第2話

神々の戯れに人々は困り果てていました。勝手に暇を持て余し、一部の人間に力を授けたことで、持たらされた者と持たざる者が差別化され平和とは程遠い世界になっていたためです。古の持たざる人々は持たらされた人々を支配されていました。抵抗こそしましたが神を模倣した力の前にはどんな武力も成す術なく蹂躙されていました。持たざる者は満身創痍で諦めかけていました。そこで、一人の青年が声を上げて提案しました。

 「彼らが神を模倣した力を持つなら、我らもその力を模倣しようではないか」と。

 持たざる者達は、持たされた者達を「魔法使い」と名付け、持たざる者の代表として「如月一族」が任命されました。長い年月を掛け如月一族は魔法使いの力を研究し解明に成功しました。そして力を模倣し魔法使いを駆除することが叶いました。そこから如月一族による模倣使いの駆除が秘密裏に行われ続けることとなったのです。

 太陽は目を覚まし、陽の光で夜の闇を払う。町は照らされ、救済と自由をもたらされる。たとえそれが仮初の救済だったとしても、たとえそれが仮初の自由だったとしても受け止めた側が救われたならそれでよいと思いながら一日を始めるのだった。

 俺の名前は如月 真きさらぎ まこと。高校2年生である。俺の家庭は、表向きはそこら中にある平凡な家庭で裏では「魔法使い」とやらを駆除する使命を授かった一族の直系にあたる。なぜ隠されているのかと言うと、どうやら「魔法使い」にも人権は存在する様でそれを駆除と称し始末するのは本来であれば倫理的にアウトだから隠して行っているらしい。そう、全ては世界平和の為に。

 だがしかし、俺は一族の使命とやらが嫌だった。あらかじめ決められた未来に選択肢は無く、職業はおろか結婚相手すら選択する事は出来ない。それだけでなく、幼少期から太陽が照りつけ、陽炎が揺れる暑い日も吹雪が激しく吹き、池の水も凍るほどの寒い日も修行を課せられ自由な時間など無かった。

 俺は遂に我慢出来なくなり、高校は、全寮制のスポーツ名門校に推薦入学し、実家から離れた。当時は周囲の大人達に反対されたが、運動神経は良かったお陰で教師側を味方に付けることを成功し、半ば破門という形で認められた。

 そこからの日々は忙しくも充実した日々を過ごしていた。部活動に勉強。学校生活に寮生活と今までの環境が変化したことで、新鮮な気持ちにもなれた。これこそが俺の求めていたものなんだと心の底から思えるほどに満足していたのだった。

 ある日、久方ぶりの休日ができたのでゲームセンターに足を運んだ。昔から好きだったアーケードゲームを発見し熱中していると聞き覚えのある声で自分の名前が呼ばれた。

 「よう、真。久し振り。元気にしてた?」

 声の方向に目を向けると、そこには中学校の時同じ中学に通っていた友人がいた。しばらく談笑した後、時間が空いているかと聞かれたので予定を確認し空いている事を告げると食事に誘われたので着いて行くことにした。

 食事の場として選ばれたのは焼き肉店だった。絶賛食べ盛りの自分にとっては大変嬉しいものだった。もし、親元を離れなければ今夜の食事も味気ない精進料理だったのだと考えると自分の選択は正しかったと思い笑みがこぼれた。

 肉を焼きながら、お互いに近況報告をしていると予想外の噂が出てきて耳を疑った。どうやら幼馴染の皇 蘭すめらぎ らんが夜中、街に現れては不良仲間を引き連れて未成年喫煙や未成年飲酒を繰り返し行っており、近隣住民が警察に通報するが警察は蘭の親の権力が強すぎるために警察も手を焼いているらしいとのことだった。

 蘭は町で高い権力を持つ皇一族の跡取り息子であるがゆえに彼もまた厳しく教育されていた。そのせいかプライドが高く完璧主義者。だがそれを他人に強要せず、自身の理想だけを追い求める。そんな人間だった。

 彼とは中学まで一緒に過ごしてきた。しかし彼は高校受験に失敗し、滑り止めの高校に進学した。そこからはお互いに別々の高校に進学し、疎遠になっていた。

 俺は想像していなかった話を知らされ、驚愕したがもう関わることはないのかもしれないと考え、焼けた肉をご飯と一緒に流し込んだ。

 あっという間に時間が過ぎ、寮の門限も近付いてきたため、次の連休に遊ぶ約束をして別れるのだった。

 月日が流れ、長期休暇に入った。その間にも部活動は忙しかったが清掃及び整備点検がある影響で寮が一時閉鎖される事になった。それに伴い、部活動も休みになり実家に帰る事を強要された。

