それでも、私の痛みはここにある

玄音蓮乃

それでも、私の痛みはここにある

あなたは言った。

「もっと辛い人がいるんだよ」


その言葉は刃のように、

私の声を、感情を、切り捨てた。


たしかに世界には、

今日も飢えに泣く人がいて、

明日を見失う誰かがいる。


だけど、それは――私ではない。

今、ここで苦しんでいるのは、

他でもない、この“私”だ。


涙の重さに、比べる単位なんてない。

心の傷に、序列などいらない。


「ご飯があるだけマシだよ」

――ならばあなたは、すべてを失った人なの?

そうじゃないでしょう?


それなのに、

どうして私の痛みを奪おうとするの?


私の悲しみには名がある。

私の苦しみには形がある。


たとえそれが誰かのそれより

小さく見えたとしても――

それは、私にとっての“すべて”だったりする。


誰かの「もっと」じゃなく、

私の「今」に耳を傾けて。


痛みは、誰かとの競争じゃない。

沈黙を押しつける道具でもない。


私は、ここにいる。

たしかに、ここにいる。


だから――

私の痛みも、たしかにここにある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

それでも、私の痛みはここにある 玄音蓮乃 @andromedae_alpheratz

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