第35話「スマホの透明ケースは世界が広がっている」
スマホの透明ケースの中身って、人それぞれで本当に面白い。
リアル推し、アニメ推し、可愛いキャラ、かっこいいキャラ……シールやステッカー、カードがぎゅうぎゅうに挟まっていて、それはまるで小さなショーケースのようだ。ケース越しにチラッと見えるその世界には、持ち主の好みや日常の一部がぎゅっと詰まっている。
私は人のケースの中身をこっそり見るのが好きだ。
電車の中やカフェの席で、さりげなく視界に入ったケースの中に、自分と同じ推しがいたら――心の中でひそかに握手を交わす。同志よ、と。何も言わないけど、心の奥でちょっとテンションが上がる瞬間だ。あの小さなスペースがあるだけで、見知らぬ誰かと自分の世界がふっと繋がる気がする。
一番驚いたのは、証明写真が入っていたケースだ。なぜ? 免許証みたいに本人確認用なのか、お守り代わりなのか。真相はわからないけれど、「へえ、そういう使い方もあるのか」と妙に感心してしまった。ケースの中身は個性の塊で、ルールなんてない。そこがまた面白い。
そういえば最近、私自身もシール専門店に立ち寄った。スマホケースに挟むのにぴったりなデザインを探して、棚の前で真剣に悩む大人ひとり。ハート型やキャラクター、ちょっとレトロな雰囲気のものまで並んでいて、まるで宝探しの気分だ。どのシールを選ぶかで、自分のケースの小さな世界が少しずつ変わっていく。完成した“私のギャラリー”を手に取って眺める時間は、ちょっとした自己表現の時間でもある。
透明ケースの中は、小さな宇宙みたいだ。
持ち主の好みやこだわりがコンパクトに閉じ込められていて、そこにはその人の人生の断片がほんの少し見える気がする。今日も私は、誰かのスマホケースをチラ見しながら、心の中で勝手に物語を作っている。
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