7話:『VTuber優、企業案件くる!?』



――そのメールは、まったく突然に届いた。


「え、……なんなん、これ」


優は目を丸くして、ディスプレイを見つめた。

差出人は、関西のとあるたこ焼きチェーン「タコマル本舗」広報部。


> 【ご提案】「岸和田愛炸裂SP」を拝見しました!コラボ配信についてのご相談です。




メールの本文には、

・優ちゃんの地元紹介配信を見て感動した

・親しみやすさがブランドイメージと合う

・新商品のたこ焼きPRを“リアル×Vの融合”で行いたい

……といった、丁寧すぎる文章が並んでいた。


「うちに……企業案件……やと?」


まさか、こんな“ただの岸和田のV”に、企業から声がかかるなんて。

バーチャルでも現実でも、驚きの展開や。


――と、その時。


バタンッ。


「ただいま~!今日な、たこ焼き屋寄ったら新メニュー出とってなぁ~優、あんた好きそやと思って――」


姉・優佳が両手にビニール袋を提げて、ずかずか部屋に入ってくる。


「……ちょ、いま話してんねんて!もう、いつも入ってくんなゆうてるやろ!!」


「はいはい、ええやん別に~。んで何話してたん?あんた顔、マジやで?えっ、まさか……彼氏できたん!?」


「ちがーう!!」


「なぁんや、つまらんな~」

と笑いながらも、優佳は買ってきたたこ焼きを差し出した。


「ほれ。ほっかほかやで」


「あ……ありがと……」

口では文句を言いながらも、心の奥はあたたかかった。


たこ焼きの匂いが部屋に広がる。


「……実はな、企業案件のメール、来てん」

「マジで!?うっわー、すごいやんか!!優、もはやV界のたこ焼き姫やな!!」


「たこ焼き姫て……何やそれ……」


「どんな案件なん?歌うん?食レポ?バーチャルたこ焼き作るん?」


「うーん……まだ詳しいことは書いてへんけど、どうやら“コラボ配信”らしいわ。PRやって……」


優は画面のメールに視線を戻す。


「でも、ほんまにやってええんかな。うち、まだまだ素人やし……」


「はぁ?何言うてんの。うちの妹、めっちゃおもろいやん。地元のこと大事にして、リスナーも喜ばせて……。せやからこそ、声かかったんちゃうん?」


優佳の言葉に、優は少しだけ黙った。


――たしかに、あの配信のあと、登録者も増えたし、コメント欄も盛り上がった。

「もっと岸和田のこと教えてほしい」

「次はどこ紹介するん?」

そんな声も多かった。


「……ほんまに、うちでええんやろか」


「ええに決まっとるやろ。自信持ちな。

だって優やで?うちの、岸和田の、あのギャーギャー叫ぶ、真っ直ぐな優やん」


姉の言葉は、いつだってちょっと乱暴だけど――いつだって優しい。


「……ほな、返信してみるわ。やってみる」

「よっしゃー! たこ焼き姫、爆誕や!!」

「それはもうええから!!」


画面に映る送信ボタンを、優はそっとクリックした。


送信――


その瞬間、彼女の中に静かに芽生えたものがあった。

それは、ただ“好き”だけで始めた活動が、誰かの目に届き始めた証。

初めて、誰かと“繋がる”感覚だった。


たこ焼きの匂いと、姉の笑い声と、コメント欄のざわめき。

岸和田の空は、今日も優しい夕焼けに染まっていた。



---


次回、第1章8話『スタジオ見学!?バーチャルの向こう側』

たこ焼きコラボに向けて、初の“リアル企業”訪問!?バーチャルと現実が交差する、優の新たな一歩――。

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