第4話 操り人形

 彼は、ほぼ気力で立っているような状態だった。


 全身から血を流し、左腕の血は未だに止まっていない。

 彼の足元には五百を超えんばかりの傷ついた兵士たち。一人を除いて、他の人達は生きている。


 霞む視界の前には、スラッとした細身の女性。片手には、彼までとは行かないが、細い剣を握っている。


「君は、どうしてそこまでして戦うんだい?」

「………」


 彼は、その質問に咄嗟とっさに答えられなかった。多量出血で意識が混濁していたというのもあるが、改めて問われてみると、なぜ戦っているのかが分からなかった。


 だが、それで人を傷つけているというのはあまりに外道だ。


「……今、ここには僕しか居ない。それで負けたなら、ここは占拠されてしまう。流石に、それだけは避ける」

「そうか…操り人形みたいな理由だな。まぁ、私の目的は…」


 次の言葉は、耳元で聴こえた。


「君を捕まえることだけどね」


 ゼロ距離からの、ほぼ不可避の斬撃。普段の彼ならとっくに倒されていたことだろう。だが、彼にもどうしてかは分からなかったのだが、急に本領を発揮することとなる。


 反射的に体を捻り、横薙ぎを避ける。視界の端で捉えた剣の向きは、腹の方であり、本当に殺すつもりは無いようだった。


 そのまま後ろに飛び、剣を地面に擦りながら減速する。顔を上げた瞬間には次の斬撃が飛んでくるので、剣を合わせて折ろうとする。


 だが、流石剣士と言ったところだろうか。剣を横にひねり、刃に合わせるようにして受ける。


 そして、その剣士は両手で柄を握り、ジリジリと力をかけられる。


「……早く降参してくれないかなぁ…?君もあの時見ただろう。私が君に危害を加えることはないって…」

「ここは…僕の家だっ!そして、曲がりなりにも、ここにいる人たちは僕の家族だっ!だから、お前なんかに僕なりの平穏を取られるわけには行かないっ…!」


 先程よりも強くなった彼女の剣の重みを、自分の信念と、根性で押し戻す。

 そして、体を左に傾け、自分の剣に相手の剣を滑らせ、根本で真っ二つに割る。


 女性は歪めた顔を僕に向ける。それがどのような感情かは分からないし、当の本人からは教えてもらえるわけがない。


 もしかしたら怯えているかもしれないし、驚いているかもしれない。だが、僕を殺す技を持っていて、不敵な笑みを浮かべているかもしれない。


 だが、そんなことは考えられなかった。ただ、残っている意識は相手を斬り裂くことだけ。


 結果がどう転がろうと、彼は知ったことではない。


 彼はほぼ無意識の状態で、剣を振り下ろした。

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