精子の頃の記憶があるのですが大丈夫でしょうか
柳谷「こんばんは」
相談者「こんばんは」
柳谷「お名前年齢お願いします」
相談者「岡元、28歳です……」
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柳谷「ありがとうございます。今夜のご相談は、人類史の最初期どころか“射精前”にさかのぼるスケールです。
お迎えしたのは、生殖記憶学と意識形成理論を研究する、**月丘 みずほ(つきおか・みずほ)**先生です」
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月丘「こんばんは。“あなたはどこから来ましたか”という問いに、“金玉です”と答える人がいても、私は驚きません」
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柳谷「すでに境界が曖昧です。では岡元さん、ご相談をどうぞ」
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相談者「あの……精子だった頃の記憶が……あるんです……
白くて温かくて……すごい勢いで前に進んで……
なぜか“絶対に負けられない”って思ってました……
気づいたら光が見えて、“あ、ここで終わりなんだ”って……」
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(沈黙)
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柳谷「……これ、泣いてもいいやつですか?」
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月丘「いえ、まず冷静に。“精子期の記憶”というのは物理的には存在し得ません。
精子には脳も神経もありません。ですが――“記憶の幻想”は別です」
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柳谷「幻想、ですか?」
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月丘「はい。これは“出生以前回帰願望”と呼ばれる現象に近いものです。
特に強いストレスや孤独感の中で、“最も無垢だった自分”を無意識に作り上げてしまう。
その結果、“俺、精子の時から頑張ってた気がする”という感覚が発生するんです」
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相談者「じゃあ……俺のあの記憶も……?」
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月丘「あなたが“そうであってほしかった何か”かもしれません。
でも、それがあったおかげで、あなたは今ここにいるんです。幻でも、人生の一部です」
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柳谷「うわぁ、めちゃくちゃ優しい世界……。じゃあ、“俺は選ばれた精子だ”って思ってもいいですか?」
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月丘「むしろ、みんなそうなんです。“選ばれなかった何億”の中の、ただひとつの暴走だった――それが、今のあなたです」
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柳谷「ということで、今夜もひとつ命の不思議にふれました。
子供は寝なさい、大人も寝なさい……起きてるのは、今夜も――一番乗りだったあの日の記憶だけ……」
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