第18話 ブザーが鳴るまで……おっぱい

「4ピリオドから出てくると思っておったが、まさか3ピリオドの中途半端な時間から出てくるとは思わんかったな! 14点差か……塚本、後数分で退場させる事が出来るか?」


「いや……厳しいじゃん。多分ですけど、自分には癖があると分かったのでしょう。今までとテンポとタイミングを変えてきています。それに、俺の手に負えないスピードになってるので、対応出来ないです」


「ありゃあマジで本気マジになってるなめぐみのやつ! 塚本じゃあもう無理だろ。だからといって、他の誰かがどうこう出来るレベルじゃないかもな。だから手塚お前部長だし責任持って1ピリだけでいいから抑えろ!」


「止められる気が全くしないんですけど……」

「お前等も得点すりゃあ差は縮まらないだろ? 14点のハンデもらっているんだ。後8分間凌げ!」


「あと8分ですか、ここまで来たら勝ちましょう」

「僕も頑張るから、手塚部長頑張って!」

「お!? ラッキー! ダイヤのエース。ここまで来たら皆で勝とうぜ」

「どうにか頑張って郡ちゃん抑えるから」

「皆頼むぜ……残り8分、行こうか」


 ――ビィーー。


 女子チームからのボールで始まる。めぐみはバスケットシューズの裏を手で擦る。審判から郡司がボールを受け取った瞬間だった。

 めぐみが急に加速。突然の動きに1歩遅れてしまった。その隙にボールを受け取っためぐみは、1回のドリブルと1歩で俺の事を置き去りにした。


 追い越そうとするが、追い越せない。

 ――イタッ。


 スクリーンにぶつかった。めぐみに集中してて気が付かなかった。マークが外れためぐみはそのまま攻めると3ポイント決めた。

「追いつくよ! ディフェンスー!」


 俺達も攻めるが、前線のディフェンスがキツくなり、3ポイントを打つ隙なんてなかった。ダンカンと篠山先生を使ってダンカンがシュートを決めた。


 すぐに切り替えためぐみは自分でボールを持って攻める。周りはめぐみの事をフォローしていた。パスをもらうのではなくめぐみを活かす為に動いていた。

 

何も知らない人間が見たら、めぐみのプレーは自己中でワガママに見えるかもしれない。しかしそうではない。

チームがめぐみを信頼し、めぐみが得点する事でチームに勢いがつく。エースとしての自覚と責任。俺はそう感じた。

めぐみに3ポイントを決められ63-53。10点差まで詰められた。


今度は俺達が徐々に点差を詰められていく。相手は俺達にシュートそのものを打たせない様にしつこく張り付いてディフェンスしてきた。とにかく面倒臭いディフェンス。要するにやっかいという事。郡司の顔つきも変わって本格的に集中していた。

攻めにくい……。


「斎藤プロ!」

 パスを出したがカットされた。


「メグ!」

 ノーマークになって前を走る郡司にパスを出る。俺はダッシュで追いかけて郡司をギリギリ捕まえた。レイアップに行こうとする郡司を止めようと俺も一緒にジャンプしたが、郡司はボールを持っていなかった。

 コーナーにいるめぐみにパスが渡り、3ポイントを決められた。


 本来ならばこういう時は時間をたっぷりと使って攻めるのがセオリーだが、俺達はスタイルを変えたりしない。そんな器用な事を俺達が出来るはずがないからだ。


「オフェンスーー!」

 先に走っているダンカンにパスを出し、そのボールが篠山先生に渡る。3ポイントラインよりも外でボールを持っているからか、ディフェンスは隙間をあけていた。それを見た篠山先生は3ポイントを放ち、決める。

 最後の4ピリオドになって、チームとして個人としての自力じりきが出始めた。俺達は体力も技術もついた。自分で分かるほど強くなった。

 だが自分達の力と同等以上の相手と、1試合通して真剣勝負した経験が無さ過ぎた。ストリートバスケで得られる経験でもなかった。

 

 疲労がある中での練習はしてきた。シュート練習だって散々してきた。けれど、ここへきて俺達のシュートが外れだし、女子チームの成功率が上がり出した。

 


 ――ビィーー。

「タイムアウト青」


「3点差か……ギリギリだな。ここまできたら戦術とか作戦とかそういった事ではなく、どっちが根性あるのかって真っ向勝負だ」

「竹じいって根性とか言うんすね」

「ワシも年寄りだからな。相手は誰で攻めてくるのは分かっとるか?」

「めぐみちゃんじゃん」

「その通りだ。緊迫した試合で得点するのがエース。だがお前達にそれはないだろ。1点が大事になるような局面で、チームとしての弱点が出てきたな」


「なら決めたらいい。俺達らしいやり方で」

 斎藤プロは5枚のトランプを取り出した。

「エースが一枚混じっている。引いた奴がこの試合のエースってのはどうだ? 俺達らしいだろ?」

「いいじゃん」

 HPがそう言って一枚引いた。


「面白いですね。乗っかりましょう」

「僕もそれでいい」

「よし。俺も引こう」

「皆引いたか? じゃあいっせーのーで」

 トランプでエースを引いたのは斎藤プロだった。


「この試合が終わるまでは俺がエースだな」

「手塚部長、斎藤プロにパス回せじゃん」

「了解」

 ――ビィーー。


 マイボールから始まった。HPから貰った俺は中継に入った篠山先生にパスを出して走る。スクリーンをしてくれた斎藤プロを使ってディフェンスを剥がすと、再び俺にボールが回ってきた。

