第2話・204号室

駅から徒歩4分の3階建のマンションの『204号室』が橘の新居になる。

そのドア前に橘は立っていた。彼は内見をせずに部屋の契約をしたので、入居日のこの日に初めて中を確認することになる。


(よし…開けなきゃ始まらないな)


橘は十数秒迷ってから恐る恐る204号室のドアを開けた。中を覗いてみたがパッと見は霊的なものを何も感じない。彼は玄関で靴を脱いで、すぐそばに荷物を置いた。そのまま橘は部屋の中へと入っていく。彼はドアというドアを開け、ベランダに続く掃き出し窓も開けて隅々までチェックした。しかし霊感のある橘でも霊的なものを一切感じ取ることが出来なかった。


(良かった……危なそうな感じはしない)


橘は不動産屋の担当者が凄い剣幕で自分に忠告してきた事を思い出した。とても彼が嘘をついているようには見えなかったので、「あれは一体何だったのだろう?……」という疑問だけが残った。


(霊が出ないに越したことはないし、まぁ良いか)


橘はホッとして、胸を撫で下ろした。約30分後には業者が家具や電化製品などの大きな荷物を運んで来る。それまではゆっくりしていようと、彼はリビングの床に座りこんだ。



部屋に西陽が射し込む頃、橘は新居での荷解きを終えた。彼は改めて部屋を見廻してみたが、貧乏な劇団員には贅沢と思えるほどの良い部屋だった。お風呂とトイレは別だし、クローゼットもあれば、洗濯機が設置できる場所もある。


「ぐぅ~」と、橘の腹が鳴った。


(とりあえず一段落ついたし、メシでも買ってくるか)


橘は部屋を出た。



最寄りの京王線・代田橋駅は新宿まで最短7分、渋谷までは12分と都心までのアクセスが良い。橘が劇団の公演でよく利用する下北沢まで最短7分の時間で行けるし、新居の部屋からでも自転車で10分はかからない。


(マジで便利だよな)


代田橋駅の北口を出れば商店街の裏手に長屋の飲み屋がちょこちょことあるし、商店街から甲州街道側に出て歩道橋を渡れば『沖縄タウン』も近くにある。沖縄タウンにも飲み屋はそこそこあるので、これは酒好きの橘からすればとても有り難いことであった。


橘は引っ越し作業で疲れていたので、この日は飲み屋に行くという選択は捨て、コンビニで夜ご飯と酒を買って家に帰った。

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