杏脳-アミグダラ
@araddin0328
手術記録
記録番号:C-07
記録者:三國 孝志(脳神経外科医)
記録日:20XX年○月○日
患者名:赫原 雫(13歳・女性)
状態:脳死判定(厚労省ガイドライン適用)
概要:
202X年○月○日、交通事故により搬送された中学2年生・赫原雫の脳死判定に伴い、脳神経再建試験施術を開始。これは本施設における倫理委員会第8号特例下での施術であり、意識・脳機能の回復を目的とした臨床的試験を含む。
手術内容:
脳幹部血流の安定化
アミグダラ領域における異常信号のモニタリング
神経電気刺激プローブの挿入(右側扁桃体下部)
生体応答に異常なし。ただし、刺激時に測定不能な電気信号が一時的に出現
備考:
血液検体の一部に異常凝集反応を確認(追加検査予定)
意識レベルに変化なし
ただし、生体反応のゼロでは説明できない微細振動が脳波計に観測された
→ 機器トラブルか、未知の脳波反応かは判定不能
所感:
医学的には、もう終わっていた。
意識も、脳も、機能していなかった。
それなのに、あの子の目を閉じる瞬間、私はなぜか“見られている”気がした。
そんなもの、脳死判定のストレスで一時的な錯覚に決まっている。
科学は錯覚を肯定しない。
……だが、私は知っている。
この子の血液にあった異常な凝集反応も、アミグダラ周辺の微弱な波形も、
“何か”が存在していることを、私は知っていた。
けれど私は、その“知識”を口にしなかった。
再びあの目で見られるのは、もうたくさんだ。
馬鹿にされるのも、笑われるのも、叩かれるのも──
……ああ、それにしても、なんて綺麗な瞳だったんだ。
動かないまま、まるで全部、理解しているような顔で。
……ふふ、いや、馬鹿馬鹿しい。
私は科学者だ。科学者、なんだよ。
それに、笑った気がしたんだよな。俺にだけ、わかるような顔で。
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