第6話
再び歩き出され、見間違えられたところの実体が、如何にしてこのエレベーターにおけるガラパゴスな幸福を虚構と呼ぶことを躊躇しておけるかと、非効率な暖房器具たる我が身共々、広義におけるそれら、この細やかなトークンの文字の凸凹だけを愛するために、悴まないという限りでの指が、あれそれがこれのために合目的的であるところのものであるのを決して見ぬという限りに、やはり、うれし。
誰かが開けた。閂も無かったが、今一度、初めて開いたそれ。ここは結局寒くなく、尚も閉ざされているのだと知る。最初から格子状だとすれば元も子もない話。
ただ一つ、穴開きでないのはこの身の円周、我等、あれら共々そこより放り出したところのモノリスの輪郭は、世界をきっと、塞ぎ込んでいるとは本当だから。安心。誰かの立つそこで、そこによって一切は密閉されているから。ああ、第五公準と、序でに何か一つだけ。何でも好きなものに首を振れば、それだけで。」等ということを夢できっと言われた。
思っている程には精密な昼寝において、極めて多義性の痙攣に嫌気の差したこの朝は、しかしといって朝である。
暗闇の合計的な温度の変わらぬことを知っている限りで夢見た矮小な散歩の脅威的な散歩道も、取るに足らぬことを知っているのできっと。きっと、潰えてしまった。
ああ、熱くも冷たくもない、きっと痛くないというだけの空の比重、段々と溶け落ちて最早これだけになった地面の悲しさが、彼にとっては本命の結末であることを目の当たりにして、今朝にまた、陳腐でなく、創造的な、という意味でのこの前ネタバラシ的なパノラマの、任意の、均一ではないが半端なグラデーションであるものについてを言われてしまった訳であるが、しかしそれだけである。
広義の、しかし特殊な意味における惨劇におけるこの廊下は、扉を開けぬ限りには概ね暮らし易く、皆もう新しい会話を始めている頃合いだから、今私が扉を開けたところで、それといって、私ももう覚えていない訳であるから。
リノリウムに座り込んで、エアコンに似た音で騒ぐ人らも常に入れ替わりはするが、同じである。人の居ない部屋など何処にも無いとは真であるらしい。そこだけ凭れる人の居ない壁は入り口であるらしい。成程、扉など無いらしい。私は壁の色というものをやはり見ていない。人の隙間など存在しない。尚も動き出す。私はここへ歩いてきたのではない。歩き出されてここに居る。
この部屋がここへ来てから数日が経った。身動きというものが一度として有っただろうか。すし詰めの、こことここが、部分と部分とは言わぬまでも、単一の部分として有った。即ち偶々眼前に在ったところの粒子は恋人であったが、そうして呼び掛けられ振り向いたものの中からまた一つを選び取らなければならないというのだろうか。私もまた、彼女に恋をする無数の私の例からは漏れる顔面の一地点である。と。
いつか在るだろう都市について 第四のスルメ @nautilus-jerky
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