第12話 異変
リールの街でセラス隊から離脱したリースは、夕方頃に王都へ到着していた。それはセラスとエルザが、ジョーの追撃から逃れた頃だった。
リースは真っ先にバクスター家当主・エドガーの元へ向かって、双頭の竜・襲撃について報告した。エドガーは我が娘の危機を聞いて青くなってしまい、力なくソファへ座り込んだ。
「ああ……寿命が縮まったよ、リース」
「ですがご心配なく。セラス様は騎士団長の名にふさわしく、見事、双頭の竜を打ち破りました」
リースが胸を叩いて報告すると、エドガーは、大きな息を吐いた。
「確かにセラスは強いのかもしれないが……あんな豪傑とはいえ、やはり娘だからな。心のどこかに幼い頃の弱々しいあの子の姿が残っているのだよ」
「そういうものですか」
若いリースは不思議そうに頷いた。
「もちろんだとも。それにな、つい先ほど……ウイリアムたち一行が全滅したという知らせが入ってな……私も顔を青くしながら対策に追われていたところだ」
それを聞いたリースは仰天した。
「えっ! ウイリアム様が!」
エドガーはリースに事の詳細を話して聞かせた。
「どれだけの人数で襲ったのか知らんが、敵の死体がひとつもなかったところからすると……急ぎの旅路で疲れていたところを、大人数で奇襲したのではないかと我々は見ている」
それを聞いたリースはガックリと項垂れた。
「……我々も相当な人数に襲われましたので……もしやウイリアム様もと……心配しておったのです」
エドガーは頷いた。そしてチラリとリースの顔を見た。
「実はな、ウイリアムは出発前、母上にヴァルハラ行きのことをしゃべっているのだ」
「えっ!」
リースは信じられないと言った顔をした。
「もちろん、彼自身も命を落としているから、彼が黒幕とは言い難い。だが、ペラペラしゃべったのは事実だからな。恐らく、彼周辺から漏れたとみて間違いはなかろう」
「なんと軽はずみな……」
リースは怒りで顔を赤くしていた。
「だがな、ウイリアムは死んだのだ。許してやれ、それよりもなリース。ウイリアムの母上は相当怒っていてな……メラーズ男爵家の娘、エミリーを監禁して、尋問しているらしいのだ」
「エミリー様のご実家、メラーズ家は第三王女派ですから、怪しいと言えばあやしいですが、何か証拠でもあるんですか?}
「実はウイリアムは出発前……メラーズ男爵家の娘、エミリーと密会していた節があるのだ」
「なんですって!」
リースは驚いて目を剥いた。
「もし、こちらの行動がエミリーを通じて敵に漏れていたとしたら……」
リースは妙な胸騒ぎがした。
「エドガー様、セラス様が危険です。何物かが、ヴァルハラ行きを邪魔しようと企んでいるに違いありません」
エドガーは大きく頷いた。
「すぐに応援部隊を送ることにしよう。リース、怪我をしているところ悪いが、お前にも協力してもらうぞ」
「もちろんでございます」
そう言うと二人は同時に立ち上がった。
二人は部屋を出ると、しばらく廊下を歩いて中庭のそばまで歩いて来た。すると急に、キャーという女の悲鳴が聞こえてきたのである。そしてバタバタと侍女が走り回る姿が見え、あちこちから女の悲鳴が聞こえてくる。にわかに不穏な空気が流れ始めた。
「一体、何事だ!」
エドガーは逃げ惑う侍女の腕をつかんで引き止めた。
「メラーズ家のエミリー様が……」
「エミリーがどうしたんだ!」
「ああ! ああ! 後ろ! 後ろよ!」
侍女が恐怖に顔を引きつらせた。
エドガーが振り返ると、石畳に血の足跡を残しながら、よろめくように歩いてくるエミリーの姿があった。白いドレスは赤黒く染まり、髪は乱れて顔に張り付いている。
「ウウウウ……オオオ……」
エミリーは口から血を垂らしながら、虚ろな目で周囲をキョロキョロ見回している。そして手にはなにやらボロ雑巾のような、1メートルほどもある肉の塊を引きずっているのだ。
