第34話 王のたくらみ

 ――ルドヴィク様が、ロゼッテを育てることを拒んだ。

 

 それは私たちだけでなく、デルフィーナにも伝えられた。

 捕まったデルフィーナの望みは、ロゼッテをルドヴィク様の元で、育てることだった。

 王宮では、信用できないと思われたのだろう。

 その気持ちはわかる。

 私も自分が一番信用できる人間に預けるだろう。


「セレーネ?」


 無意識にザカリア様を見つめてしまっていたようで、目が合った。


「どうかしたか?」

「いえ……。ザカリア様がいてくださってよかったと、思っていたところです」


 以前なら、微笑まなかったザカリア様だけど、今は違う。

 ルチアノといると、自然と笑顔になることが多く、今では自然に微笑まれるようになった。


「それは、こちらもだ。領地の者が、寂しいと手紙に書いて寄越すくらいだからな」

「嬉しいですわ。落ち着いたら、ザカリア様の領地で休暇を過ごしたいと思ってますの。不思議な話ですけど、ザカリア様の領地は穏やかで、私の故郷のように懐かしく感じます」


 私の人生で、一番穏やかで幸福だった時間を与えてくれた場所。

 ルチアノが独り立ちしたら、小さなお屋敷で静かに暮らしたい。

 お妃候補の頃から、私が望んでいたのは、そんなささやかな暮らしだった。

 

「そうだな。ルチアノが妻をもらったら、二人で領地に戻り、静かに暮らすのも悪くない」

「二人で……」

 

 何気なく、ザカリア様は言ったのだろうけど、それが私には、なによりも嬉しい約束だった。


「そんな日が早く来るといいですわね」

「まだ、ルチアノは手がかかる。さっきもジュストに大人用の剣を使わせてくれと言って、駄々をこねていた」

「また、ジュストを困らせて……」


 ルチアノは、ジュストと剣の稽古をしている。

 王の子の力を使わないよう、体を動かす時間を増やした。

 じっとしていると、色々考えてしまうだろうと、思ってのことだ。

 それがよかったのか、ルチアノは明るさを取り戻し、食欲も戻った。

 でも――


「ロゼッテの様子はどうでしょうか」


 人の心を読み続けたロゼッテは、人が話している言葉のように、心の声が聞こえるようになってしまったらしい……

 そのため、ロゼッテは部屋に閉じ籠り、一人で過ごす時間が多くなり、孤独な生活をいられている。


「七歳の子が一人で過ごすのは、寂しいはずです。ロゼッテをこのままにはしておけません」

「それについては、俺に考えがある」

「考えが?」

「ああ」


 ザカリア様は、それ以上、なにも言わなかった。

 特別な力を受け継いできた王族には、私が知り得ない方法があるのかもしれない。


「お母様! ロゼッテに花を持っていってあげてもいいかなぁ? きっと退屈していると思うんだ」


 ルチアノが剣の稽古を終え、こちらに走ってきた。


「どうでしょうか? ザカリア様」

「そうだな。ずっと一人にさせておくわけにはいかない」


 そう言うと、ザカリア様は立ち上がった。


「私もご一緒しますわ」

「いや、ジュストだけでいい。セレーネはルチアノといてくれ」

「でも……」

「駄目だ。俺がいいと言うまで近づくな」


 ザカリア様の視線はルチアノを追っている。

 もしかしたら、ザカリア様の特異な力に関係していることなのかもしれない。


「わかりました。待っています」

「そうしてくれ」


 ザカリア様はジュストと共にいなくなった。

 ルチアノは二人の後を追って行きたいという顔をしていた。

 ロゼッテのことが、ルチアノは心配なのだろう。


「大丈夫よ。ザカリア様とジュストなら、ロゼッテを助けてくれるわ。ルチアノは二人を信じているでしょう?」

「もちろん!」

「それなら、大丈夫」


 ルチアノは気にしていたものの、納得してうなずいてくれた。


「ルチアノ。庭園の花で、ロゼッテのために花束を作ったらどうかしら?」

「そうだね! 花かんむりも作るよ。ロゼッテ、花かんむりの作り方を知らないって言ってたから、きっと喜ぶと思うんだ」

「どの花がいいか、庭師に聞いてみましょう」


 私とルチアノは、ロゼッテのための花を集めた。

 ザカリア様がロゼッテと会い、私が色とりどりの花で、花束を作っている頃。

 まさか、ルドヴィク様が誰にも告げず、王宮に忍び込み、デルフィーナと会っていたとは、夢にも思わなかったのである。

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