“私”とオレと私の物語

縞間かおる

第1話 天使なメイドはアバターだった①

 目が覚めて、いつもの様にキスしたけど瑤子ようこは微動だにしない。


 またふざけているのかと思って、温かな柔肌にかなりヤバめな擽りくすぐりを仕掛けたが反応がない……


 ここでオレは初めて青くなり布団から飛び起きた。


 少女の様な体形の瑤子だけど、オレは気合を入れて抱き上げ台所横の“充電ユニット”にそっと座らせる。

 しかし、充電ユニットはフルのグリーンランプで、モニターには『調整・検索中』の表示。


 瑤子と初めて“深いキス”をした時の事が頭を過る。

 あの時、瑤子は……

『私、絶対!康博やすひろさんより重いから!!』と顔を赤らめ俯いた。

 そんな瑤子が愛おしくてオレは瑤子を抱き上げ、深い深いキスをした。


 ハイブリット型独立AIアンドロイド『ユニットWK-001』

 ヒトと同じ様に体温と感情を持ち、味覚も嗅覚も触覚もある家事支援アンドロイド。

 パートナーアンドロイドとの違いは“営み機能”が無い事くらい……それが瑤子だ。


 “本体価格”や“維持費用”が高額な家事支援アンドロイドのユーザーは富裕層の独居老人だ。

 一方、“営み機能”が付与されたパートナーアンドロイドのターゲットは、実はオレの様な孤独な独身者ではなく富裕層の男女だんじょで……その容姿は“男性型”“女性型”とも高級車のそれと同じく見目麗しい。

 富裕層のヤツらにとっては子供が出来たり感染したりするリスクの無いアンドロイドを何体も所有している事がステイタスの証となる。


 オレはごく普通(ひょっとしたらそれ以下かもしれないが)のサラリーマンだから本来は家事支援アンドロイドを持てる身分ではない。

 そのオレがこうして瑤子と一緒に居られるのは……5年前に『ユニットWK-001』のロードテストに応募したからだ。

 当時のオレは今よりずっとだらしなくて……お弁当のガラやビールの空き缶が転がっている床に酔っ払いながら寝そべってスマホを“ポチ”して応募した。


 でも、瑤子が来てくれて……部屋も変わったしオレも変わった。


 独立AIなので“戸惑い”を瞬時には解決しないけど……オレの行動にビックリしたり、時には考え考え家事をしたりするその仕草がとても可愛らしくて、オレはどんどん“カノジョ”に惹かれて行った。


 そして、その年の……桜が満開になった日曜日の午後。

 公園にお花見に出掛けて、桜の樹の下で瑤子に愛を告白し、二人は初めてくちびるを重ねた。


 そしてその夜から、瑤子は台所横では無くオレの横に布団を敷く様になった。



 ピコン!とアラームが鳴り、オレは我に返る。


 モニターに映し出された文字は……


『ユニットWK-001 SN00003*は試用期間が終了いたしました。 問題が無ければ24時間以内に回収いたします』



「問題大ありだ!!」


 オレはモニターに怒鳴り、まんじりともしないで出社時刻を待ち、会社に有休依頼の電話を掛けた。


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