 俺は、実家に帰るのは気が引けたが仕方なく我慢して帰宅することにした。

 久々ぶりに帰った故郷は、中途半端な町と化していた。都会と呼ぶにはアクセスが悪く、ビルなどの建造物も少ないが、田舎と呼ぶには自然が少なく、窮屈だ。ただ一つだけ変わらないものがあるとすれば、閉鎖的である事だ。住民がよそ者を受け入れないといった姿勢を当たり前に向けてくる。実に下らない。変化を恐れていては劣化していくだけに過ぎない。そう現在進行形で考えるのである。

 思いにふけていると、友人と約束していた時間がすぐそこに迫っている事に気付き、急いで荷物を実家に置き、身支度を済ませ集合場所へ向かった。

 ギリギリ間に合い、安堵していると友人は少し遅れてやってきた。「遅刻だよ。こっちは全速力で来たのに」そう言うと友人は謝った後にお詫びとしてジュースを奢って貰ったので許し、ショッピングモールに向かうのだった。

 ショッピングモールで一日中遊び、帰り道にあるコンビニで駄弁っていると不良グループが騒ぎながら歩いているのを見かけた。友人に彼らの事を聞くと前回話題に出した不良グループと同じだと言われ蘭を探してみるが見つからない。すると友人が蘭は最近見かけなくなったという。代わりに20代くらいの男が出現する様になったらしい。その男を見ると、どうにも蘭に似ている。友人にそれを伝えてみると気のせいだと言われ、確かにそうかと言ったがどちらにせよ自分には関係無いと思った。だが、俺には思い当たる節があった。古くからある一族の言い伝えで魔法使いが存在していた。もし蘭がそれなら駆除対象になってしまう。それだけは避けたい。明日、実家に帰って確かめてみる事に決めた。

 実家に帰ると、この場所も特に変化はない印象を受けた。洋式を取り入れたような白い壁に平凡な間取り。二階建てになっているのはせめてものプライベートを保つための個人的な部屋を作るためになっている。

 両親に再会すると、普通の対応をされた。普通の親子の様に身体や衣食住、人間関係の心配をされたのだが俺からすると、幼い子供に修行を強要しそれで自由な時間を奪ったり精進料理と称して味気ない食事を必要最低限だけとらせていたあんた達に言われる筋合いはないと思った。がしかしそんなことを口にしたのなら何をされるか解らない。ここは我慢して彼らが喜びそうな言葉を選ぶことにした。

 目的の祖父母の家に行きたい旨を伝えると両親は丁度明日、伺うことになっていたらしく俺も同行することに決めた。

 車で片道1時間。山中に位置する祖父母の家。いわゆる如月一族の本家とされるこの家は代々受け継がれてきたもので作りが古く、歩くたびに床のきしむ音がする。リフォームの話があったらしいのだが祖父母はこれを拒否。どうやら一般人には触れてはいけない物や立ち入ってはいけない部屋があるとのこと。

 祖母は嫁いできた人とのことで物腰が柔らかく非常に話しやすい。問題は祖父の方。頑固で基本的に人前に笑顔を見せない。更に自分だけでなく他人にも厳しく完璧主義。他にいる如月一族の親戚にあたる大人たちも同じような人達なのでこれがオーソドックスなのかもしれない。

 俺は出されたお茶を飲みながら、当たり障りのない話題を出したが、祖父に「御託はいい。今日来た目的、それはお前の幼馴染である皇 蘭のことだろう」と言われてしまった。こちら側の有無を言わせず続けて「彼は魔法使いになってしまった。よって排除対象とさせてもらう。異論は受け付けない。魔法使いを排除するのは如月一族の使命。」それを聞いて俺はもう止められる段階ではないことを悟り、せめて手を下す役目を務めさせて欲しいと懇願するが一般人に許される行為では無いと断られてしまう。ここで引き下がると一生後悔すると考えた俺は頭を下げ、過去の無礼を許し今一度一族の人間として受け入れて欲しいと告げると祖父は渋々了承してくれた。これにて人並みの幸せは終わったのである。

 そこからの流れは早かった。家に帰ったあと2枚の書類を出してサインをさせられた。書類の内容は退学届けと転校届けである。あまりの用意周到さに初めから仕組まれていた事なのかと考えたがもしそうだとしても、どうにも出来なそうである。転校先の高校は、蘭と同じ高校。どうやら蘭に接触し頃合いを見て始末する作戦らしい。そして始末した後退学。我が親ながら非情なものである。だが拒否権は無い。我儘を通して貰った身分である為甘んじて受け入れる事にした。

