優は自分の部屋で静かに座り込み、目の前に広がるパソコンの画面をじっと見つめていた。

「いける…絶対に…」

心臓がドキドキと鳴り響き、手のひらが汗で湿っているのがわかる。深呼吸を一つし、何度も自分に言い聞かせるように呟いた。今日、この瞬間が彼女の新しい人生のスタートだ。VTuberとして初めて配信をする。

「でも…本当にできるのかな？」

自分に問いかける。何度も考えてきた夢ではあるけれど、今その扉を開けるのは少し怖い。自分の顔、声、すべてが画面を通して他の人たちに見られる。それが普通じゃないということを痛感しながらも、心のどこかで「やりたい」という気持ちが強く湧き上がってきている。

優は自分の顔を鏡で確認した。髪は少し乱れていて、目の下に疲れが見えたが、それでも彼女は決心を固める。「これが、私の第一歩なんだ。」

その瞬間、パソコンの前に座っていた優の手が震え、マウスを掴む指がわずかに震えていた。配信ソフトを開く手元が一瞬止まり、再び深呼吸をする。

「さあ、いけるよ…」

少し自分に自信を持ってから、ようやく「配信開始」のボタンをクリックした。

「えっと、こんばんは！優です！」

画面の前で、無意識に声が少し裏返るのが分かった。自分で話す声が、どうしてこんなに響くのだろう。顔が少し熱くなる。最初の自己紹介。言いたいことは頭の中にいくつも浮かんでいたけれど、言葉がうまく出てこない。

「こんな感じで、よろしくお願いします！」

何とか言い終えたものの、画面越しに自分の顔が映るのを見て、さらに不安が募る。笑顔を作ろうとするが、無理に作ったその笑顔が自分でもぎこちないと感じる。「あかん…もっとリラックスしな…」

しかし、配信が進むにつれて、次々とコメントが流れてきた。優はそれらを必死で読もうと目を凝らす。

「初めて見たけど、優ちゃんすごく可愛い！」

「頑張ってるね！応援してるよ！」

「緊張しすぎてるけど、めちゃくちゃ好感持てる！」

優はその言葉を目にするたび、少しずつ心が軽くなっていくのを感じた。初めての配信で、こんなにも温かい言葉をもらえるなんて思ってもいなかった。少しだけ胸が温かくなる。

「ありがとう…みんな…」

その瞬間、心の中で何かが弾けた。緊張していたはずの体が、少しずつほぐれていく。優は視線をカメラに合わせると、思わずにっこりと微笑んだ。

「じゃあ、今日はちょっとだけ自己紹介とか、質問コーナーみたいなのをやろうかな！」

声が少し落ち着いてきて、優は自分で思った以上にリラックスしてきたことに気づいた。コメントがすぐに流れ、視聴者との距離が急速に縮まっていく感覚があった。

「なんでVTuberになろうと思ったの？」

「好きなアニメとか、教えてほしい！」

「今日はどんなことするの？」

優は嬉しそうにコメントを読んでいく。質問に答えるうちに、自然と自分らしく話せるようになっていた。

「うーん、そうやな…まず、VTuberになろうと思ったきっかけは…」

優は少し照れくさそうに言葉をつむぐ。

「昔から、映像とか配信が好きで、でも自分が前に出るのはちょっと恥ずかしくて…。でも、なんか…みんなと一緒に笑って、楽しめたらいいなって思って、始めてみたんです。」

その言葉を口にした後、優は画面越しにコメントを見つめた。しばらくすると、コメント欄が一気に流れ出した。

「それ、すごくいい考えやと思う！」

「私も応援してる！」

「始めたばっかりでも、優ちゃんの優しさが伝わってくるよ！」

「こんな風に、少しずつでも近くに感じる…それがVTuberのいいところだよね！」

優は思わず涙がこぼれそうになるのを感じた。こんなにも支えられているんだと感じ、心の中で決意を新たにした。

「みんな、ありがとう…ほんまにありがとう。」

優は少しだけ涙ぐんで、画面越しに深くお辞儀をした。

配信が終わると、優はパソコンの前で静かに座り込んだ。

「なんか、まだ信じられへん…」

優はまだ動揺している自分に笑いながら言った。初めての配信は緊張しすぎて、うまくいくか不安だった。でも、結果的には予想以上にリラックスできて、視聴者との距離も縮まったような気がする。

「次はもっと、もっと上手くできるように…」

優は心の中で次回の配信を思い描きながら、決意を新たにした。

「絶対に、次も頑張ろう…」

そして、少しずつ自分の夢に向かって歩みを進める勇気をもらった瞬間だった。