ワンルームの世界
白川津 中々
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ただ普通に生きたいだけだった。
小学生の頃、車に轢かれ重体。全身の骨と内臓の一部が大きく損傷しリハビリに時間を費やす。まともに動けるようになるのに二年かかったわけだがその間の授業には当然ついていけず、独力での学習も焼け石に水で完全に周回遅れ。その状態で学校に放り込まれれば当然腫れ物で、いじめこそなかったが強い疎外感と劣等感が生じ、自傷と汚言を繰り返す事で自己認知を留めるに成功するも社会的には既に死に体。中学まで上がると希死念慮に取り憑かれるも実行はできず、どうでもよくなり煙草、アルコール、ODに没入。事故で痛んでいた内臓が完全に死に、監獄のような病院へ強制入院。その中で精神的な疾患を患い、投薬による治療が行われ脳がおかしくなった他、高熱が頻発し視力聴力の低下と味覚の喪失が起こった。
内臓数値が安定し疾患が寛解する頃に放り出されると、「家にお前の居場所はない」と親に告げられ隔離用のワンルームに住まわされる。金を稼ぐための仕事を探すも中卒障害持ちはお呼びではなく、糞を垂れ流す置物として生きていくしかなくなったというわけである。
毎月親から送られてくるレトルト食品と、僅かばかりの金が生命線。部屋から出ず、娯楽という娯楽もなく一日一日を過ごしていく日々。あの時事故に遭わなければ、もっと勉強していれば、悪い遊びをおぼえなければと、後悔ばかりが押し寄せる。なぜ生まれてきたのか、なぜ死ねないのか。裕福でなくても情けなくても、普通に働いて結婚して、子供をしっかり育てられるような人生を歩みたかった。今はもう、全てが遅い。一人きりのワンルームだけが、俺に許された唯一の世界。他は望むべくもなく、手に入るわけもなく……
ワンルームの世界 白川津 中々 @taka1212384
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