貪欲な魔法使い

逆津井 巧

第1話

神々は暇を持て余していました。魂を基に生命を生み出しては、寿命が尽きた魂を回収しそれをまた基に生命を生み出す。それの繰り返し。そこである神が名乗りを挙げ、提案しました。魂と魔力を基に生命を生み出し、魔法を使えるように神器を創造し、魔力を宿した人間を時の輪廻に巻き込む。その途中で神器を渡せば面白いものが見られるのではないかと。その意見に過半数の神々は賛成し、数々の神器と魔力を宿した人間を創造したことで神々の戯れが始まったのでした。そしてその人間の一人はとある裕福な家庭に産み落とされるのでした。この時生まれた人の子はまだ知りませんでした。自身の人生は神の戯れによって悲劇となるのだと。

 太陽が眠り、月が星々を率いて顔を出す。夜の闇に包まれ、眠れるはずの街はネオンの光に照らされ、眠ることを許さない。自由だったはずの世界が人類のエゴによって不自由になっていった光景を僕は自分に重ねて今日も夜の街に逃げるのだった。

 僕の名前は皇 蘭すめらぎ らんで高校二年生をやっている。由緒正しい家庭の長男として生まれたことで、幼少期から厳しく躾られてきたが、何事も才能がなく、優秀な弟が生まれたことと高校受験に失敗してしまったことがきっかけとなり両親に見限られてしまった。

 そういった経緯で僕は家に居場所を見つけられずに、夜の街へ逃げ、不良仲間とつるむのが習慣になっていた。最初の頃は補導されそうになったことはあるが名前を名乗ると親の根回しが効いているようで、とたんに敬語になり、見逃された。それ以降は警官が近づいてくることも無くなった。その時は両親に感謝していたが、所詮泳がされているだけだと気付き両親に余計に嫌悪感がにじみ出てくるのだった。

 今日も夜の街に駆り出し、いつも通りの仲間と煙草をくわえながら、酒をあおっていると、酔いが急に回ってきた。しかしながら酔ってつぶれていると何をされるか解らない集団なので、酔っていることを悟られないように、その場を立ち去った。誰も居ない路地に入ると路地特有の臭いが鼻腔を突き抜け一気に吐き気が催された。僕はそれに耐え抜いた。その反動で疲労が襲い掛かってきたので建物にもたれかかりながら、ゆっくりと腰を下ろし、俯いていた。

 一時間ほど座っていた気がして、腕時計を見るとまだ十分しか経っていないことに気付き、安堵した。取り敢えず、明日も学校がある為帰ろうとした。しかし、平衡感覚がとれず、盛大に転んでしまった。こんな醜態を犯すのは久々のことだったので動揺していると「大丈夫?水あげようか」と女性の声が聞こえてきた。

 人に親切心で声を掛けられた思い出のない僕は今回も親に恩を売る為に声を掛けてきたのだろうと考え「僕のことを助けても、無駄ですよ。親は僕のことなど気にも留めていないんだ」と一人で立ち上がろうとしたが力が入らない。見かねた様子で女性が僕の腕を掴むと僕はまるで浮いた様な感覚になり、そのまま立ち上がった。

 今まで感じたこともない感覚に動揺していると、女性は「こんなこともできるよ」と言いながら手の平から水入りのペットボトルが生えてきた。差し出された水を飲むと体調が一気に回復した。ありえない現象に混乱していると「聞きたいこともあるだろうし、ちょっと場所を変えようか」と言われ、おとなしく着いて行くことにした。

 警戒していた気持ちがあったのにもかかわらず、知的好奇心の方を優先してしまった事に気付き、やっぱり帰ろうとすると女性は「ここなら安心でしょ。さあ座って」と半ば強引にベンチに座らされた。

 ベンチは夜の冷気に包まれ人肌をこわばらせた。冷たさをしのぐために、尻とベンチの間に手を入れてみるが大して変わらなかった。そんなことをしている僕をよそ眼に、女性は夜空を見つめながら「私、魔法使いなんだよね。でも、もう疲れたから辞めて普通に生きたいな」と言ってきた女性の横顔はどこか哀愁が漂っていた。そんな様子を見た僕は一方的に与えられてきた自分が言うにはらしくないなと思いながら「そんなことを言うなら、僕にその能力を譲ってくれませんか」と言った。精一杯の優しさのつもりで投げかけた言葉は女性の心に届いたかどうかは不明だが耳には届いたようでその答えを待っていたかのように女性は自身の薬指につけていた指輪を外し、両手で祈る様に包んだ。その瞬間に指輪が光を放った。その光は指の隙間から漏れるほど激しく光り、僕はあまりの眩しさに直視が出来なかった。

