第一章 Polar Star 4
西暦2325年。第三次世界大戦を生き延びた地球では、二つの都市国家間の戦争が続いていた。
当初は倫理的観点から遺伝子疾患をもつ人にのみ許されていたその技術は、第三次大戦後の人口減少と地球の生存環境の過酷化を背景に、やがて社会的合意を得るようになっていった。人々がより優秀な遺伝子配列を求めるようになると、違法な遺伝子ビジネスも横行し、著名人の遺伝子を騙って儲ける者や、詐欺を働く者も現れた。医学の進歩は禁断の領域へと及び、高精度なDNA改良や認知能力の強化といった胚の操作技術に人々は魅了され、人類の可能性を確信した。
そもそも21世紀ごろから徐々に結婚制度の在り方も多様化していた。事実婚カップルの権利も向上し、法的な「結婚」そのものの持つ特別な意義は薄れて、伝統的な家族構造は瓦解していた。そのことと、人工子宮技術の飛躍的な進歩により、24世紀にはパートナーの性別や人数を問わず、子を望めば第三者遺伝子と人工子宮技術で容易に実現できる時代となったのだ。
これにより、優秀な遺伝子は市場における価値を持ち、社会的地位と同じように取引されはじめた。しかし新たな社会問題も浮上した――つまり行きすぎた優生思想による胎児の選別や親の勝手な都合による人工育成の中断、胚改変の失敗による途中廃棄、望まない遺伝形質が発現したことによる出産後の養育放棄、などである。
……西暦23世紀になると、中央都市政府は放棄された子どもらを収容して養育する施設を各エリアに開設した。当初は福祉事業として始まったこの施設は、言わずもがな政府の「人道的イメージ戦略」の面を有していた。母体を経ずに人工子宮で誕生し、養育放棄された子どもたちは国家によって適切に養育され、社会に労働力として還元される。そうした理想的な好循環が、一時期はたしかに実現していたのである。
だが同時期に
そこで政府は前述の養育施設にいる、放棄された子どもたちを将来徴兵すべく、子どもたちに対して秘密裏に軍事訓練を施すようになった。それまで彼らを労働力として社会に還元してきたのであるから、戦力不足となれば工具がたちまち銃火器にとって代わるのは必然といえた。
――やがて軍政権の管轄の下、とある施設では、特殊な遺伝子をもつ子どもが多数、人工子宮で「製造」されるようになった。将来の訓練された兵士としてである。
彼らの親権者は「軍」である。一般人の徴兵とは異なり、十代になるころから軍人としての教育課程を課すことによって、18歳で成人するころには戦闘のプロフェッショナルとして戦場に出すことが可能だった。ただし戦況が悪化すれば18歳を待たずして戦場へ送り出された。
子どもたちの首元にはバイオチップが埋め込まれ、神経行動管理ユニットによって厳重に管理された。異常な情緒パターンや反抗的思想の兆候が検知されれば即座に「調整」される。そして彼らは持って生まれた能力を最大限に引き出すための特殊軍事教練を施された。戦闘訓練、戦術立案、あらゆる武器の操作技術のみならず、ずば抜けた視力や聴力、身体能力、高度な知性、あるいは
彼らによって構成される部隊が特殊強化兵戦術部隊『SEST』である。
……なかでもとりわけ優れた能力をもつ子どもたちは、単なる生体兵器ではなく、より高度な戦略的資産とみなされ始めていた。優れた能力を持つ一部ESには政権幹部や軍高官といったパトロンがつき、特殊訓練と並行して政治経済、戦略地政学、高度科学などの英才教育が施された。そして将来的にはESが、軍の指揮系統に組み込まれることになるとも期待されていた。
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