来世の来世

来世の来世

「人殺しなんてした事ないしー。どうすっかなぁ」

「した事あったら大問題だよ……」

 紫花に冷静につっこまれる。俺達はそれをやろうってんのに何言ってんだ。

 二人で話し合いを始めてはや一週間。俺達は作戦会議をするためにいつもより少しだけ早く帰宅したり、ご飯を爆速で食べたり、何とかして時間を作っていた。もちろん夕暮に怪しまれない程度に。

「夕暮が能力を使えるようになってるかもって言ってたじゃん?どうすんの、無意識じゃなくて、ちゃんと開花して自覚しちゃったら」

 紫花は考える素振りもなく淡々と答える。もとより答えは決まっていたのか。

「そうなったらやり方は問わずに殺すよ。もしものために宇宙さんから拳銃貰ってるでしょ。使い方もよく分からないからできるだけ使いたくないけど」

「怖いやつー」

 そうは言っても夕暮の能力開花は近づいていることは間違いないだろう。急いで作戦を立てよう。俺だって拳銃は使いたくない。

「しょーみ問題は俺らだよなー。夕暮やった後、二人で拳銃撃ち合う?みんなで死ぬってむず」

 夕暮だけじゃなく、俺らも死ななきゃいけないのが大変だ。自殺はちょっと怖いし……。そもそも俺らって死んだらぱぁぁって花に戻ったりするのかな。人のまま一生終わったらどうしよう。いや、もう自分が何を考えたいかすら分からない。

「まぁ最悪……」

 紫花が何かを言いかけた時、バンッと扉が開いた。

「茜!紫花!こんなところにいた!ねぇ聞いて!僕さ」

 嫌な予感。冷や汗が頬を伝う。まさか。もう?思ったより早い。

「能力開花したかも!!!」

 紫花の手が銃に伸びる。その手は少し震えているように見える。

「いやー、無能力だと思ってたけど!後天性ってあるんだね!これでもう夕暮の恥なんて言わせないよ!」

 まだ決まってない。ただのショボイ能力かもしれない。少し足が早くなるとか、そんなのであってくれ。

「あ……夕暮。どんな……能力なの?」

 声が震える。

「聞いて驚けー?ものに命を吹き込むの!理想通りー!」

 だめだった、と思った時には紫花の銃が夕暮に向いていた。呼吸が荒い。

「……?紫花?」

「……っ、はぁ、ヒュッ」

 過呼吸を起こしかけている。怖いものは怖いんじゃねぇか。強がってんじゃねーよバカ。

「紫花、待って早まるな」

「この為の拳銃だろ。今やらないと。もう手遅れなんだよ。あいつの能力は開花した」

 手を震わせながら引き金を引く。ドンッと弾が壁に突き刺さる。銃の反動を舐めていた。一朝一夕で出来るようなものでは無い。ましてや初めて触るなんて。

「……っぶな!え、?なに、紫花。ねぇ茜、紫花どうし……」

 夕暮が言いかけている間に二発目を撃つ。相変わらず夕暮には当たらなかったが、確実にさっきよりは夕暮に近づいた。紫花のこういう時の成長は一級品だ。

「し、しか……?」

「……ごめん、夕暮、ごめん。でも大丈夫。みんな一緒だから」

 夕暮からすると意味が分からない言葉を言いながら引き金を引き続ける。弾は少しずつ夕暮に近づいていってる。

「や、やめてよ……危ないし、やめよ?」

 話を聞かない紫花に夕暮が叫ぶ。

「やめてってば!!」

 途端に、紫花が少し光を放つ。

「……え、」

「紫花!?」

 咄嗟に叫ぶも紫花はどんどん薄くなり始める。

「……あー。こっちのパターン想定してなかった。俺の落ち度だ。ものに命吹き込むだけじゃねぇのかよ」

 ものに命を吹き込むだけじゃない。奪うことも出来るのか。それか、俺達が夕暮が作ったものだからか。考えつかなかったのは俺達の落ち度だ。

「いいか茜。お前がやれ。やらないと一生バラバラだからな。絶対だぞ」

「……うん」

 涙で視界が歪む。

「いや泣いてんじゃねーよ、あほ。俺達は一緒に死ぬために今やってんだろ、俺はちょっと早かっただけだ。後で必ず来い」

 そう言って紫花は紫陽花に戻って行った。ありがたいことに鉢着きだ。

「……ふぅ、俺がやらなきゃ、俺が……」

そう言って銃を取る。重たい。物理的なものと、命の重さ。

「……ごめん、夕暮」

「茜……?ねぇ、なんで二人共銃を持ってるの?なんで僕を狙うの?僕たち、友達でしょ?親友でしょ?」

 そうだよ、夕暮。友達だ。親友だ。家族だ。だから……

「だからだよ!夕暮!」

 ドンッ。手が震える。弾は夕暮の腹にかすった。

「うっ……」

 その場にへたり込む夕暮の頭をめがけて銃を構える。外さないように両手で。

「俺は……俺たちはお前を……夕暮世界を消すために生きてきたんだ。俺の使命で、生きる理由だった。ごめん夕暮。大好き。一緒に死のう」

「あかね……ねぇ、茜。僕のこと、嫌いになったの?」

 嫌いになったか、なんて。なんて馬鹿な質問だろう。

「お前のこと嫌いだったことなんて!一瞬たりともねーよ!俺も!紫花も!」

 手が震える。狙いが定まらない。それでも。

 ドンッ。

 目の前に広がる赤。どんどん広がる赤。

「あとは……俺だけ」

 銃を自分の頭に突きつける。

 宇宙さん、ごめん。部屋、めちゃめちゃだ。でも宇宙さんが願ったから、しょうがないよね。片付けよろしく。

 紫花。俺やったよ。すぐ行くから。少しだけ待ってて。

 夕暮。ごめん。大好き。絶対にまた会おう。生まれ変わったらお前も花になってよ。一緒に咲こう。大好き。大好きだったよ。それで、来世の来世。また一緒に友達になって。

「……あ、」

 体が光っていく。紫花の時と同じ。

「あー、あは、そりゃそうか。俺は夕暮の作った人だし。夕暮が死んだら俺も戻るか」

 少し考えたらわかる事だ。でも、自殺しなくていいのはありがたい。死ぬ覚悟があっても自殺は怖い、なんて矛盾してるかもしれないけど。

「夕暮……来世は花な。紫花と俺は来世は人だ。お前の一回分待ってやるから、来世の来世は必ず一緒に……」

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来世の来世、また友達になって りんご* @Rinio_0000

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