 めぐみが俺の前に立ち塞がるが、ダンカンにパスを出す。ダンカンは綺麗なターンをかまして左手でフックシュートを決めた。


 ボールはすぐにめぐみへと渡る。ディフェンスをするが、そこに俺がいないかのように軽々と抜かれる。トップスピードを維持したままゴールへと向かった。

 カバーに入った篠山先生も抜き、遠くからシュートを放って3点を決める。


 切り替えて速攻で攻め立てる。3ポイントラインのコーナーで待ち構えているダンカンにパスを通す。逆サイドからペイントエリアに走りこんで来た斎藤プロにパスを出すと、受けとってそのままシュートを決めた。


 郡司がボール出して、めぐみが運ぶ。俺は全力でディフェンスするが、完全に止める事など出来ない。郡司にボールを戻して、スクリーンをかけてにいった。


「スクリーン!」

 俺の声にHPは反応したが、見事にスクリーンにかかる。


「スイッチ!」

 郡司の事をディフェンスする。

 ――よし。止めた。


 と思ったが、俺の股の間にバウンドパスを通した。そこには味方が居て、そのままレイアップシュートを決められた。


 すぐさまHPがボールを運び、斎藤プロにパスを出した。めぐみを抜こうと試みたが、全く歯が立たない。抜く事を諦めたように見えた斎藤プロ。

しかし、その一瞬でステップバックして3ポイントを放った。笛は鳴っていない。


――ガシャン。と音を立ててシュートが外れた。

そのリバウンドは取る事が出来ず、相手ボールになると、パスで繋いでいった。


「スリー気を付けて!!」

 点差は2点しかない。スリーポイントを入れられると逆転される。


「ご!」

 郡司がそう言いながら手の平を上げた。それを聞いためぐみ達は動き出した。ビックマン達のスクリーンを前線の二人が上手く使ってディフェンスを混乱させる。6番にボールが渡ると、めぐみはコーナーにポジションを取った。

 俺はいつでもカバーに入れる体勢を取る。ビックマンがHPにスクリーンをかけ郡司がノーマークになってしまった。


「チェック!!」

 声に反応した斎藤プロが郡司のチェックに入るが、郡司は3ポイントを放った。

「リバウンドぉ!」

 先程まで視野の端にいためぐみの姿が消えていた。背中に気配を感じて目線を移すと、めぐみがゴールに向かって走っていた。


 ――ガシャン。シュートが外れた。

 めぐみは宙に舞ったボールを空中でキャッチし、そのまま片手で手首を返し、フワッとボールを放った。

 リングを舐めるようにクルクルと2周してゴールに吸い込まれた。同点。


 ――ビィーー。

「タイムアウト青」


「返事に声を出さなくていい。今の状況に何も言うまい。塚本が考えているだろ?」

 HPが頷いた。


 竹じいはそれ以上何も話さず、西野先生も黙って立ったままだった。


 ――ビィーー。

 ブザーが鳴り、ハーフラインからマイボールで始まる。


「ルート66!!」

 俺達は斎藤プロを活かす動きをして、斎藤プロにボールが渡った。斎藤プロはそのまま3ポイント放つ。


 ――ガシャン。ガタガタ。

「入れ!!」

 ゴールに嫌われたボールは零れ落ちた。リバウンドを取られる。


「戻れーー! ディフェンスーー!」

 すでに走っている郡司にボールが渡り、大きく振りかぶった郡司が片手でボールを投げた。その先にはめぐみが居て、大きくジャンプしためぐみがキャッチした。


 戻っていた篠山先生がディフェンスするが、着地と同時に抜かれ、最後に残っているのはHPだけ。

 めぐみがレイアップシュートにいくと、ファウルしないようにジャンプしたHP。ディフェンスされていないかの如く、簡単にゴールを決められた。


 ――逆転された。残りは5秒しかなかった。

 HPは斎藤プロに向かってすぐにパスを出す。斎藤プロは受け取ると、思いっきり相手のゴールへとぶん投げた。

 適当に投げたボールがそのままゴールの方向へ向かっていく。


 ――バフッ。ガシャ。

 ボードに当たったボールがリングの手前に強く当たり、上にはねた。


 ――ビィーー。ブザーが鳴った。

もう一度リングに当たったボールは、ゴールへと吸い込まれた。


「ラッキー!」

 斎藤プロはガッツポーズをした。

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