第2話
一旦、落ち着きを取り戻した俺は、魔女仮装のお姉さんにリビングに案内された。何故か偉い人でも相手にするかのようにそれはもう丁寧な対応のされ方だった。
リビングには暖炉があってテーブルがあって囲うように椅子が配置されてて、なんというか洋風というか中世感というか、とりあえず
魔女仮装のお姉さんがティーカップをコトンと俺の前に置き、暖炉正面の一番大きなソファに座った。そのソファには魔女っ子とさっきの小鬼も座っていた。
あの小鬼を見るにどうやら俺は本当に異世界召喚してしまったと考えていいようだ。いや、夢の可能性も捨てきれない。確かめるためにほっぺを引っ叩いてもいいが人の目があるのでやめておこう。
「ソフィンママ、コイツはやばいでさ」
小鬼は普通に言葉を喋った。存外可愛らしい声で。お姉さんことソフィンさんに耳打ちをしたつもりだろうがばっちり俺にも聞こえていた。
ソフィンさんは小鬼にうんっと頷くと真剣な眼差しで俺を見た。
「私はソフィン・マジョファミリーと申します。誠に失礼ながら今一度お聞かせ下さい。貴方様は悪魔神様にございますか?」
「あ、はい。阿久間真です。そんな畏まらなくていいですよ」
というかなんでこんな畏まってるんだ?疑問でしかない。やっぱ召喚してしまったことに申し訳なさを感じてんのかな?
「いえそういう訳には」
ソフィンさんはしどろもどろの受け答えで困惑しているのがはっきりと分かった。
一番困惑してるのは俺だけどね。
「俺って召喚されたんですよね?帰れますか?」
俺は一応聞いた。
「はい!帰れますけど…。召喚の代価は?」
ソフィンさんの言葉に俺は安堵の息を漏らした。
「帰してさえくれれば代価だなんてそんなの要りませんよ」
ハハッと上機嫌に返事をしながら、やっぱ召喚には代償みたいなもの支払わないといけないんだなぁ、と呑気なことを考えていた。
急に「ちょっと待って下さい」とアナリアが会話に割り入ってきた。
「悪魔神様にお願いがあります!どうかおねえ──」
「アナリアちゃん!!」
何かを言おうとしたアナリアをソフィンさんが大きな声で制した。
気まずい空気に俺は口をつぐんだ。
ソフィンさんはすぐに俺に頭を下げた。
「申し訳ございません」
「いや…大丈夫すよ」
ソフィンさんはフーッと胸を撫で下ろした。
「実は帰り支度は既に済んでます。こちらへ」
ソフィンさんとアナリアと小鬼は立ち上がった。俺は案内されるがままソフィンさんについて行った。先ほどの地下室に戻ってきた。
「悪魔神様、魔法陣の上に」
言われた通り俺は魔法陣の上に立った。
「アナリアちゃんお願いね」
ソフィンさんが言うとアナリアは小さく頷いた。心なしか元気がないように感じた。
アナリアはデカい本を手に持ち、ペラペラと数ページめくって魔法陣の前に立った。
「パナプメタマカエ、パナプメタマカエ」
不思議な呪文を唱え始めると魔法陣が光り輝き出した。
これはまごうことなく魔法!正直心踊る。もしこの世界にもう一度来れたら魔法を使ってみたいものだ。
アナリアは呪文を唱え続け魔法陣が輝きを増す。
そろそろ帰れる予感。そう思ったが、途端に魔法陣の輝きがコンセントを抜かれたテレビのように消えた。
「アレ?なんでですか?」
慌てるアナリアをソフィンさんが「落ち着いて。大丈夫よ」と落ち着かせた。
もう一度、アナリアが呪文を唱えたがまた結果は同じだった。
「私がまだ魔女として未熟だから…」
ヒックヒック、とアナリアは泣き出した。ソフィンさんはアナリアを慰めていた。
これもしかして帰れない?だとしたら俺も泣いてしまいそうだ。
「旦那、大丈夫でさ。時間が経てば強制的に向こうに送られますぜ」
「本当に!よかったー。教えてくれてありがと小鬼君」
ほっと一息。俺は小鬼君に感謝した。
「旦那、あっしの名前はグアグァ。しがない悪魔ですが覚えていってくだせぇ」
「覚えておくよ。改めてありがとう。グアグァ」
ちょっと発音が怪しいか?心配だったがグアグァは照れくさそうに真っ赤な頬をさらに赤く染めていた。ちょっと可愛い。
俺は強制送還されるその時までマジョファミリー家で時間を過ごした。しかし、一向に送還されなかった。
アナリアは「史上初の完全召喚だぁぁぁ!うぉぉぉぉぉぉぉぉぉやっぱり私は天才だったんだぁぁぁぁ」と喜んでいた。
落ち込んでいたようだから元気になってくれて何よりだ…。
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