 光が収まり、再び暗闇に戻ると女性は僕の左手を引っ張り、「返品不可だよ」と言い薬指に指輪を嵌めた。その瞬間脳に電流が走った様に魔法の使い方と魔法を使った際に受ける代償のことが情報として入ってきた。どうやら魔法を使用したことによって生じる影響の規模によって代償として寿命が削られる様である。

 困惑しつつも納得した様子を確認した女性は嬉しそうに立ち上がり「喜ばしい事に、これで君は魔法使いで、私は一般人になった。後は君の好きなように使いなよ。でも、使いすぎると私みたいになるから気を付けてね」と去っていこうとしたので、気になって「あなたの名前は、何ですか」と尋ねると女性は振り向かずに「名乗る程の者でもないし今後会うこともないから忘れてもらって構わないよ。蘭君」と言って去っていこうとしたところを追いかけようとして立ち上がろうとした瞬間にカラスが目の前を飛んできた。カラスを避けるともう既に女性の姿は見えなくなっていた。

 僕は女性を探すのを諦めて明日も同じ日常に戻らないといけない為に、家に帰って寝ることにした。家に帰ると両親と弟が仲のよさそうに談笑していたが僕のことを見るなり会話の流れを変え、聞こえるように「あんな風になるなよ」と父親が弟に言っていたのを見て、この場所はいつも通りの光景だと思うのだった。

 朝の陽差しに照らされて、目を覚ます。外から雀の鳴き声が聞こえる。目覚めはいいようで、時計のアラーム音が鳴る前に起き上がることができた。また、いつもと同じ日常が始まってしまったと憂鬱な気持ちになり、思わずため息が漏れだしてしまう。気を紛らわす為に、両手で顔をこすると引っ掛かりを感じた。毎朝のルーティーンに変化があった為に、気になり違和感のあった左手の薬指を見てみると指輪がついていた。

 指輪がついていたことで、昨晩の出来事が夢では無かった事に気付いた。もしかしたら本当に魔法が使えるのではないかと考え、左手の人差し指を立てて光をイメージしてみると異物が足のつま先から頭頂部を経由し指先まで流れるような感覚が起こった後、指先から光り輝く球状の物体が出現した。このままでは騒ぎなると危惧した僕は、右手で出現した球体を覆い被すと球体は姿を消した。

 僕は、安堵して時計を見ると時間がギリギリになっていることに気づき、慌てて着替えて家を飛び出した。もしや、さっきの要領で全身を光に変えることができれば光速で移動できるのではないだろうかと考えた僕は動かしていた足を止め、試しにイメージしてみた。すると、全身が光り輝き宙に浮かんだ。そして目的地を発見すると一瞬で移動した。減速することなく真っ直ぐに校舎に近づいていく様子を見て校舎に衝突してしまうことを危惧して魔法を解除すると、身体に物理的な衝撃が加わりそのまま墜落しそうになったが、打ち付けられる瞬間に上昇気流を発生させることで何とか大事には至らずに済んだ。時計を見ると時間に余裕があったので、残りの距離は歩いて登校する事にした。

 この時は気付いていなかった。光速で移動したことで、時間を超越していたことに。

 それからの日々は潤いに満ち溢れていた。朝は光魔法を駆使して登校出来るためギリギリまで眠れ、昼間は友人と平穏に過ごしつつもトラブルが起きたときは魔法で解決し、夜は変身魔法で自身を大人の姿に変えることで、年齢確認をパスしてお酒や煙草を買う。そして火炎魔法で煙草に火をつけて吸いながらお酒を飲む。まさに、この世の全てを手に入れたような感覚だった。代償として寿命が支払われていることにも気付いていたが、命の価値が分かっていない僕はそんなこと取るに足らない物だと考えていた。

