飴屋さんの不思議な日常
高岡 玄三
CASE1 邂逅 里村由佳里
夕焼けに照らされた学校から明らかに気落ちしてる俯いた少女が一人校門から出てきた。
少女、里村由佳里は家に帰ることが億劫であった。それは思春期特有のものではなくある理由があった。
彼女の母親は娘の由佳里に対して過度に交友関係のみならず勉強の成績など至る所で干渉し、気に入らないところがあればヒステリックに騒ぐ所謂毒親のようなものであった。彼女はそんな母親に対して最早いかにやり過ごすかになっていった。
彼女が重い足取りでいつもの通学路を歩いていると見慣れない建物があった。
その建物は一軒家よりも少し小さめだが赤と黒のデザインが目を引く。よく見てみると上に「キャンディ・コレクト」と看板があった。
「今朝、こんな店あったけ?キャンディなら…飴売ってるのかな?」
彼女が店をまじまじ見ていると扉がギイイと開く音がした。そこから店の人と思わしき人物が出てきた。
「いらっしゃい。中見ていきますか?」
彼女は不審なことをしてしまったのかまたは失礼なことをしてしまったのか頭が真っ白になりいつものように固まっていたが、かろうじて店主の顔を見た。店主の顔はヒトの顔をしておらず頭部が金太郎飴の形をしており赤い淵に黒い中心部真ん中には赤い瞳が写っていた。
固まっている由佳里に対して主人は優しく声をかけた。
「いきなり声をかけてすみません。もし興味がございますなら中をご覧ください。」
彼女は門限のことを思い出して断ろうとしたが店主のことが気になり好奇心に押されるまま店の中に入っていった。
店の中は天井に裸電球一つだけついており、薄暗かったがアンティークな内装と相まっておしゃれな雰囲気を醸し出していた。やはり飴屋なのか至る所に丸い飴やロリポップキャンデー、金太郎飴と様々な種類の飴が所狭しと並んでいた。色とりどりの飴に彼女は目を奪われていった。
「お気に召しましたか?当店の飴はすべて手作りなんですよ」
彼女の横で店主が少しうれしそうに話す。
「かわいい!一個じゃ選び切れないどうしよっかな~」
「ではこんなのはいかがでしょう?『一時的に感情をシャットダウンさせる飴』お母様の言動に耐えることはもうございませんよ」
突然の発言に彼女は驚いた。なぜ初対面の変な被り物をしているような男に家庭環境がわかってしまったのか。しかしそんなことをお構いなしに店主は言葉を進める。
「当店でお売りしているのはお客様に一時的ですが才能や不思議な力を与えられる特別な飴をお売りしております。」
「あ…あの変なの入ってないですよね?」
「勿論、人間に害のないものは入っておりませんが過剰摂取するとわかりません」
店主から渡された飴の入った袋を見ながら彼女は何とかこの場から立ち去りたい気持ちでいたがもしそんなことができるのならこの先どんな母の言動に耐えなくてもいいという気持ちに押されてしまって袋を店主の前に差し出した。
「これ…いくらですか」
声はか細いが目にはどこか希望の光が灯ったような彼女に店主はまた優しく言葉を発した。
「こちらの飴は強い効果を発揮されるので一日に一回の摂取をお約束してください。」
それを聞いた彼女はカバンから財布を取り出そうとしたときに店主が声をかけた。
「お代はいりません。しかしながらあることをしていただく必要がございまして…」
すると店主が店の奥に行き、ざら半紙のような紙を持ち出してきた。
「こちらに名前を書いていただけたなら飴は差し出します。ここのルールでして」
紙には見たこともない言語と思わしき文字といえるものが並んでおり、彼女は不審がるもの紙もとい契約書のようなものにサインした。
その日から彼女の生活は一変した。母親の機嫌が悪くのを察知したら飴を食べる、食べてる最中はなぜか母親の金切り声が聞こえても何も感じなくなっていった。どれだけ罵詈雑言を浴びせられてもなんのストレスが溜まらなくなり彼女の心理的負担がずっと軽くなった。
しかし懸念はあった飴の数が15個しかないのだ。あの日以来店に再度訪れようとしたが店の跡は無く、更地になっていった。情報端末で調べてみても検索が当たらなかった。
最初は頑張って使わない日を決めてやりくりしていたがあの感覚が忘れられない彼女の心はストレスで蝕んでいった。
その日は最悪だった。母親の機嫌がすこぶる悪く朝から怒鳴りっぱなしで目の前でさらが割れ、牛乳が床に飛び散った。今すぐにでも飴を食べたかったが目の前の母親の前でそんな事したら母親の怒りに油いやガソリンが注がれることは目を見えていたので歯を食いしばって耐えてなんとか宥めて学校へ行った。
登校中は家のことを考えたくなくて飴を一つ食べた。
帰ってきても地獄だった母親のヒステリックが夕方まで続いてたのが彼女を絶望に追い込むには充分だった。些細なことで大声で怒鳴られ、髪を引っ張られ物を投げられた。先に母親が疲れたのか後片付けせずに寝室に戻っていった。彼女は散らかったリビングを片付けて後を追う様に自分の寝室に行った。
机に座った彼女は袋から飴を一つ取り出し、口に放り込んだ。
その時だった。
今までの感覚と違いまるで自分が身体から剥離されたようにふわふわした感覚が襲ってきた。まるで自分の中にもう一人いるような違和感がやってきた。
身体は倉庫からトンカチを取り出し、母親の寝室へ向かった。
母親はぐっすり眠っている。その時彼女はトンカチを振り上げて母親の頭部をめがけて大きく振り下ろした。
(こんなことしちゃダメなのに毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日ヒスリやがってお母さんが死んじゃう死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねこれ以上はやめて止まらない止まってあのクソ野郎はここで息の根止まるんだ)
何度も振り下ろしたのか母親は動かなくなっていった。彼女のパジャマは返り血がべったりついていた。ちょうど仕事から帰ってきた父親が叫び声を上げて腰を抜かしていた。
彼女は無言のまま血塗れのトンカチを振り上げ鈍い音が家中に響いた。
「キャンディ・コレクト」内で店主は瓶に入った半透明な飴玉数個を転がしていた。
「契約を破りましたか・・・でもまあヒトの感情を抽出できたのはよかったです。これは使い所次第で活躍できそうですね。」
小瓶に「里村由佳里」と書いて棚の奥にしまった。ちょうどその時店のドアがギイイを音を立てて開いた。
「いらっしゃいませ。お客様キャンディ・コレクトへようこそ。あなたの願い事飴で叶えましょう」
飴屋さんの不思議な日常 高岡 玄三 @eyikfyk
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