花火大会が怖いって言ったら嫌われるかな

佐海美佳

花火大会が怖いって言ったら嫌われるかな

 昔から大きな音が苦手だった。

 雷の音、花火の音、運動会のピストルの音、誕生日会のクラッカーの音。

 だから、好きな人に花火大会へ一緒に行こうと誘われたのに、喜んで頷くことができなかった。


「……嫌われちゃったかな」

 遠くから花火大会の音が聞こえてきたので、玄関のドアを開いて外の様子を確認した。

 花火大会の会場から離れているから、音はほんの微かにしか聞こえない。これぐらいなら大丈夫。


「ナァン」

 飼い猫のサバが、私の足元をするりと通り過ぎていった。

「音、大丈夫だった?」

 私と同じ、大きな音が苦手なサバは雷が鳴る時は、一緒に布団へ潜りこむ仲間だ。

 今日みたいな花火大会の日は、近所の見回りも早めに終わらせて家に帰ってきたらしい。


 大きな音が苦手だと言っても、たいていは「ちょっと怖がり」で終わらせられてしまう。

 音が怖いとどれだけ訴えても、「あんなのを怖がるなんて」と笑われて終わり。誰も真剣に聞いてくれない。


「花火大会に誘ってくれるなんて、ほんとは両思いなんじゃないの?」

「だと、いいんだけど」

「なら、なんで行かないのよ、もったいない」


 友達から羨ましげに言われたけれど、曖昧に笑って誤魔化すしかなかった。

 怖いものは怖いのだ。

 けれど、もっと怖いのは、好きな人に嫌われることだ。

 今度話す機会があったら、ちゃんと言ってみよう。花火の大きな音が苦手だって。


「そうだ。線香花火があったはず」

 線香花火は音が小さいから大丈夫。去年買って、残しておいた線香花火の存在を思い出して玄関のドアを閉めようとした時。

「線香花火か、いいな」

 郵便受けのある門のところに、花火大会に誘ってくれた彼が立っていた。


「花火大会に行こうとしてたら、お前んちのネコが通り過ぎて行ったから、ついてきた」

「行かなくて……いいの?」

「花火より、お前の顔見てる方がいいかなって思って」

 彼は照れくさそうに、鼻の頭を指で掻いた。

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