 ある晩のこと、いつものように変身魔法を使って夜遊びをしていると中学校まで同じ学校で過ごしていた幼馴染を見つけた。幼馴染は自分とは違い、平凡な家系に生まれて両親からも愛されて育ってきた。それだけでなく、運動神経や知力共に高く人望もあった。何より、全てにおいて結果を残したことで高校からお互いに別の道を歩んでいった。そんな過去があり僕は、嫉妬心と劣等感を感じていた。しかし、今僕は魔法を使える。きっと声を掛ける資格があるはずだ。そう思い僕は幼馴染に声を掛けた。

 「久し振り。僕のこと、覚えてる? 」すると幼馴染の彼は「ごめんなさい。どちら様でしょうか」と答えてきた。

 変身魔法を解除していないため至極当然のことなのだが、アルコールと想定外の返答で虚を突かれた事で冷静な判断が出来なかった僕は、彼は僕のことなど眼中に入っていないのだと考えてしまい、彼の質問を無視して帰途につくことを選択した。

 家に帰ってきた僕は、絶望しながらも鏡を見て自分の姿を戻そうとしたが、自分の姿がどんなものだったのか思い出せない。どうやら変身しすぎた故に元の姿を忘れてしまったようだ。いろいろ試したもののどの姿も違和感がある。自分すらも本来の姿を忘れてしまうと、もうこの世界で本来の姿を覚えている人間は誰もいなくなってしまう。そう思った僕は、慌てて過去の写真をあさってみるが、結果むなしく時間だけが過ぎていってしまい、より深い絶望を味わってしまうのだった。

 家に帰ってきた僕は、絶望しながらも鏡を見て自分の姿を戻そうとしたが、自分の姿がどんなものだったのか思い出せない。どうやら変身しすぎた故に元の姿を忘れてしまったようだ。いろいろ試したもののどの姿も違和感がある。自分すらも本来の姿を忘れてしまうと、もうこの世界で本来の姿を覚えている人間は誰もいなくなってしまう。そう思った僕は、慌てて過去の写真をあさってみるが、結果むなしく時間だけが過ぎていってしまい、より深い絶望を味わってしまうのだった。

 絶望に打ちひしがれているうちに1つの考えがよぎる。もし、過去に戻れたのならこんな思いはせずに済んだのではないかというものだった。本来は不可能な行為だが、今の僕には魔法がある。試す価値は十分にある。そう考えた僕は過去に読んだ本を思い出し、試してみることにした。

 外に出て実験を始める。自身の肉体に光を纏わせ上空に飛び立った。最初は順調だったが集中力が途中で切れてしまい、イメージが消えてしまうと纏っていた光も同時に消えてしまう。そしてそのまま落下してしまう。

 それから何度も挑戦するが一向に成功せず、時間だけが過ぎ日が昇り始めてしまい、諦めてしまうのだった。

 結局、寝不足のまま朝を迎え、いつも通り登校した。学校に着き、クラスメイトに挨拶すると友人が進路希望調査票を持って近付いてきた。どうやら自分の姿が変わっていることに気付いていないようで、いつも通りのテンションで話し掛けてきた。

「進路希望調査票書いてきた? 見せて」そう言われて白紙の紙を見せると「白紙かよ。ちなみに俺は大学に進学するよ。教師になりたいからさ」と言われ、心が揺らいだ。他の友人にも進路を聞いてみるが、皆何かしらの夢を持ち、未来に希望を持っていた。魔法を使えない人間として見下していたはずが、魔法を使えずとも真っ直ぐに未来を見据えて一生懸命に生きていた。そのことに気づいてしまい、果たして自分はこのままでいいのかと考えてしまった。寿命を削る行為だと分かっていながらも自分の欲求の為だけに魔法を使い続けているというのは欲を貪っているだけに過ぎないのではないか。未来のことや自分の体裁を考えないようにしていたために、精神的なダメージは想像以上のものになってしまった。

