失踪

荒木明 アラキアキラ

第1話

 幼い頃から失踪への欲求があったように思う。しっそう、単語からしてとても甘美な響きではないか! 全てを投げ出して、遠くに行く。いつも乗る電車のいつもは行かないような場所までだ。なるべく身軽な方が格好良い。そうだな、少しのお金とマーガリンパンと文庫本一冊ぐらいがちょうどいい。


 派手な髪色もこの欲求に根付いているような気がする。母の腹から出てきた私の姿を弄り、その髪から黒を抜き、自分ではない何かに変わるのだ。普段何も頓着しない祖母が、やたらに私が髪を染めるのを嫌がるのは、この欲求を見透かしているからだろうか?

ブリーチという行程が私は好きでたまらない。頭皮が痛痒くなり、血が出たこともあった。私にとっての一種の自傷行為なのかもしれない。

 そして私の髪は美容師さんが羨むほどに黒がよく抜けるのである。


 さて、そんな白金のような髪をした私は、この平日の最中に、失踪をしていた。詳しく言えば、学校に向かうのとは反対の電車に乗り、海岸に辿り着いていた。

 潮風が身体に絡まり、遮られることのない陽射しが身体を刺していた。周りにはまばらに人がいるものの、私の知る人、そして私を知る人(こちらの方が重要)は一人もいないのである。

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