「おい、どうしたんだ、様子が変だぞ! それに、あの干物みたいなものは何だ」
すると侍女は恐怖に震えるように顔を背けた。
「ガルシア夫人ですよ! エドガー様!」
「ええ? ウイリアムの母上なのか? 一体どうして?」
エドガーは目を剥いて、干物のように干からびたガルシア夫人を見た。
「奥様が……エミリー様にウイリアム様のことを問い詰めている時……鞭をお使いになったのです。それはもう、見ていられないくらい、酷いものでした」
そういっている間にエミリーはウイリアムの母親を、ズルズル……ズルズルと引きずりながら向かってくる。その虚ろな目……半開きの口……だらりと脱力した病的な歩き方は、以前の可愛らしいエミリーとは全く様子が違っていた。侍女はそれを恐怖に引きつりながら見ていた。
「……エミリー様は……その後、何かを口に入れて飲み込まれたのです。すると急に……あのような化け物になられたのでございます!」
「なんということだ!」
エドガーは振り返ってエミリーを見た。彼女の顔は青白い顔から、黒い霧のような息を吐きだしている。それを見たエドガーは確信した。
「これはおそらく、妖術の仕業だ」
エドガーは唸った。
「リース! 応援を呼んで来い! あの女、妖術使いかもしれんぞ!」
「なんですって!」
リースは驚愕した。
「妖術は、この国で禁じられているはず!」
「メラーズが影で……妖術の研究でもしているのかもしれん」
「すぐに応援を連れてまいります」
そう言い残すと、リースは走り去った。それを見送ったエドガーは、エミリーの方へつ近づいて行った。
「メラーズめ、悪魔に魂を売ったか!」
エドガーはエミリーの元へ近づいていった。するとエミリーは、急に叫び声をあげながらエドガーに飛び掛かったのである。そして犬歯を剝き出しにすると、エドガーの首筋へと噛みついた。
「おお、気でも狂ったか! エミリー!」
エドガーは腰から剣を抜くと、エミリーの腹へ素早く突き刺す。刃はエミリーの腹部に深々と突き刺さり、血飛沫が石畳に散った。するとエミリーは悲鳴をあげながら数歩下がって、腹から血を流しながら呻き声をあげた。
「フフフ、よくも刺してくれたなエドガー」
エミリーは、何かに取り憑かれたかのようにビクビクと体を震わせた。そして、急にスクッと姿勢よく立ちあがると、右腕を高くあげた。
「何をする気だ、エミリー!」
すると驚いたことに、その手の先から、白い冷気が舞い飛んで、近くの柱や床に氷細工の薔薇を咲かせたのである。
「誰かエミリーや?」
そしてエドガーが刺した腹の傷に氷細工の薔薇が咲くと、傷が凍り付いてエミリーの出血が止まった。エミリーは顎をあげて腕を組むと、エドガーの方をジロリと見た。
「8年ぶりやな、エドガー。バクスター領では世話になったな……そろそろお前に仕返ししたろう思って、こうして参上したわけや」
それを聞いたエドガーは驚愕した。
「そのしゃべり方はまさか、ベルネージュ! エミリー嬢の体を乗っ取ったのか?」
「その通りや、エドガー。お前には一族を殺された恨みがあるんや。それを、お前の命でつぐなってもらうで」
するとエミリーの姿をしたベルネージュは、手の平をエドガーに向けた。
すると、氷でできた薔薇のツタが、蛇のようにうねりながらエドガーの足首に巻き付いた。氷の冷気が皮膚を刺し、ツタは腰や胸へと這い上がっていく。エドガーは必死にもがいたが、氷の拘束は徐々に強くなっていった。
「ううっ、お前、私を殺すつもりか?」
エドガーの体が冷気で凍り出し、全身が痺れたように硬直した。そして、心臓が止まるかのように鼓動を弱め、血の流れも強制的に停止されたようになった。
「うおおおっ! 苦しいっ!」
「ははは、どうや? 今の気分は? 眠るように死ね……冷たい氷の中でな」
いつの間にか、エドガーの体に咲いた薔薇の花は10ほどまで増えている。エドガーは、8年前のことを思い出していた。8年前……エドガーが治めるバクスター領へ、たった一人で戦争を仕掛けてきた女妖術師がいた。