 結局、後悔だけで答えが見つからず、進路希望調査票は白紙で出し、そのまま帰途に着いた。その道すがら一人の女性がビルの屋上に立っているのが見えた。よく見ると柵の外側に立っているのに気づき、すべてを察した。予想通り女性は飛び降りた。僕は、光魔法を行使し光の速さで近付いて女性を助けた。初めて魔法を他人のために使った瞬間だった。僕が優越感に浸っていると気を失っていた女性は目を覚ました。その刹那、女性は僕の顔を平手打ちしてきた。感謝されると考えていた僕は、意外過ぎる反応に頭を混乱させていた。情報が処理しきれない僕をよそに女性は声を張り上げ「なに余計な事してんのよ」と怒鳴ってきた。大きな声で怒鳴る女性と怒鳴られている男子高校生という絵は僕には理解しがたいがエンタメとして成立する様で、通行人は歩みを遅くし、スマホのカメラを向けていた。彼らの顔は獲物を見つけたと言わんばかりに口角を上げ、気味の悪い顔をしていた。女性は気が済むまで僕を怒鳴りつけた後その場を立ち去って行った。一方、僕は立ち尽くしていた。命を助けたのにも拘わらず酷い仕打ちを受けたことに納得出来なかった。

 家に帰ると父親が呼び止めてきた。久し振りの会話に何を言われるのかと不安になっていると父親は「今までのお前の行動には目を瞑ってきた。しかし今回は流石に目に余る。まさか痴漢行為をするとはな」と言ってきた。僕は、弁解しようと試みるが「言い訳は結構。荷物をまとめて出ていきなさい。お前はわが子では無い」と言い捨てられた。

 結局、人間というのは正しさより体裁の方を優先して生きる生き物なんだと思い知り、正しくなれないのなら害でしかないと考えた僕は、1つの計画を立てた。それは、魔法で世界を崩壊させようというものだった。

 だが、微かに残った正義の心が止めに入ってきた。終わっている人間が周りに多くいるだけでそれが人類のすべてだと見切りをつけ、彼らが防ぎようもない超越した魔法の力で世界を崩壊させるのは倫理的に間違っているのではないかと。しかしながら僕はそんなことを気にしていられるほど余裕はなかった。

 それからというもの、何をやるにしても常に世界を崩壊させるための計画のことが頭によぎっていた。人類だけ滅亡させるのは不可能だと考えた僕は地球の原型を保たせつつ生命を刈り取ることにした。その方法として仮想の隕石を創造し、打ち上げ宇宙分裂させそれぞれに結界を展開し、保護した後に重力によって落下させる。そして着弾する直前に結界を解除して爆発させる。といったものだ。最初から結界を展開しない理由は魔力をなるべく節約するためである。また、大規模な魔法故に与えられる代償が大きく、自分自身の寿命も尽きてしまうことも知っていた。だが、それでいいと思っていた。自分含めて人類は罪を重ねすぎてしまった。確かに善良な人間もいるかもしれないが、連帯責任ということで全員まとめて一度リセットした方が良いと考えた。そして魔法に名前を付けることにした。何故なら魔法はイメージが具現化した姿であり、名前を付けたほうがイメージしやすいからである。魔法の名前は終焉魔法。シンプルだがこれで十分にイメージ出来る。

 後は、砲台とする場所なのだが、学校の屋上に決めた。ここなら人が立ち入らない時間も理解しているし、高い位置から打ち上げられるため、飛行機や鳥が飛んでいない限り、魔法が衝突し途中で爆発することもない。失敗は許されない。最適な時間を探しながら入念な準備に可能な限り時間を費やす事にした。

 そして数日が経ち、その日は突然やってきた。天気は雲もなく快晴で学校は振替休日で稼働していない。調べた所、どの飛行機も上空を通過しない時間が発生していた。この日この時間しかチャンスは訪れないと考えた僕は、早速校舎の屋上まで移動し、周囲に鳥がいないことを確認した上で終焉魔法を唱えた。

 魔法を唱えると思わず鳥肌になるほどの魔力の流れを感じ、呼応するように光を伴う球体が発生し、球体は周囲のエネルギーを吸収していった。それと同時に心臓が締め付けられ血反吐を吐いた。それほどまでに強大な魔法だと考えながらもイメージを保ち続けた。そして十分にエネルギーを吸収すると、球体は徐々に上昇していった。

 初期段階はクリアしたが喜ぶ余裕はなかった。強大な魔力消費に伴い代償も大きく、急激な寿命の削減に身体が悲鳴を上げていた。全身が脱力し倒れこむ。そして口や目から血が流れた。視力も低下し焦点が合わない。命の終わりを感じた。

