君が振り向いたから

リント

第1話

あの夏、輝いた少年だった君に


穏やかな夏の午後。徹は祖父母の家で寛いでいた。冷房の温度が25℃になっている。汗を掻いて徹はミネラルウォーターを飲んでいた。

夏の風が流れている。草原は揺れている。冷たいミネラルウォーターは透明だ。風鈴の音がする。

茜がやってきた。茜は徹の幼馴染みだ。小さい頃から仲が良く、一緒によく遊んでいた。茜はショートカットの髪型で清楚な服装だった。

「徹は彼女できた?」

「できないね。そういうのに興味ないし」

「言い訳なんだよ、興味ないっていうのは」

茜は一度だけ彼氏ができた事がある。高校一年生の時に二ヶ月だけ付き合って別れた。相手に告白されたから付き合ったという理由で、楽しくなかった。

「じゃあ彼氏いるの?」

「いないけど興味ないって事はないよ」

徹にとって女性とは人間である。一人の人間としか思わない。女性が恋愛をしたいというのは自分とは関係ないと思っていた。

「じゃあ、誰か適当な人探せば良いじゃん。俺は興味ないね、そういうの」

「ごめんごめん。気になったんだよ」

茜と徹は田舎の風景の中にあった。夏の日差しが眩しい。

「お菓子食べよう。クッキーがあるんだ」

「おいしそう」

クッキーを食べながら、二人は田舎の風景を眺めていた。時間はゆっくりと流れてゆく。静かな所だった。

「前から気になってたんだけど、徹は夢とかあるの?学校の勉強、すごく頑張ってるらしいじゃん」

「料理人になるのが夢。学校の勉強は関係ないよ」

「え、じゃあ何で料理の学校通わないの?大学行くって言ってたじゃん」

「店をやりたいから。経営を学びたいんだよ」

「さっき学校の勉強は関係ないって言ってたじゃん」

「あのねー、そもそも料理人になるのが夢なの。店をやるとかしか思いつかないだけ」

「習いたくないって事?」

「はっきり言ってそうだね。寿司がおいしく握れん奴に料理を習いたいとは思わん」

「就職だとは思えない?」

「だったら自分で店やりゃ良いじゃん。バイトしてお金貯めて」

「私にはわかんない発想だなー⋯。就職は紹介してくれるんじゃないの」

「時間の無駄」

「ああ、そういう事か。時間を有意義に使いたい訳ね。バイトは良いの?」

「飲食店でバイトする方が良い」

「あのね、徹は本当に料理が上手いと思うんだよ。おいしいと思った。それでなんかバイトして金貯めて店やるとかなの?良い所に就職できそうな気がするけど」

「弟子入りするって事?」

「それは駄目なの?」

「弟子入りするんなら自分より料理が下手な奴にごちゃごちゃ言われたくないね」

「だから、就職」

「あんまり今の世の中が良いとは思わん。料理っていうのはお客さんが判断するんじゃないの?」

「どういう事?」

「偉そうな態度取って「食え」って言う奴に弟子入りしろってか。それも自分より料理が上手くない奴に」

「私が思ったのは店やるっていうのが上手くいくと思えないんだよ。就職すれば世の中で成功できるよ」

「経営ができてお客さんにおいしいと思ってもらえば良い」

「就職する為に我慢するのがそんなに嫌か?私、音楽の先生より歌上手いと思うんだけど」

「学校は良いよ、別に」

「っていうかそもそも我慢なの?料理の勉強だとは思えない?」

「ならねー、金払わない奴に料理出すん?そういう料理人だったら別に構わないけどね」

「ああ、そういうのを我慢するんだ」

「そういう事か。俺は店をやるんだったら金払わない奴にも料理出せるんだよ」

茜はお金を払わないでも客に料理を出す料理人を調べ始めた。一人、そういう人がいて料理もおいしそうだった。イタリア料理店の料理人で七瀬拓也といった。

「この人の弟子にならない?お金払わなくても料理出すらしいよ」

「⋯。まあだったら良いか」

二人は外に出た。近くの本屋に行った。

「徹は何の本とか読むの?」

「ドストエフスキーとか」

「ドストエフスキーか⋯。ちょっと本でも買おう」

茜は本を買った。二人は本屋を出て行った。

「私、本が好きなんだ。また本買いに行こうよ」

「まあ、この田舎もなかなかだよな。静かな所が良いよ、俺は」

「徹は結婚とか考えてないの?」

「考えてない事はないけど仕事もまだしてないしな」

「私は徹と結婚しても良いよ。お金無くても」

「無理だろ。生活できないよ」

「だから私働いても良いんだって」

「俺は働きたくないし働いてからが良いよ俺は。その人の弟子になるよ」

「そっか⋯。じゃあまた会おうね」

徹は自分の家に戻り高校生の夏休みに戻った。七瀬拓也という料理人の弟子になろうと思ったが、高校を卒業してからが良かった。

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君が振り向いたから リント @Yami-chan

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