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でもすぐに後悔した。あんまり強く否定すると、こちらが王を嫌っていると思われてしまうかもしれない。なので、小さな声で付け足した。
「親しく……というのは恐れ多いのです。私と陛下では身分が全く違いますし……」
ソリョンとの逢瀬はずっと続いていた。それは楽しいものだったし、ソリョンは良い聞き手であるし、ソリョン自身もまた楽しそうで――ううん、楽しそうと言ってしまうのはやっぱり恐れ多いのだけど……でもそんなに嫌そうではないよね、とスニは思う。
自分が楽しいと思ってるのと同じくらい、陛下も楽しい気持ちなら良いのだけど……スニはそう思うものの、あまり自信はなかった。でも嫌われてはないのだろう。こうやって頻繁に会うのだから。ああでも……陛下は私の奇跡とやらを待って……そのためにしぶしぶ会ってらっしゃるのかしら……。
スニがああでもないこうでもないと考えていると、ヨンギルの声が聞こえてきた。
「陛下に友人ができたのは喜ばしいことです」
「友人だなんてそんな……。前にも言ったように身分が違いますので……」
「陛下はそんなささいなことを気にするような方ではありませんよ」
これを否定するのは、ソリョンに対してもヨンギルに対しても失礼な気がした。そこでスニは黙っていた。
ヨンギルはにこにことした笑顔で、スニを見た。
「もっと堂々としていなさい、うさぎのお嬢さん。あなたは陛下に良い影響を与えているのです。陛下は……世継ぎということもあって、小さな世界で狭い人間関係の中で、生きてこられた方なのです。陛下に親しい友人ができるのは、とても良いことなのですよ」
「私は――なんらかの役目があって、ここにいるのですけど……」
スニは言った。ヨンギルがやや難しい顔になった。
「ふむ。予言のために呼ばれたのですからな」
「その役目を上手く果たせるのかどうか……」
そもそも何をすべきなのか、いまだによくわからないし。ヨンギルがスニに申し訳なさそうに声をかけた。
「予言が何であるか、こちらもきちんと説明できればいいのですが。このまま期限もわからぬまま、海の王国に留め置かれるのはあなたも不本意でしょう」
「いえ……」
たしかにいつ帰れるのかわからないのは困る。何しろこちらにはドヨンもいるのだし。
「あなたがなるべく早いうちに帰れるようになんとかできれば良いのですが――。ただ何年もここにいろとは言いませんよ。あまりに長くなるようでしたら、そのときはいったん陸に帰ってもらっても良いのではないかと、私は思いますよ」
「はい……」
ドヨンを陸に帰してあげたいな、とスニは思う。でも陸に帰るということは――陛下とお別れすることになってしまう。
なってしまう、だなんて。ちくりと胸が痛くなってしまうのを感じながら、スニは思った。私はだいぶ――陛下のことが好きになってるみたい……。
好きに、だなんて! スニは赤くなった。好きというのは……えっと、そうよ、友人としての好き、よ。せっかく楽しくお話できてるのに……さよならなんて、ちょっと寂しいわよね。
「それでもあなたにはまたこちらに来てもらいたい」ヨンギルは言った。「陛下のためにも。友人は、良いものではありませんか? 私も陸に友人がいるのです。彼らは良い者たちです。彼らと話していると、海と陸との隔たりがあるとはいえ、我々は一つの仲間だと感じますな。私たちの海の王国と、陸の世界は、今まで良い関係を築いてきました。陛下も――陸の方と親しくなられて、友好関係を保ってもらいたいのです」
「はい……」
なんだか話が大きくなってきちゃった、とスニは思った。国家規模になってる。私の身には重すぎるけど、陛下は国の代表だから、万事がこんな感じなのかしら。
スニはちょっぴりソリョンに同情した。
ヨンギルはスニにほほえみかけた。
「私たちは、海の者であっても陸の者であっても同じ仲間。そうでしょう?」
「はい」
スニは明るく返事した。それに対しては、否定する気持ちはなかった。
――――
ソリョンとは夜に会う。いつもの、池のある庭だ。庭には灯がいくつかあるので、真っ暗というわけではない。
海の中だからか、月は見えない。けれどもほんのりと月光のような白い光が差し込んでいた。考えてみれば、昼間だって太陽は見えないのだ。けれども明るい。
海の外の気象を反映しているのかしら、とスニは思った。陸の世界を月が照らすなら、同じように海の王国も月に照らされ、陸の世界が晴れた昼間なら、海の世界も晴れた昼間。そういえば、曇りのような日があったわ。でも雨は降らないのね。
「この光はなんなのでしょう。月の光でしょうか」
池のほとりを歩きながら、スニはソリョンに尋ねた。ソリョンは空を、空がある自分の頭の上を、見上げた。
「そうだと思う。ここからは月の姿は見えないが、なんらかの方法で光が届けられているのだろう」
「昼間の明るさもそうなのですか?」
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