阿久間君、悪魔召喚されてしまう

わかめこんぶ

第1話

 俺は極々普通の高校生だ。

 家から歩いて通える高校を選び、毎日遅刻ギリギリで登校し、人並み程度に友達がいて、成績も並。毎日学校面倒臭いな、と思いつつも皆勤賞遅刻無し。友達からは少し言葉足らずと言われるが、そんな欠点があるところが人間らしくて俺らしさを感じる。

 このまま何気ない高校生活を送り、時には彼女なんか作ったりして刺激的は日々を過ごす。そんな日常を望むごく普通の高校生だ。



 高校二年。進級すると同時にクラス替えが行われ、俺は同中だった女の子と同じクラスになった。中学生の頃はさして仲良くなかったが、グループ作りの大事な時期、同中だった共通点もあってすぐに仲良くなった。

 放課後一緒に帰ったりすることもあった。クラスの友達は俺と彼女の関係をイジってきたが、絶賛彼女募集中だった俺はこの青春お邪魔虫共に負けることなく果敢に彼女に挑み続けた。

 五月の初め頃。段々と暑くなって夏の訪れを感じるそんな朝。登校中の俺は、たぬきの尻尾のような短いポニーテールをランランと揺らす彼女こと清水さんを見つけた。俺は駆け足で近づき声をかけた。そのまま一緒に登校することになった。


「暑いねー」


 清水さんは手で自分の顔を扇ぎながら言った。よく見ればほんのり汗ばんだうなじに髪の毛が張り付いていた。夏なんて暑いばかりで嫌だったけど、今年はいい夏になるかもしれないな。期待が膨らみますよ、全く。

 俺は清水さんのうなじから視線を外し「これからもっと暑くなるよ」と返した。


「うへー、嫌だー」


 清水さんは心底嫌そうに顔をしかめた。

 そんな他愛もない会話していた、そんな時だった。

 突然足元が輝いた。何事かと見てみると、魔法陣のようなものが俺の足元で展開されていた。


「きゃー!何これ!」


 清水さんは叫びちょっとだけ俺から距離をとった。


「わ、わかんねー!」


 俺は突然すぎる出来事に驚きと動揺を隠せなかった。なんとなく嫌な予感がし俺は魔法陣の思われるものの上から移動しよとした。が、足がまるで縫い付けられたように動かなかった。

 

「動かねー!足が動かねー!なんだこれ!」


 俺は動かない足を「動け!動け!」と何度も叩いたが痛いだけで一切動かなかった。


「手!!」


 焦る俺に清水さんが手を差し伸べていた。俺はその手を取ろうと必死に腕を伸ばした。その瞬間、視界は暗転した。

 傘を持っている時に強い風が下から吹き荒れるような謎の浮遊感を感じた。その浮遊感は唐突に消え、俺は尻餅をついた。


「いってぇぇ」


 俺は尻をさすった。何故かドッと疲れた気がした。

 誰かのはしゃぐ声が聞こえる。暗かった視界は徐々に明るさを知り戻した。

 俺の目の前で魔女っぽいコスプレをした金髪ツインーテールの少女が、辞書の如く大きな本を片手に「やったー!できたー!」と嬉しそうに跳ねていた。

 誰だ?この子。というかここはどこだ?

 俺は辺りを見回した。薄暗い部屋に蝋燭ろうそくが何本も灯っている。人一人入れそうな大きな釜があって、みっちり書物が詰まった大きな本棚もあった。よく見れば地面には魔法陣のようなものが書かれていた。

 俺は通学路を歩いていたはず。まさか瞬間移動でもしたというのか。そんなまさか。


「あの、すみません。ここはどこですか?」


 俺ははしゃぐ魔女っ子に尋ねた。

 

「あ!ごめんなさい。アナとしたことがはしたないことを」


 エヘヘと魔女っ子は舌を出して笑った。

 目が綺麗な澄んだ青色だった。カラコンを入れるなんて随分と気合が入ったコスプレだ。

 見惚れる俺の前で魔女っ子はスカート裾をつまみ上げた。


「この度は召喚に応じてくださりありがとうございます。私はアナリア・マジョファミリーです。ここはアナの家の地下です。失礼ながら名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 アナリアはちょこんと頭を下げた。長い金髪ツインテールが肩から垂れ落ちた。


「俺は阿久間真って言うんだけど…なんで俺は君の家の地下にいるんだ?」


 魔女っ子は俺の質問に答えず、ただ口を大きく開けあからさまに驚いていた。

 人生で一回だけ阿久間ってどんな漢字とは聞かれたことあるけどこんなに驚かれたのは初めてだ。普通の名前だと思うけどな。

 魔女っ子は餌待ちの鯉のように口をパクパクとさせだした。


「ア…ア…ア…悪魔神様ッ!!!」


 魔女っ子は一際デカい声を出すと振り返り


「ママー!!なんかスゴイの召喚できたああぁぁぁぁぁぁ!!」


 と大声で何か言いながら階段を上がってこの地下室から出て行ってしまった。

 召喚っていったいなんだよ。まさか、本当に召喚されたとでもいうのか?まさか!

 一人残された地下室で俺は馬鹿馬鹿しいと笑いながら立ち上がり尻をはたいた。

 魔女っ子が上がっていった階段から地下室は出れそうだが、無断で散策する訳にもいかないしなぁ。俺は呆然と立ち尽くし待ちぼうけを食らった。

 しばらくして、魔女っ子が戻ってきた。隣にはとても豊満なお胸をした魔女仮装をした金髪碧眼のお姉さんがいた。普通の健全な男の子ならこの胸に釘付けになってしまうだろうが、そんな男の子の大好物よりももっと目を引くものがお姉さんの肩付近に浮いていた。

 それは黒い翼の生えた小鬼だ。赤い肌にポンッと膨らんだお腹。腰に布切れを巻いており、頭には先が丸まったツノが二本生えていた。

 これはCGか?それとも機械仕掛けか?

 小鬼と目があった。冷や汗が止まらなかった。

 小鬼は目をぱちくりさせ一度目を擦るともう一度俺と目を合わせた。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 突然、小鬼は小便を漏らしながら悲鳴をあげた。

 急に生物かも分からない得体の知れないやつが絶叫したもんだから当然俺も


「ぎゃぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 悲鳴をあげた。

 地下室に俺たちの悲鳴が鳴り響いた。

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