 再び始まる修行の日々。幼少期の感覚を思い出すところから始め戦闘術や魔法に関する知識をつけるための勉強をして遂に魔法を使うまでに至った。そして魔法が使いこなせる様になった時当主である祖父から実践形式の修行を申し込まれた。

 言われた場所に向かうと祖父は白装束姿になり瞑想をした状態で待ち構えていた。祖父はこれが最後の修行だと言い杖を構えた。俺もそれに倣い杖を構え、戦闘態勢に入った。

 戦いは熾烈を極め、明け方まで続いた。一瞬の隙をつき、こちらが仕掛けると祖父を囲んでいた結界が割れた。その衝撃で祖父は杖を落とし両手を挙げて降参を告げ決着が着いた。俺は初めて祖父に認められた気がした。

 感傷に浸っていると祖母が小箱を持ってこちら側に近付き小箱を差し出してきた。俺は恐る恐る小箱を開いた。箱の中には一本の杖が入っていた。

 祖父が「その杖は当主を継承者する者に代々引き継がれてきたものだ。息子にはそれを扱うほどの能力は無かったがお前なら扱えるはず。受け取りなさい」と言ってきた。

 俺は、杖を受け取って天に向けると杖は光を放ち周囲を照らした。その光景を見て祖父は当主の座を俺に譲ったのだった。それと同時期に魔法使い狩りの任務もこなす様になった。最初は父について行く形で任務をこなしていたが、次第に独りで行う様になっていた。魔法使いの存在を初めて知った時は少ない人数しかいないと思っていたがその考えは甘かった。未だに多く存在していた。そうして駆逐している間に段々魔法使いが人間に見えなくなってきていた。今となっては、知能を持たぬ畜生だと認識している。

 ある日任務を遂行した帰りにあの不良グループを見かけた。気になり尾行していると大人の男性が話しかけてきた。

「久しぶり。僕のこと覚えてる」と言われた。しかし思い出せず「ごめんなさい。どちら様でしょうか」と答えてしまった。色々聞き出すチャンスだったのにそれを無下にしてしまった。彼は残念そうな表情をし、何も言わずに去ってしまった。去り際に微量だが、魔力の流れを感じもしかしてと思い改めて声を掛けようとしたところ姿は消えていた。痕跡を残さず消えた状況を鑑みて疑念は確信に変わった。彼こそが皇 蘭なんだと。

 その後も高校にて勉学を励みながら蘭を探し、放課後は任務を遂行するといった生活を送っていた。ある日の休日俺はいつも通りパトロールしているとまるで電流が身体を走るような感覚とともに膨大な魔法陣が展開されているのを目撃した。

 本日からまた学生生活が始まった。しかしながら以前とは違い任務を遂行する為の潜入捜査である。何としても蘭を見つけ出しこの手で始末する。もう迷いは捨てた。彼が幼馴染であろうが関係ない。

 教室に入り周囲の人物を見る。どうやら畜生はいないらしい。教師が説明をすると、今度は自己紹介を求められた。

 「初めまして。如月真といいます。よろしくお願いします」

 テンプレート通りの挨拶をする。周囲の反応は普通だった。何かに期待している者もいれば興味なさそうにしている者もいた。中には話を聞いていない者もいた。どうでもよく思えた。彼らと関わることはほとんど無い。何故なら皇蘭を始末した後はこの学校を去ることになるからだ。

 ふと思い立ち「この学校に皇蘭という生徒がいるという話を聞きました。彼はどこのクラスですか」と聞いてみた。すると、クラスメイト達は一斉に目を点にして驚き空気が冷たくなった。数秒の沈黙が流れた後ざわめきだした。ひそひそ話に耳を傾けるとこの学校随一の不良生徒だそうで彼とその友人に関わることはこの学校ではタブーとされているらしい。

 クラス中がざわめいているのを無視して担任の教師が廊下に連れ出してきた。扉を閉め鬼気迫る表情で蘭との関係性を尋ねてきた。俺幼馴染である事を告げると疑いの目を向けてきたので魔法を行使し疑念を消した後持っている情報を開示させた。どうやら蘭は現在不登校児になっており、家へ連絡してもまともに取り合ってもらえていないらしい。良からぬ噂も流れている。学校としても退学処分にしたいものの皇家の力が大きく不可能となっていたらしい。それ以外の情報は引き出せそうになかった為魔法を解除した。人間向けに魔法を使用したのは初めてのことだったが不快に感じた。任務とはいえ魔法を自身の為に、使ってしまっては人間以下の畜生と同じになってしまう。手段を選んではいられないはただの言い訳。もう人間相手に魔法は使わないことに決めた。

