〈探索と発見〉 地球型惑星の見つけ方について

 ホシヒト王子は幼いころ、アキツ王国、国王陛下の家族の一員として、宇宙植民計画の説明会に連れて行ってもらった時の事を思い出す。説明会は王立天文台で開催された。宇宙植民計画が立ちあがって、この星が目標天体と定められて間もないころの事である。

 王立天文台附属のプラネタリウムで計画の概要ムービーを視聴したあと、大きな望遠鏡が設置してあるドームに入った。その望遠鏡で今、上空にある最新鋭のカール・セーガン宇宙望遠鏡の姿を捉えることができるのだと言う。しばらく待っていると大きなモニタに太陽電池パネルの翼を持った円筒形の宇宙望遠鏡が映し出された。

 さらに今回は、その宇宙望遠鏡が現在、観測しているさそり座18番星第3惑星の映像をライブ中継するというイベントであった。モニタが惑星映像に切り替わる。カール・セーガン宇宙望遠鏡の誇る口径20メートルの主鏡とコロナグラフを使った映像は、それでも鮮明とはいいがたいものであった。しかし、半月の形で浮かんでいる青と白のマーブル模様の天体は、王子の目に憧れを誘う宝石のように映ったのである。

 アキツ王国では、その星を惑星マホロバと命名し、その名称は世界連邦のASI(人工超知能)ガイアマシンによっても追認された。


 旅に出る前に目的地を決めなくてはならない。まずは条件にかなう惑星を探す必要があるだろう。人類の移住に適した太陽系外惑星を見つけるには、どうすれば良いのであろうか。


 太陽系外の惑星を探すのには、いくつかの方法がある。現在よく使われて、成果を上げているものにはドップラー分光法とトランジット法の二つがある。

 ドップラー分光法は惑星が恒星を公転することで、恒星がわずかにふらつく運動を光のドップラー効果によって観測する方法だ。恒星に近い大質量惑星は、この方法で見つける事ができる。しかし、地球サイズの惑星は恒星に与える影響が小さく、主星の質量が大きい場合、この方法による発見は困難である。

 トランジット法は惑星が恒星をさえぎって通過する時に、恒星の光がわずかに減光する現象を観測する方法だ。惑星の大きさや公転周期などを詳しく観測する事ができる。この方法であれば地球サイズの小さな惑星も発見可能だ。だが、この方法は地球から見て惑星の軌道がエッジオン(真横)に近い場合にしか使えない。惑星が恒星の前を通過しないことには減光(食)が起こらないからである。


 もう一つの方法に直接撮像法がある。これは分解能の高い望遠鏡で惑星からの光を直接見よう、という方法だ。地球上にある望遠鏡では大気の影響で、どうしてもその性能に限界があるため宇宙望遠鏡が探査の主役となる。しかし、恒星に比べて惑星の光は極端に微弱であり、恒星のすぐ近くにある惑星の光を分離して観測するのは宇宙望遠鏡を使っても極めて難易度が高い。地球と同じような惑星の直接観測のためには、わずか0.1秒角(0.1秒角は1度の1/3600)離れたところで主恒星の100億分の1も暗い天体を観測する技術が必要であるからだ。

 このための技術として恒星コロナグラフというものがある。遮光円盤によって中心の恒星の光を遮り、その周辺にある微弱な惑星の光を検出可能とする装置である。NASAが2027年頃に打ち上げを予定している次世代の宇宙望遠鏡、ナンシー・グレイス・ローマン宇宙望遠鏡にも搭載される装置である。


 この物語の発端となる21世紀の後半までには、さらに大型の口径20メートル級の宇宙望遠鏡が完成、それを使った直接撮像法により太陽系近傍の恒星にある惑星系については、かなり詳細な情報が得られているだろう。


 人類が移住する事が可能な惑星とはどんな星であろうか。その条件を考えてみよう。

 まず、どのような恒星が主星として適しているかを考える。2つ以上の恒星が互いに近い距離を巡る連星系である場合、惑星の軌道が安定しないため惑星上では極端な気候変動が起こる可能性がある。主星同士の距離が近い連星系は候補から外した方がよい。

 また主恒星が赤色矮星である場合も移住は困難だろう。赤色矮星は太陽フレアの活動が激しいため、その惑星も強い放射線にさらされる。また主恒星が小さい分、惑星の軌道も恒星に近づくため、惑星に潮汐ロックがかかり、いつも同じ面を恒星に向けている状態となりがちである。永遠の昼側では極端に暑く、夜側は極寒の世界である。こんな状態では住みよい惑星とは言えないだろう。


 つまり連星系や赤色矮星を巡る惑星には生命の持続的維持にリスクがある。太陽と同じような単独の恒星で、活動の安定しているK型、G型(太陽はこのタイプ)、F型の恒星が主星の候補には適しているだろう。また恒星の年齢、金属量にも注意が必要だ。年老いた恒星であれば、ほどなくして赤色巨星化するかもしれないし、金属量が乏しければ文明の維持に困難をきたすことが予想される。


 フォーマルハウト、エリダヌス座イプシロン星、くじら座タウ星、クジャク座デルタ星、うお座54番星、りゅう座シグマ星など太陽系に比較的近い単独の恒星系が移住先の候補として重点的に観測された。SF作品によく登場する星もある。その中の一つが、太陽とよく似たG型の恒星であるさそり座18番星である。


 ここからは想像であるが、これらの恒星には全て惑星系があることが発見されるだろう。地球型の岩石惑星も見つかり、そのうちのいくつかは水が液体として存在しうる温度帯、つまりハビタブルゾーン内に位置する事も確認される。

 直接撮像法では惑星画像のスペクトル線から、その大気成分も分析する事ができる。一般的に地球型岩石惑星が誕生した直後の初期大気では窒素と水蒸気および二酸化炭素が、その主成分となる。惑星誕生から数億年を経て、惑星の表面温度が下がると水蒸気は液体となって海洋を形成する。二酸化炭素は海水に溶け炭酸塩や石灰岩などとなって海底に沈むため減少してゆく、一方、窒素は安定した気体であるため、ほとんど変化しない。惑星上に光合成をおこなう生物が発生すると二酸化炭素はさらに吸収され、代わりに酸素が増えてゆくのである。


 地球型岩石惑星の大気成分も期待を持って調べられるだろう。金星のように二酸化炭素の温室効果で熱暴走している惑星、逆に二酸化炭素が減り過ぎて全球凍結している惑星もあると思われる。一方、窒素を主成分とする大気に覆われて海洋が大きく広がっているバランスの取れた惑星も少なからず存在するだろう。しかし、生物由来の酸素が大きな分圧を占める惑星は残念ながら見当たらないのではないか。(生命の発生機序については現状不明な点が多く、この小説では、その発生確率はかなり低いと言う悲観的な見通しを採用している)


 このような背景のもと、ホシヒトたちの属するアキツ王国は、植民計画を立案、目的地は地球から45.7光年離れた、さそり座18番星の第3惑星と決定された。主星のさそり座18番星は太陽とよく似た黄色い主系列星で、スペクトル分類G2Va、直径と金属量も太陽とほぼ同等、年齢は29億年である。第3惑星は直径が地球の1.1倍、窒素を主成分とする大気に覆われ、地球よりもやや多い75%が海洋に覆われた惑星であった。地球の月よりは小さいが小惑星サイズの2つの衛星も持っている。大口径の宇宙望遠鏡により、青く輝く宝石のような惑星の映像も撮影されている。

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