彼女の名はベルネージュ。猛烈な火の妖術で、町や人を焼き払った悪魔のような女である。そして、何度斬ってもすぐに体を再生させ、また妖術を使ってくる。妖術師は、人が死ねば死ぬほど、その魔素を吸って強くなるのが特徴だ。非常に厄介な相手なのである。
「ベルネージュ! 貴様は確かに殺したはずだぞ」
するとベルネージュはハハハと笑った。
「そんなもん、カラクリがあるに決まってるやないか。そやけど、今から考えたら、あの時の戦争はさすがに無謀やったわ。一人でお前らの騎士団とやりおうたんやからな。数で押されてどうしようもなかった。やっぱり、今みたいに1対1がええな」
「火と氷という違いはあるが……あの時のベルネージュみたいな凄まじさだ」
するとベルネージュは首を傾げた。
「お前は8年前……最前線での戦いを見てないんか? 私は火を主体に戦っていたけど、ここぞという時は氷で戦ってたんや……つまりな、本当の適正は氷や。だから親は私に美しい雪……つまりベルネージュと名付けたわけや」
エドガーは驚愕のあまり目を大きく見開いた。だが、もう全身に氷の薔薇が咲いて口を開くことも出来ない。
「さあ、お別れや。そろそろ、前も見えんようになる」
ベルネージュがそう言った時、急に目の前の、ベルネージュの頭が吹き飛んだ。つまり、元はエミリーだった頭が斬り飛ばされて転がり、柱にあたって静止する。
「エドガー様! 大丈夫ですか!」
もう前すら見えなくなっていたエドガーの耳に、リースの声が聞こえる。リースは他の騎士たちとともに、エドガーの体にまとわりついた氷を、そっと叩き落としていく。すると、床に転がっていたエミリーの生首が、エドガーを睨みつけて笑った。
「ああ、もうちょっとやったのに、残念やなあ。まあ、今度会った時は、覚悟しといてや。その前に、お前の娘、セラスから料理してやるわ。わはははは!」
不気味な生首が、いつまでもしゃべり続けるのを見て、リースは思わず剣で突き刺した。するとその笑い声は止み、生首の顔は、元の可憐なエミリーの姿へと戻っていた。
リースは剣を鞘へ納めると、エドガーの元へと駆け寄った。エドガーはグッタリとしたまま顔をあげた。
「嫌な予感は当たっていたぞ、リース。セラスたちが危ない!」
リースは眉根を寄せて頷いた。
「すぐに出発の準備を致します!」
リースは近くにいた侍女に、エドガーを風呂へ入れるよう指示すると、自身は出発の準備をするため、走り出していった。
◆
数時間後、20名ほどの騎士団が王都を出た。
その中には、エドガーとリースも一緒である。
リースはエドガーの体調が気になったので、王都へ残るよう進言したのだが、エドガーは聞き入れなかった。娘セラスのことが心配なのだろう。
「リース。ワシは15年ほど前、バクスター領で殺戮を繰り返していたヤタ一族という妖術師の里を討伐したことがあってな。それには大きな犠牲が伴ったが、族長を含め全員を討伐できたと思っていたのだ。ところが、実は里を留守にしていた娘がいたのさ。その女がベルネージュだ」
「それで、エドガー様にえらく絡んでいたのですね」
エドガーは頷いた。
「ベルネージュはな、里を滅ぼされた恨みから、たった一人でエスタリオン王国を相手に戦争を仕掛けてきたのだ。それはものすごい大妖術だった。腕を斬り飛ばしても復活するし、人が死ぬほどあの女は強くなるわけだからな」
「なぜ人が死ぬと、妖術使いが強くなるのですか?」
「ああ、それはな、妖術とは魔素というエネルギーを火や風などに変換するという技術だが、空気中や木などに含まれている天然の魔素などほんの微量でしかない。だが人の魂が効率よく魔素に変換できる優良な素材であることに気づいてから、徐々に人を襲うようになったのだ」
「「王都で妖術が禁止となった理由が分かりますよ」
