僕のいるお葬式

さえ

僕のいるお葬式

 よく遊んでもらっていた叔父が死んだ、と聞いた。Sくんはよくはしゃぐ元気な子だな、と苦笑いを浮かべていた叔父の顔が、鮮明に蘇る。死因はガンだったらしい。

 葬儀場の隅の方では、遠い親戚の女性が、彼は苦しまずに亡くなった。と涙ぐみながら言っているのが聞こえた。僕の目の前にはきらびやかな祭壇と、白菊や胡蝶蘭が所狭しと並べられている。しかし、この角度からは遺影を見ることができない。おそらく、僕の隣にいる男の子からも遺影を見ることはできないだろう。

 僕はこの男の子に見覚えがあったが、それはあり得ないだろうと思った。それは、思い当たった人物がまだ幼稚園児だったからだ。隣の男の子は幼いと言えど、小学校中学年くらいには見えたのだ。

 参列者の受付が終わり、会場に人がぞろぞろと入ってきた。なかには見覚えのある人が多くいた。みんなやけに顔が老けて見えたが、叔父が死んだ悲しみのせいだろうと思った。

 いよいよ式が始まった。荘厳な式場に、僧侶の平たい読経が響いた。僕は通夜に出席をしていないからよくわからないが、通夜よりも鼻をすする音が少なく感じる。

 読経が終わり、弔辞と弔電の奉読が終わった。一般参列者による焼香は、参列者が多かったために長く感じた。叔父は僕のように、友好関係が広かったのだなと思った。

 静かな悲しみに包まれた式が無事に終わり、残すは火葬場へ行くだけになった。しかし、その前に棺へ花を入れなければならなかったことを思い出した。僕を除いた遺族は、既に棺を囲んでいた。葬儀場の係員は僕のことを見落としたようで、棺に入れる花を渡してはくれなかった。

 仕方がないので、とにかく遺族の集まる棺の近くまでいった。すると、僕の前には先ほど隣にいた男の子が立っていた。

「………くんは叔父さんと仲がよかったものね」

 親戚の女性がそう言ったが、他の遺族の声にかき消されて名前の部分が聞き取れなかった。

「ガン、だったんだよね」

「ええ。四年間も昏睡状態で、最期はガンで亡くなったそうよ」

 男の子と女性の会話で、僕はようやく叔父の最期を知った。

「ほら、Nくんもお花を棺に入れなさい」

 男の子の名前には心覚えがあった。

「はい」

 僕は、棺に眠る遺体の顔を見るために遺族をかきわけようとした。しかし、できなかった。

「Sおじさん、さようなら」

 僕の手は、遺族の身体をすり抜けたのだ。

 

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