「食べていいよ」ってことだよね?



「どこへでも行きな」って……え?

この家に住めってことだよね??



衝撃だった。まるで雷に打たれたみたいに。


ぼくは心に誓った。 ――ここが、ぼくの家だ!



---


翌朝。


台所に、ぼくのごはんが用意されていた。 完璧だ。完全にぼくの家だ。 家族だ。そう、もうこの家の猫なのだ!


ぼくが美味しくたいらげると、 奥からあの男が現れた。


「……なんでまだいるんだ。そのメシ、俺のだぞ」


ふん。そうやって素直じゃないのが悪い癖だよ、おやじ。



---


その日の夜。


おやじが窓辺でタバコを吸っている。


「……ったく、なんであのとき撃たなかったか……」


ふふ、見たぞ。その目、ちょっと潤んでた。 つまり――そう、照れてるんだな!


ぼくはお腹を見せて、ゴロンと転がる。 今日も「かまってポーズ」炸裂!


おやじが肩をすくめて、小さく笑った。





~つづく~

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