空色物語

@Spilitz

第1話 梅雨の待ち人 前編

 「今日もいる…」

私は、人気の少ない駅舎にいつも一人で待っているある女性をぼんやり駅員室から眺めながら、そう独り言をつぶやく。

 彼女は、いつも下り方面のホームをじっと眺めて、電車が来るたびに背伸びするなどきょろきょろして・・を始発から夕方の便まで繰り返している。誰かを待っているようだ。

そんなことをこの3か月繰り返しているものだから、私と彼女とはすっかり顔なじみになった。

私はいつしか彼女の誰かを待つ姿を観察するのが日課となり、今日に至る訳である。

 今日は先週の月曜の梅雨入りのせいでもあるのか、駅舎は曇り空で暗さを増してより一層人気のなさを醸し出し、古びたこの駅員室はクーラなんてものはないものだから扇風機を強にするのだが、汗が体に纏わりついて不快極まりない状況である。

そんな中、白色の無地のワンピースを身にまとい、薄い紫色のハンカチで汗を拭いつつ、扇子で仰ぐ彼女は私と対照的に涼やかで、とても絵になっている。

そうだ、今日はどうせいつもよりも利用客はいないのだから、彼女に聞いてみよう。

「いつも誰を待っているんですか。」私は微笑みながら、彼女の前に立ち警戒されないようにそう声をかけた。彼女は戸惑いながら私の顔を見た。改めて私は彼女の顔を見ると、涼やかな切れ長の目に、陶器のような白い肌と桃のような愛らしい唇で思わず息をのんだ。私があまりにもだんまりしてしまったので彼女から怪訝の色がみられる。いけない。私はまた微笑んで、彼女に麦茶を進めて話しかけた。

彼女は一口、麦茶を含んだ後ふっと微笑んで、彼女が待つ理由を私に話し始めた。

 

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