第33話 お前など王妃ではない! ※ルドヴィク

『ルチアノ王子は無事でございました』


 王宮で起きた毒殺未遂事件――離宮にて、その結末を侍従から聞いた。

 デルフィーナ主導で行われたという発表があり、ロゼッテは罪に問われないことになったらしい。

 

「馬鹿な王妃だ。だが、これで目障りな王妃は消えた」


 デルフィーナは、俺の王妃にふさわしくなかった。

 子を身籠り、俺が力を失ったことがわかると、俺を蔑ろにし始めた。

 セレーネは文句も言わず、黙って王妃の務めを果たしていたのに対し、デルフィーナは文句ばかりだった。


「俺に必要な王妃はセレーネだったのだ」


 今になって気づいても、遅いことはわかっている。

 だが、俺がどれだけ彼女を愛しているか、気づいてしまったのだ。

 戻ってきたセレーネは、以前の彼女より、ずっと美しく優しく、魅力的になっていた。


「取り戻したいが、ザカリアが邪魔だな」


 あいつさえいなければ、セレーネとルチアノ、俺の三人で、暮らせるというのに――


「ザカリアか」


 長く離れて暮らしていたからか、あいつのことはよくわからない。

 特異な力を持つ弟は、王族の中でも忌まわしい存在として扱われていたせいもある。


「あいつの力は、消えない代わりに一度しか使えないからな」


 ザカリアの力は、役に立たずの使えない力だ。

 気にするほどでもないと判断した。

 あとは、セレーネの気持ちだが、ザカリアがいなくなれば、こちらに向くだろう。

 セレーネから縁を切られた侯爵が、領地から出てこなくなった。

 ザカリアという後見人がいなくなったセレーネが頼れるのは、俺だけというわけだ。

 

「さて。ザカリアをどう始末するか」


 本を読みながら、一人でチェスをする。

 あいつには、駒が多い。

 騎士のジュスト、クイーンのセレーネ――だが、駒の多さは守るものの多さでもある。

 守られてきた俺には、いつも守るものがなかった。


「それこそ、チェスのキングのようだ」


 周囲を固められ、守られ、生きてきた。

 今や、俺は一人。

 

「ルドヴィク様。王宮より、ロゼッテ王女について、話し合いたいと使者が参っておりますが」

「追い返せ」

「えっ!? ですが……」

「ロゼッテはすぐに泣く。デルフィーナに似てうるさい」

「は、はあ……。しかし、デルフィーナ王妃が牢屋に捕らえられております。今、ロゼッテ王女が頼れるのは、ルドヴィク様しかいらっしゃらないかと……」


 使者を気にしてか、侍従が面倒なことを言い出した。


「世話など、乳母でもなんでも雇って任せておけ。なぜ、俺が面倒をみなければならんのだ」

「では、ロゼッテ王女を王宮に預けますか?」

「好きにしろ。俺の知ったことか。それから、デルフィーナの王妃の位を剥奪する」


 侍従は呆然と立ち尽くし、俺を見る。


「陛下。本当にそれでよろしいのですか? デルフィーナ王妃は陛下にお会いしたいと、申されておりましたが……」

「王妃と呼ぶな。王の血を引く王子を殺そうとした女だぞ。罪人だ!」

「は、はい!」


 俺の剣幕に恐れをなしたのか、侍従は慌てて部屋から出ていった。

 これで、デルフィーナは正式に俺の王妃でなくなる。

 空位になった王妃の座。

 それを埋められるのは、セレーネだけだ。

 チェスの駒をキングの前まで進めた。

 

「ルチアノがいれば、毒殺は未遂に終わるだろうと思っていた。王の子の力を逆に利用するのも、力を知っている人間なら、容易いことだ」


 窓辺に瓶を置く。

 瓶の中身は空っぽだ。

 ロゼッテの世話をしていたの侍女たちが減り、静かになった。

 男爵家の侍女たちは品がない。

 王の侍女には、ふさわしくなかった。

 ようやく離宮は、楽隊によって、優雅な楽の音が奏でられ、穏やかな時間を取り戻すことができた。

 久しぶりに、心地よい静寂を味わったのだった――

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