エドガーは頷いた。
「結局、数にモノを言わせて、ゴリ押しで殺したわけだが……まさか生きていたとはな……」
「恐ろしい女ですね……」
「だから、王都でジッとなどしておれなかったのだ。ベルネージュは手ごわい。ただ剣の腕が立つだけではどうしようもないほど、圧倒的な力で襲い掛かってくる」
リースはエドガーの悲痛な顔を覗き込んだ。
「急がないと……セラス様に危険が迫っています」
エドガーは頷いた。
「ワシは足手纏いになるつもりはない。スピードを上げるぞ、リース。まずはカリストまで一気に進むぞ!」
エドガーは馬の腹を蹴った。
◆
どのくらい休んだのだろうか……エルザは草の匂いに包まれて目を覚ました。ガバッと体を起こすと、髪に絡んだ草の葉を払い落としながら周囲を見渡す。すぐそばにはセラスが眠っていて、木々の間から差し込む夕日が彼女の顔を暖かく照らしていた。
不思議なことに体が軽い。エルザは思わず自分の手の平を見つめながら、握ったり開いたりした。
「嘘のように体が軽いわ……」
道に倒れ込むほど疲れていたはずなのに、この短時間で回復するものなのだろうか。エルザは不思議に思って首を傾げた。
エルザは立ち上がって周囲を見渡す。エルザたちは、ジョーと死闘を繰り広げた場所から、それほど離れていない場所で倒れているわけだ。エルザはもしジョーが追って来ていたらと思うと、思わずゾッとしてしまった。
だが、周囲には風で木の葉がこすれる音と、小鳥のさえずる声が聞こえるだけで、敵の姿はなかった。エルザは胸を撫でおろした。
「いけない、良くこんなところで眠っていたものだわ」
夕暮れの赤い光が眠い目に突き刺さる。エルザは思わず目をこすったが、その涙で滲んだ先に、民族衣装を着た女の子の姿が見えた。
「エイミー?!」
エルザは驚いて大声を上げた。
「無事だったのね?!」
エルザは思わず駆けだして、エイミーの元へ向かうと思わずその小さな体を抱きしめていた。エイミーもは嬉しそうに笑ってエルザの体を抱きしめた。
「メイスさんが、展望所の裏にある獣道から逃がしてくれたんですよ。そこを抜けると、街道の半ばあたりにまでショートカット出来るんです」
「そんな抜け道があったのね!」
「でも、私がここへ着いたのはついさっきですよ。お二人は道の真ん中で、倒れるように眠っていたんですから」
するとエルザはニコリと笑ってエイミーを見つめた。
「ありがとう……あなたが私たちを治療してくれたのね……」
エイミーは微笑みながら、上目遣いにエルザを見て、小さく頷いた。
「タミル族に古くから伝わる治癒術があるんです。このような場所では、深い傷まで治すことはできませんが……小さな傷と体力の回復くらいは出来るんですよ」
エイミーは少し恥ずかしそうに頬を染めながら説明した。エルザは感心してため息をついた。
「本当にすごい力だよエイミー。本当に助かった」
すると草の上で寝ていたセラスがムックリと身を起こした。
「どうしたエルザ……何かあったのか……」
その様子にエルザは思わず笑顔を漏らした。
「何かあったのかじゃありませんよセラス様……私たち、道の真ん中で倒れていたんですよ」
「ええっ……それは危ないじゃないか」
「よく、追っ手が来なかったものですよ……さあ、とりあえず起きてください……」
エルザにそう言われて、セラスは立ち上がった。
「あれ? 体が軽い!」
するとエルザはフフンと笑った。
「エイミーが治療してくれたんですよ! あんなボロボロの身体じゃ、立ち上がることだって無理だったはずです」
「本当だな。エイミー、感謝する」
その時セラスが足をかばって呻き声をあげた。
「だがまだ傷口は痛むな……早く歩くとズキズキする」
するとエイミーはセラスの体を支えた。
「大丈夫ですか? 傷口は完全に塞がっていません……宿かどこか、落ち着いた所が見つかったら本格的に治療しましょう」
