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長身の、肩の広い男性であった。族長はスニをまじまじと見た。
「君がスニかね」
「は、はい……」
消え入りそうな声でスニは答えた。族長のことは知っている。何かの式典などがある際、族長がうさぎ族のみんなにお話をするからだ。でも―こんなふうに一対一で会うのは初めてだ!
「ふむ君が……」
手を後ろに組み、族長がスニに近づいてきた。スニは動けずじっとしていた。
「どういう子なのかね」
族長が、スニを連れてきた中年の女性に尋ねた。女性はあっさりと答えた。
「よい子ですよ」
「成績のほうは」
「悪くはありません」
なんなのかしらこれ、とスニは思った。私は学校の勉強はそんなにできないほうではない。できるほう……でもないけれど。
「性格はどうかね」
「真面目で頑張り屋ですよ。今まで特に問題を起こしたことはありません」
そう! 問題を起こしたことはないのよ! スニは女性の言葉に同調したかった。真面目だし決まりもよく守るの。学校に通っていたときだって、宿題はちゃんと提出したし、遅刻もほとんどなかった。授業で居眠りすることも――そう、多少うとうとすることはあったかもしれないけど……。
「ふーむ」
族長がますますじっくりとスニを見た。
「あの……」
声を出したのはスニではなく、中年の女性のほうだった。
「スニがどうかしたのでしょうか。急にこの子を呼び出すとは」
女性もまた、スニがここにいる理由を知らないようだった。族長は眉の間にややしわを寄せた。
「海の王国からの使者が来たのだ」
「まあ。それとスニが何か――」
「海の王が、一羽のうさぎを必要としているようなのだよ。そしてそれが――スニらしい」
――――
海の王様が……私を……? スニは混乱し、言葉が出せず、他の二人もしゃべらなかったため、部屋はしばらく静かになった。けれども、そのうち、スニを部屋に連れてきた女性がおずおずと口を開いた。
「……どういうことなのです?」
「それが、私にもよくわからないのだ」
族長もまた、混乱しているようだった。首をかしげ、近くにある戸棚の上をこつこつとこぶしで叩いた。
族長はスニを見て言った。
「陸の長の使者が来て、言ったのだ。スニという娘を、海の王が求めていると。その件について、今度の族長会議で話し合いたいので、ぜひともその場にスニを連れてきてほしいと……」
「私、会議に行くんですか!?」
スニが大きな声を出した。想像以上に大声となって、スニ自身も驚いた。
族長会議は――陸の一族の各生き物たちの、族長が集まる会議だ。そこで、陸の世界の様々な事柄が決まる。そのような会議があることを、スニはもちろん知っていたけど、今まで行ったことはなかった。
これから行くようなことがあると、思ったこともなかった。
部屋はふたたび静かになった。遠くから、子どもたちが遊ぶ声が聞こえた。
「会議どころか」族長が言った。「スニ、お前は海の王国へ行くことになるかもしれないんだよ」
「海の王国ですって!?」
スニは悲鳴のような声をあげた。陸に、陸の生き物たちに変身する人間たちが住んでいるように、海には、海の生き物たちに変身する人間たちが住んでいるのだ。
海底に国があるという。ガラスのように透明な、半球形の屋根と壁に覆われ、その内部に人々が住んでいるという。ときに、陸の者が海の国を訪れたり、海の者が陸を訪れたりすることはある。けれどもそれはさほど頻繁ではない。
スニももちろん、海の王国を訪れたことはなかった。けれども話にはよく聞いていた。ただ、生涯行くことのない場所だと思っていた。けれども――けれども、自分がそこに行くことになるなんて――。
「なぜ、海の王はスニを必要としているのですか?」
女性が尋ねた。族長はわずかに首を横に振った。
「わからない。私は多くを聞かされていないのだ。ただ、次の会議にスニを連れていかねばならない。来てくれるね、スニ」
族長がその丸い目でスニを見た。スニはうなずくしかなかった。とんでもないことが待っているかもしれないけれど、断れるような雰囲気でもないのだ。
――――
会議の日はたちまちやってきた。スニは族長とともに会議場へおもむいた。
それは広い空地であった。時刻は夜も早い頃。けれども空はすっかり藍色できれいな半月がかかっている。空地の真ん中には火がたかれている。周りにもいくつかかがり火があり、明るい。
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