 力尽きそうになりながらも大罪を犯した身として世界が終わるその瞬間まで見届けなければいけないと考えた僕は、視力を回復させ、全身を引きずりながら柵に近付き柵をつかまえ、手繰り寄せる様に身体を徐々に立たせた。

 身体を立たせた後望遠鏡を取り出し上空を見上げるとまだ確認出来る位置に球体があったので観測をし続けていると球体の横から正体不明の飛来物が飛んできてそのまま空中で爆発した。爆発した位置を考えると鳥は考えにくく飛行機もこの時間には飛んでいないはず、そう考えていると、上空から人影のようなものがほうきにまたがっているのが見えた。その光景を見て僕は、魔法使いは自分以外にもいたのかと考えた。そしてその人影は段々とこちらに近づいてきた。僕は、嫌な予感がして結界を展開し、自身の肉体を保護したいわゆる防御魔法である。対人戦を想定していなかった為に、有り合わせの想像力と残っている寿命で創造してしまったせいで、強度が低くなってしまった。

 嫌な予感は的中してしまい、魔法使いは僕に攻撃してきた。結界は脆く、攻撃が当たると耐えきれなくなり砕けてしまった。その衝撃で吹き飛んでしまい地面に身体を打ち付けてしまう。直撃こそしていないが、与えられた衝撃と身体に蓄積されていたダメージで起き上がれずにいると、魔法使いがほうきにまたがったまま近付いてきた。魔法使いはフードを深くかぶっており、顔がよく見えなかったが何者かと問いかけるとフードを外してきた。

 顔を見た僕は、戦慄した。魔法使いの正体は幼馴染の彼だった。

 「幼馴染だから魔法を好き勝手使っていても目を瞑ってきたけど、さすがにあの魔法はやりすぎだよ」彼はそう言うと、持っていた杖をこちら側に向けてきた。何をする気かと問うと「君みたいな魔法使いは排除しないといけない。まあ、直接手を下さなくても虫の息だから変わらないかも知れないけど、その意志と力を引き継がれると困るからさ」と言って杖の先端を光らせプラズマを発生させた。発射される前に僕は、「お前は何者か」と問うと、彼は微笑んだ、真顔に戻して「魔法使いを止められるのは魔法使いだけでしょ。だったら僕は、君を止める魔法使いとさせてもらうよ」そう言って彼はプラズマを発射した。

 僕は、今度こそ終わったと思い、過去に戻れたのならこんな悲劇は訪れないのだろうかと考え、過去に戻るイメージをし始めた。すると過度なストレスにより集中力が急激に上がり邪念が一切なくなる。いわゆる覚醒状態になったことでイメージがより鮮明なものになった。今ならいけると確信し目を瞑る。その瞬間、全身が輝きを放ち時空を超えた。

 私は目を開くと、夜になっていた。周囲を見回すと、自分のいる場所は学校の屋上だった。後は過去か未来のどちらについたのかを確かめる為に、移動しようと試みるが体が動かない。仕方がないので尽きかけの寿命を絞り出し、大人の女性の姿に変身した上で指先から糸を生成し自身の肉体を操り人形のように動かすことにした。残りの寿命は三時間を切っていた。

 そうして街を歩いていると、看板の表示や広告。そして街の景観を見ると過去にタイムスリップしていたことに気が付いた。

 残る問題は、今の正確な日付と時間を知ること。そう考えた私は携帯電話を取り出そうとするが見当たらなかった。残された時間がほとんど無い私は、諦めて通行人の男に聞いた。最初は怪訝そうにされたが、携帯電話をなくしてしまったと説明すると、教えてくれた。日付と時間を聞いた僕は、1つの考えがよぎった。それを確認するため、トイレに入り鏡を見た。

 鏡を見てやっと考えていた謎が解明した。あの日、私に力を与えた女性の正体は未来からタイムスリップした私自身だったのだと。

 そうと決まれば、この時代の私がどこにいるかは見当がつく。そして記憶をたどり時間に追われながらも探し続け、ようやく見つけることが出来た。予想通り誰も立ち入らない様な薄気味悪い路地に半分だけ体を出してうつむいている。