 ある日、高校生活が板についてきたころ臨時休校が訪れた。何でも自分が転校してくる前に祝日の登校がありその振り替え休日だそうだ。HRで告げられた時、周囲の人間は喜び来る日の休日の予定を考え始めていた。正直言って羨ましいと思った。自分には休日など存在しない。人々が休んでいる間世界平和の為に動かなければならない。実際その日も能力を衰えさせないための修行とパトロールをしなければならない。

 俺は修行をこなし町のパトロールを始めた。もしかしたら蘭を見つけるかもしれない。そんな淡い期待を抱いて。

 高校の校舎は候補から外し蘭の実家周辺や汚い裏路地等を探すが一向に見つからない。どうしたものかと考え始めたとき一気に魔力の流れを感じた。普段なら遠くの匂いをかいだ様に意識しないと感じにくいものなのだが今回は思わず鳥肌がたつほどの悪寒や痺れが生じた。発生地点の方を見ると高校の校舎があった。俺は急いで学校に向かった。近づけば近付くほど魔力の流れを感じた。恐らくこの魔法が展開された時、この世界は終わる。そう思った。援軍を呼ぶ余裕すらないおろか魔法を発動前に止めることすら叶いそうにない。だがしかし手詰まりでは無い。強大な魔法は放たれた後から発動するまでの間に時間を要する。その間に撃ち落とせれば不発に終わることは既に数多くの戦いで実証済みだった。

 読み通り魔法は放たれた後すぐに発動せずそのままの形で空に飛んで行った。目視で位置を確認し急加速した。反動で身体がちぎれそうになるが気にしている場合ではない。例え四肢が捥げようともこの魔法だけは止めなければならない。そう心の底から思った。その甲斐あってか発動前にたどり着くことが出来た。後はありったけの魔力を駆使して魔法で撃ち落とすだけ。限界間近の身体を奮い立たせ急上昇し真上から弾幕を打ち続け最終的に撃ち落としに成功した。その刹那、緊張から解放され痛みが全身を回りそのまま落下してしまう。何とか持ち直そうとするが力が入らない。死を覚悟したその瞬間、フードを被った人物が近づき魔法を使い俺の身体を浮かせそのまま地面に置いた。

 起き上がろうとしたが、身体が思うように動かない。消耗しすぎた影響なのか、あるいは魔法をかけられたのか。うつぶせのまま考えるが一向に答えは見つからない。そうしているうちに段々と意識が遠のいていく。

 目を覚ますともうそこには蘭の姿はなく、知らない人間の後ろ姿しかなかった。動けるようになったことを確認し、立ち上がって「お前は何者だ」と杖を相手に向けながら問いかけると奴は振り向いた。顔を見て安心し胸をなでおろした。そこにいたのは父親だった。

 杖を下ろし駆け寄ると逆に杖を向けられた。

 「どうゆうつもり?俺は真だよ。」そう弁解すると、父は杖を向けながら、「そんなことはわかっている。お前は任務に失敗した。それが事実。なぜ失敗したのかわかる?」そう問いかけられるが答えは見つからない。自分のベストは尽くしたし、何なら一種の成功とまで思えた。何故なら世界を滅ぼせる程の強大な魔法を止めることが出来たからだ。結局、正直に分からないと答えた。すると、父は大きい溜息をつき「お前は無駄なものがある。それは甘えと人間としての心だ。この2つが無ければこんなことにならなかった。我ら如月一族は人間らしさを捨てなければならないものなのだ。」そう言うと父の持つ杖が光を放ちだす。その光を見たとたんに感情がほとんど消えてしまった。残った感情は魔法使いに対する怒りと如月一族としての責任感だけになってしまった。

 そこからの記憶は無い。ただ淡々と魔法使いを始末していくだけ。相手にどんな過去があろうとも、何歳であろうとも老若男女関係なく魔法使いであることを気付いた瞬間に有無を言わせず始末し続けた。

 これでよかったのだ。人は生まれる環境や自分に課せられた使命。そしてあらかじめ決まっている運命を選ぶことはできない。生きていく中で大切なのは選ぶことのできないものに対して不平不満を言うのではなく潔く諦め選ぶことのできるものを慎重に選び、決まったものに誠意を込めて実行することだ。

 そこまで書いた後は満足して日記をそっと閉じたのだった。

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貪欲な魔法使い 逆津井 巧 @sakatui

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