風斬りのドグマ(かぜきりのドグマ)

島村 翔

序章

プロローグ 律の胎動(りつのたいどう)

 ――それは、すべての始まりの物語。


 今から約46億年前。

 地表はまだ溶けた岩に覆われ、空は高温のガスが渦巻いていた。1億年の時が流れ、惑星は徐々に冷え、ようやく原初げんしょの海が生まれる。この青い惑星の誕生だった。ある日、空から火の尾を引く無数の小天体が降り注いだ。その一つに〝何か″がまぎれていたのだ。


 ―― 黒い侵蝕生命体ヴァルクラル。姿も形も定まらぬその存在は、偶然か必然かこの星に辿り着いたのだ。定まった姿を持たず、他の命に紛れ込んでは内側から喰らい、静かにその影を広げていく謎の存在だった。ところが今からおよそ7万年前のこと、氷がすべてを覆う時代が訪れる。それから約1万年前までの間、地表の全てを極寒の氷が覆い、ヴァルクラルの気配もまた大地の奥深くへと封じられていった。


 そして約7万年の眠りを経た現在――青暦1712年。

 気候変動が引き起こした温暖化は、北半球のある場所で氷河の下からヴァルクラルを呼び起こしてしまう。彼らは時に生物の中へ侵入したまま操り、人々の生活圏にまで近づこうとしていた。効率よく捕食しては次の獲物へ乗り移るため、そして拡散のため――。その脅威きょういが、今まさにアルバータ王国へと忍び寄ろうとしていた。

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