 私は悩んだ。話し掛けてしまうと彼が送るこれからの人生が確定してしまう。まだ可能性を秘めた青年の人生を自分の欲だけで決めてよいものかと。だが、そうしている間にも時間は過ぎていく。悩んでいると青年は立ち上がろうとして失敗し、転んでしまう。その様子はまるで生まれたばかりの小鹿のようだった。

 転んだ青年の顔を見ると、悩みは消えた。青年の眼には輝きが無く、口角は下がりきっていた。もし、ここで手を差し伸ばさずに消えてしまうと彼は朽ちていってしまう。そんな気がして放っておけなかった。

 そうして能力を貰った日のことを思い出しながら同じような言動を再現した。シナリオを変えてはいけない。少しの変化で未来が大きく変わってしまうというのを知っていたから。その間にも身体が崩れていく。今の身体は魔法で変身した姿。そして本来この時間軸にいないはずの存在だから、代償が払えなくなった時点できっと灰になって消滅してしまう。大罪を犯した時点で供養して貰える資格もない。猶予をもらえただけでも感謝していた。

 そうして短いひと時を過ごし、約束の時間が数分と迫っていた。青年に魔法を見せ、悩みを打ち明けると譲ってほしいと懇願してきた。それを聞き入れ、青年に気付かれないように近場でゴミを漁っているカラスに青年が追いかけようとしたタイミングで青年の目の前を飛ぶように命令した。

 そして舞台は整った。思い残すこともない。後は託しその場を後にするだけで私の物語は終わる。

 指輪を外し、姿を保ちながら立ち去れるだけの寿命を残し、魔力を指輪に込めた。すると、指輪は緑色の光を放ちながら縮小していった。小さくなりすぎではないかと心配になったが、杞憂だった様で青年の薬指に嵌めるとピッタリだった。俗に言うならシンデレラフィットと言うのだろうかと考えるほど馴染んでいた。

 後は濁さず、立ち去るだけ、青年がたとえ一瞬でも満たされる為にも青年が自分自身を責めない様にしないといけないと思い、大げさに喜んだ様子を見せ向かい側の路地に移動しようとした時あの日私がそうしたように青年は追いかけようとしてきた。そして鴉は舞台の幕を閉じるように青年の前を飛び去っていった。

 路地に入った私はあたりを見回しその場に誰も居ない事を確認し、座り込んだ。この景色が最後かと街の景色を目に焼き付けようとする。街の風景は変わらずネオンと赤信号の光に照らされていた。空は暗闇で覆い隠して眠りについているのにもかかわらず、街は眠りにつかず稼働し続けている。首を下に傾けると煙草の吸殻と開封済みのカップ酒と空き缶が転がっており、その横を小動物たちが横切っていく。その光景に懐かしさすら感じた。裕福な家庭に生まれていながらも生かせることもなく、自身の能力不足が原因で両親の顔に泥を塗りたくり、それだけに飽き足らず他人に対し劣等感や嫉妬心を抱く。魔法を使えるようになってからも、基本的には自分の私利私欲を満たすだけに使い、他人を助けたかと思えば、恩返しを勝手に期待し否定されただけでへそを曲げた。最終的には被害妄想をして世界を終わらせようとするが幼馴染に阻止されとどめを刺されそうになるが惨めったらしく生き延びたいと願い過去に戻り、過去の自分に一方的に能力を押し付けた。そんなことをした結果、こんなざまになっていた。考えれば考える程自分の人生に問題点が出て来た。そんなことを考えていると、もう体が限界だったようで、まるで劣化した陶器のように徐々にひびが入り全身に入ってから徐々に灰になっていった。どうしてこうなったのか。神は本当に存在するのだろうか。存在するのなら、何故、裕福な家庭に才能をもたらさない状態で産み落としたのか。そう考えていると、心の器が負の感情で溢れる。それに呼応するように瞳が潤い、溢れてしまい涙が零れるがしかし零れる筈の涙さえも灰になって風に流されていく。その様子を見て後悔しても、もう遅いのだと気づき、せめて笑って終わろうと口角を上げてみるがうまく笑えない自分に呆れた。もういいやと微笑んだのを拍子に一気に全身が灰になり、山のように積み重なった灰の山は跡形もなく風に流され旅立つのだった。

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