第1話 「転生者、名を知らず」
雨だった。
肌寒い春の夕暮れ、アスファルトに打ちつける雨音の中で、少年は死んだ。
名は、新城アキラ。17歳。高校二年。
道を渡ろうとした瞬間、制御を失ったトラックが彼をはねた。
(……ああ、これが、死ぬってやつか……)
痛みもない。ただ、光がゆっくりと遠ざかるだけ。
彼が最後に見たのは、空だった。曇った、何の変哲もない空。
それが、彼の人生の幕切れだった。
――はずだった。
次に意識が戻った時、彼は石の床の上に寝ていた。
天井は高く、ステンドグラスから差し込む光が、どこか神聖な雰囲気を作っている。
目の前には、巨大な剣――それは明らかに「現実離れ」していた。
台座に突き立った剣からは、わずかに青白い光が漏れ、アキラを静かに照らしていた。
言葉にならない感情が、胸を締め付ける。
「どこ……だ、ここは……?」
答える者はいない。だが、心の奥に、何かが囁く。
――その剣を、引き抜け。汝こそが、選ばれし者なり。
気づけば、アキラの手は剣の柄に触れていた。
触れた瞬間、全身を雷のような衝撃が走る。
過去の記憶。剣を掲げる男。戦場。裏切り。死。――王。
「……見せられてるのか? これは……誰の……?」
だが、その問いに答えるものはなく、ただ剣は、アキラの手に応じて静かに抜けた。
空気が震える。光が爆ぜる。
そして、世界が“変わった”。
神殿の扉が開き、老いた魔導師がひざまずく。
その背後には、鎧に身を包んだ騎士たちが列を成していた。
「……おお、聖王よ……ついに再臨されし……!」
「アーサー王だ、アーサー王の誕生だ!」
アキラは困惑する。目の前の現実を、理解しきれないまま。
だが確かに、彼の手には伝説の聖剣があった。
(俺が……アーサー?)
名も知らぬ世界で、名も継がぬままに。
少年の運命は、静かに動き出した――。
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