セラスは唸った。
「ああ、すまないなエイミー。とにかく、どこかで馬を探さなくてはな……この足ではどうにもならん」
それを聞いたエイミーも頷いている。
「セラス様はそんなに遠くまで歩くことは出来ません。このあたりで民家でも探して、譲ってもらうしかありませんね」
するとエルザが何か閃いたようにポンと手を叩いた。
「そういえば、ジョーとかいう、あの黒い戦士が乗っていた馬があったじゃないですか? あれを拝借するのはどうでしょう?」
するとセラスは顔色を青くした。
「まて、エルザ! あいつはまだ生きていたぞ」
「心配いりませんよ、セラス様。私たちがここで長い間寝ていたのに追って来なかったんですよ? もう死んでしまったに決まってます」
「そうかなあ……」
セラスは気乗りしないように唸った。するとエイミーが小声で話に入ってくる。
「あのう……この道を下ってきましたが……黒い戦士の死体なんてありませんでしたよ」
それを聞いたセラスは表情を固くした。
「なんだって? それは本当か?」
「ええ、本当ですよ。だから生きている馬も見当たりませんでした」
エルザとセラスは顔を見合わせてゾッとした。
「確かここは1本道のはずだぞ」
「ということは……ジョーは倒れている私たちの脇を通り抜けて、馬で立ち去ったのですかね?」
するとセラスは首をブンブン振って否定した。
「そんなバカな! 奴はきっと展望台の方へ戻っていったのだ。エイミーが街道に入る前にな」
するとエイミーが二人の間に体を滑り込ませた。
「まあまあ、とにかく、深く考えるのはやめて、先へ進みましょう。三日月湖まで行けば……漁師の家でもあるかもしれませんよ」
セラスは大きく頷いた。
「エイミーのいう通りだ……歩きながら話そう」
セラスがそう言うので、エルザは頷いて歩きはじめた。歩き始めて見ると、セラスは意外と良く歩いた。エイミーの治療の効果だろう。セラスは足取りも軽く鼻歌まで歌いだした。
「考えてみると、これだけの時間、敵襲がなかったということはだな……ある意味、敵の手から逃れたのかもしれんぞ」
セラスはニヤリとしたが、エルザは肩をすくめた。
「だといいですけどね」
「これは適当に言っているのではないぞ。バーノン・ミステイクという人が書いた戦術書に書いてあるんだ。襲撃があるとしても、しばらく時間が経ってからだろう。新たにチームを編成するにしても時間がかかるからな」
セラスは自信満々にそう言うので、エルザもなんとなく、そんな気がしてきた。
「それじゃあ、しばらく休ませてくれるってことですね? その間にアラタカまで行ってしまいましょうよ」
エルザとエイミーはそう言って笑った。
だがそんな呑気な気持ちは、吊り橋の前へ来た瞬間にすっかり消え去ってしまった。
吊り橋の前にある大きな木の陰で、犬を三匹連れた、怪し気な男が三人休んでいたからである。その男たちは、エルザたちに気付くと立ち上がって道を塞ぐように並んだ。
「待ってたぞ! 金髪巻き毛のクソ女! さっきはよくもやってくれたな!」
「誰だお前は!」
「もう忘れたのか! さっきの象使いだよ!」
「あーっ!」
セラスは頭に手をやって、そのままエルザの胸に顔を埋めた。
「誰ですか?」
「実はさっきあいつらに襲撃されたのだ。その時は奴らを追っ払ったんだが、まさか待ち伏せしているとはな……」
エルザは三人の男を睨みつけた。
「それじゃ、あいつらは敵ってことでいいんですね」
そういうと、エルザは背中にセラスを隠しながら、ジリジリと吊り橋に近付いていく。そして、エルザは叫んだ。
「セラス様! エイミー! 走って!」
セラスは泣きそうになりながら、吊り橋へと駆けこんで行く。
「くそう! 家に帰ったら、バーノン・ミステイクの本はすべて破り捨ててやる!」
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