働きたくない青年
もくもくも
働きたくない青年
夜色を放つ街灯。
空を遮る二十二本の電線。
星を平らげた雲。
青年は窓際に立ち、ただ眺めていた。
リネンウールの黒いショートコート。
色落ちした灰色のトートバッグ。
雲色のトレッキングシューズ。
空っぽな表情。
穏やかな呼吸。
直立した姿。
すぐ隣には、紺色のベッドが。
さらに、床に広がった乱雑に置かれている物達。
ナナカマドの枝を生けた牛乳瓶。
日焼けした白鍵。
噛み合わせの悪いヘッドホン。
記録詰まりを起こしたレコーダー。
チクチク脱毛機。
新鮮な卒業証書。
言葉が添えられた絵葉書。
険しい道のりを進み続けることはできますか?
幸せを掴み取るために身を削ることはできますか?
時間を捧げることはできますか?
いえ、あなたはもう手遅れですね。さようなら。
外の景色が動き出した。
小さな物体が近づいてくる。
徐々に姿を表し、それは小舟だった。
青年はコートのポケットから何か取り出す。
それは、透明の目隠し。
ドアの隙間から笑い声が入り込む。
瞼を閉じもう片方の手を胸に当て、三回深呼吸をする。
そして目隠しをつけた。
途端、窓を勢いよく開ける。
風が部屋に飛び込み、駆け抜ける。
部屋が動き出す。
青年は窓枠に足を掛け、直ぐ側まで接近していた小舟へ跳び乗る。
大きく崩した体勢を整えながら、笑い叫んだ。
櫂を手にしゅぱーつ、と漕ぎ始める。
遠くへ。
夜の光が届かない所へ。
二十二本の電線の先へ。
雲を越えて。
遠くへ。
働きたくない青年 もくもくも @mokumokumo68
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