第21話「セミ、それは夏の爆音ライブ」
セミについてお話をしよう。
夏になると、土の中にいたセミたちが孵り、立派なセミの姿になる。いったいどこにこんなに潜んでいたのかと思うほど、毎年の大合唱は本当にすごい。
だが、今年はなんだかセミの声が少ない気がしている。
そういえば、海外ではセミを食べる文化があると聞いた。聞いた瞬間、「え!?あの状態のセミを!?パリパリ食感で身なくない!?いや、あるのか!?」と驚いたものだ。私はすっかり、セミが羽化した後の姿で食べられていると思い込んでいたので、すごいビジュアルを想像してしまった。
しかし周りの人に聞くと、どうやら昆虫の姿になる前の幼虫を食べるのだという。プリプリした食感らしい。それを聞いて、なるほどそれなら食感的にも“あり”なのかと、ひとり納得してしまった。そんなに食べる人が多いということは、実際に美味しいのかもしれない。……いや、気になるだけで、決して食べたいわけではない。そこは間違わないようにお願いしたい。
(セミの完全体になった状態でもカラッと揚げると美味しいようだと、上司が語っていた。…さては、食べたな)
しかし…ここまで声が減ってしまうと、なんだか寂しい気持ちになる。暑すぎて逆にセミもバタンキューなのだろうか。
今年の夏も異常な暑さだ。
セミの話を書いていたら、セミとの思い出が蘇る。少し寂しいし、よし、セミとの思い出を振り返ってみよう。
子供の頃、セミ取りは夏の定番だった。虫取り網を片手に、近所の公園や木が多い通学路を探し回る。目をこらして木の幹をじっと見つめ、セミを見つけるとそっと網を振りかざして捕獲する。うまくいった瞬間の快感といったらなかった。
しかし、調子に乗って捕まえすぎたある日、虫かごの中がセミだらけになってしまった。数が多すぎて、羽の音が重なり、まるで小さな竜巻のような音を立てていた。怖くなって、そっと蓋を開けると、次々と飛び出していくセミたち。家の中にも入り込んで、お母さんに本気で叱られた。
セミは捕まえるときは楽しいのに、近くにいると急に怖くなる。昔は平気だったはずなのに、大人になって虫全般が苦手になってしまった。
とくに羽の音。あの「ビビビビッ!!」という音はセミだけではなく、他の虫でも苦手である。
大人になっても、セミとの因縁(?)は続く。
ある夏、倒れているセミを見つけた。死んでいるのかと思って、恐る恐る横を通り過ぎようとしたその瞬間、足が開いているのが目に入った。
……あ、マズイ。
そう思った時にはすでに遅く、セミが急に元気になる。飛び上がって、私が差していた日傘に入り込む。羽の音はあいかわらず大音量。私の悲鳴も負けじと響く。日傘をぶん投げる。セミは飛び出す。さようならセミ。
うん、うんうん、いい思い出だ。……たぶん。
職場の近くにある公園は、今も一番セミがいる場所だ。信号を待っているとき、大合唱が耳に飛び込んでくる。チケットなしの無料ライブ。ひとりで聞くには、なんだかもったいない。
だから私は、スマホを取り出して録音する。録音ボタンを押して、そのまま親友にチャットで送る。
「夏の声だよ♡」
届いた親友からの返信は「イヤホン。耳。大変なことになった」。
……それは素直に、すまん。
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