質問
詣り猫(まいりねこ)
第1話・事故物件
「
担当者の男が橘祐一に間取り図のコピーを見せてきた。
東京都世田谷区の京王線代田橋駅から徒歩4分。1K。洋室6帖で風呂・トイレ別。敷金・礼金なしで家賃が5000円。
(この条件なら9万円ぐらいはしそうな感じはするんだけど……)
「あの、5000円はちょっと安すぎじゃないですか? もしかしてこの部屋は事故物件だったりします?」
橘がつっこんだ質問をした。
「はい、実は……」
「幽霊とか出る感じですか?」
「はい……出ます」
不動産屋には事故物件かどうかを伝える告知義務がある。だから担当者が質問に答えるのは至極当然なのだが、それでも彼からは事実を言いたくないような雰囲気が醸し出されていた。
「ん〜……そうなんだ幽霊が出るのか〜……」
橘はしばらく考えてから、
「じゃあ……ここに決めます」と言った。
「へ?」
担当者は目を丸くさせながら素っ頓狂な声を出した。
「あの……本当に大丈夫ですか?」
「はい。ぼく売れない劇団員なんでお金が無いんですよね。だからその家賃は助かります」
「でも本当に出ますよ」
「実はわりと霊感があるほうなので、普通にそこらでよく見ているんですよ。だから気にしないようにすれば、まぁ平気かなって」
「はぁ……そうですか」
担当者は橘の言葉に少し引いていた。
橘は平然としながらサービスで出されていたお茶を飲んでいる。
◆
「この部屋に住むにあたって、ひとつだけ注意点がございます」
契約書をかわした後に、担当者が真顔で橘に言ってきた。
「注意点ですか?」
「霊の質問には必ず【いいえ】で答えてください。これは絶対です」
「え?」
「これは今までのご入居者様から聞いた話なのですが、霊は毎晩2時にある質問をしてくるそうです」
「霊が質問ですか……」
「はい。今までのご入居者様からはそのように伺っております。なんでも質問に【いいえ】と答えている限りは普通に生活ができるようでして……」
「もし【はい】と答えたらどうなるんですか?」
橘が担当者にそう聞いた途端、
「絶対に【はい】とは言わないでください! お客様のためにも!」
と、担当者は強い口調で橘に警告してきた。
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