汗と光と、俺たちの夜

天上天下全我独尊

プロローグ

──火花と欲望のあいだに、俺たちの生き様がある。


鉄板の上を歩くたび、靴底が焼けるような音を立てる。

朝六時。太陽より早く目を覚まし、重たい鋼材と油の匂いに包まれるこの現場が、俺の城だ。


「今日も一日、ゼロ災で行こうやァ!」

番長のような現場監督が吠える。俺たちは腕をぶんぶん回しながら、金属と汗をぶつけ合う。

誇りだ。俺はこの鉄の匂いが好きだ。仲間が好きだ。そして──この疲労が、夜のエネルギーになる。


夜。

街の光が、ネオンじゃなく配信機材のLEDでチカチカ瞬く時刻。

俺は作業着を着替えず、そのままカメラの前に座る。画面の向こうで、何百人、何千人の視線が、俺と“彼女”を待っている。

今夜のゲストは、深夜に工場弁当を配達してくれた、細い目をした栄養士見習い。声が小さくて、手が震えていたけど、俺にはわかる。彼女の奥に火がついているって。


「……じゃあ、始めようか。栄養と労働、どっちが先か、今夜決めるぜ」


チャット欄が湧く。

「ガテンエロ来た!」「鉄筋より熱い!」

画面越しの視線をすべて吸い込みながら、俺はそっと彼女の肩に触れる。

あの日の熱が、ふたたび鉄のように軋んで──夜が、始まる。


“ブルーカラー万歳。俺たちの労働は、昼も夜も、止まらない。”

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る