あ、どうしよ、タイトル思いつきません
西野アリス
第1話
一
「ねぇ、ほらあれ、あの子よ」
女の子がそう言って指差したのは、黒いおかっぱを携えた、何とも冴えない女学生だった。
首を力無くだらんと前方に垂らし尽くした女学生。首のみならず背もうねんと曲がりきり、正に猫背のお手本といった塩梅にその無気力さを晒していた。
頼りなく、トボトボと、そしてゆらゆらと歩む姿も全く悲しげなものでした。
「あの子がどうしたの?」
「知らないの? 変子ちゃんよ。ずっと1人でぶつぶつ言ってんの」
「え、何それ?」
「何でも宇宙と交信してんだって」
「ますます何よそれ」
彼女の言う通り、その変子ちゃんと呼ばれた女の子はボソボソと呟きながら歩いていた。
時折笑みを浮かべながら、ボソボソと、丁度周りには聞き取れないくらいの声量で。
彼女の額には影が落ちていた。とは言え、物理的な影という訳ではない故、陰と言った方が適当かもしれない。ただ不思議と、顔の上半分は暗く、その様子が見てとれないのであった。
「わ、私とは……私とは何なのか……ボソボソ」
奇異の目にさらされているのに気づきもせず、彼女は彼女の世界に埋没していた。
二
お昼休み、渡り廊下にてーー
「ま、益荒子さん!」
変子ちゃん、もとい益荒子の背中を華やかな声が愛撫した。
振り返ると、そこには学園一のモテ男こと秋無君が立っていた。
いつもは爽やかな笑顔をバーゲンセールとばかりに振りまいている彼の表情筋は、珍しくも強張っている様子であった。
もじもじと、不安げな心中が漏れ出ている。
只事ではない空気に、周りの生徒達がどよめきだす。
そんな周りの動揺を知ってか知らずか、秋無君は勇気を一括口を開く。
「好きです! 付き合ってつかぁさい!」
校内に秋無君の声が木霊した。
数瞬あって、野次馬達の驚きの声が響き渡る。
「嘘でしょ!?」「ありえない!」「何で変子がっ!?」
みな一様に動揺を隠せないでいた。
対して益荒子はと言うと、顔を真っ赤にして俯いていた。
これ程皆からの注目を浴びる経験も無かったもので、恥ずかしいやら怖いやらで、どう反応していいのかわからないでいるのだ。
そんな様子に痺れを切らした女生徒の1人が、秋無君に食ってかかる。
「秋無君! どうして!? 何でよりによって変子なんかを! おかしいって絶対!!」
「おかしくなんかないよ」
秋無君は、先程までの緊張した姿が嘘かのようにはっきりとそう反論した。
「益荒子さんの、なんて言うか……自分の世界? を強く持っている感じが、僕は好きなんだ」
「で、でも! 宇宙と交信してるような子だよ!?」
「うん、そういうところが、ミステリアスで素敵だと思ったんだ……」
「信じらんない……」
呆れた表情を無防備に晒す女生徒を尻目に、秋無君は益荒子に一歩近寄った。
「……直ぐに返事をしてくれなくてもいい。ただ、僕は真剣に君のことが……」
「ごめんなさい!」
と、秋無君が言い切るや否や、益荒子は彼の顔を見もせずそう叫んで走り去ってしまった。
(無理……! 人無理……! 恋とかもっと無理……!! 交信っ、宇宙との交信、しからば自由に……!!)
三
【ご通信ありがとうございます。こちらは、宇宙交信局カスタマーセンターで御座います】
【ただいま、通信が大変混み合っております。暫くお待ちいただくようお願い申し上げます】
益荒子亜然。腕がだらんと垂れ落ちる。
屋上に出て候。益荒子、魚眼レンズを介したかのように歪んだまぁるい形に空を空見する。
「ハッ!」と我に帰りあたりを見渡すと、そこかしこからボソボソと、女達の呟く声が聞こえてきた。
「ボソ……来世で……ボソ……」
「アカシックレコードに……ボソ……」
「如来の未来は暗い辛い……ボソ、ボソ」
「!?」
(みんな、宇宙と交信してる!?)
そう、皆先程の秋無君の発言を受け、宇宙との交信を始めていたのだ。
当然、皆が皆直ぐに繋げるわけではない。中には見よう見まねで交信「ごっこ」をしている輩もいる。しかし、センスあるものは一瞬にして交信局へアクセスし、本当の交信をモノにした。
「くそッ……! くそっ……!!」
普段なら己のみのオアシスである筈の屋上。見た事のない大繁盛に脳が揺れた。
「繋がれ……! 繋がれったら……ン!」
益荒子は何度も交信を試みるが、やはり繋がることはなかった。
(こんな、こんな事今まで無かったのに……! 秋無君があんな事を言った直ぐ後にこんな……ワイドショーでダイエット方が紹介された後に店頭から消える納豆みたいなテンションで、そんな……)
「でも大丈夫……」
こういう輩は飽きっぽい、放課後にはアクセス数も落ち着くだろう、と益荒子は考えた。
(暫しの我慢……)
四
【502 bad gateway】
「そ、そんな……」
放課後、帰路にて交信を試みた益荒子の耳朶を刺したのは、そんな無慈悲で乾燥し切った自動音声であった。
彼女の読みは甘かったのだ。健全な女学生の恋心は、これ程までにサーバーに負荷をかける。
彼女の唯一の喜び、心のオアシスである宇宙との交信は、交信局のサーバーダウンにより奪われてしまったのであった。
「おわ……は……わわ、終わりだ……」
その場に膝をつく益荒子。
「ねぇ、知ってる?」
そんな彼女の耳に響くは、女学生の妙に神妙な声。
「な、何?」
聞き手の女人もまた釣られ、神妙に返す。神妙の意味あってる? まぁいいとしますね。
「宇宙で思い出したの。この近くに宇宙統轄局って研究所? みたいなとこがあって、そこで博士? っぽい人? が、宇宙開発の研究? みたいな事してんだって」
「え、そんなんあるの全然知らなかったー。え、じゃあさ、宇宙との交信ってもしかしたらそこで管理してんじゃない?」
「!?」
益荒子、跳ね上がる。
一回転後に女人の前へ立ちはだかる。
「それどこ!?」
「はひゃっ!?」
「な、何ぃ!?」
2人は驚きたじろぐが、益荒子の気迫が寧ろその魂を現世へと繋ぎ止めた。
「その宇宙統轄局はどこにあるの! 教えて!」
「あ、東公園の向かいに……」
「ありがとっ!!」
益荒子はそう言うと、凄まじい速度で東公園へと向かい駆け出した。
五
「これが、宇宙統轄局……」
ドドン! と、目の前であぐらをかいている施設。
それは益荒子の想像した形ではなく、大きな球体の建物であった。銀ギラ光る球体が「フフン!」と鼻を鳴らしてこちらを見下している。
益荒子はキョロキョロと、外壁に目ん玉擦り付ける勢いで入り口を探すが、それは全く見当たらなかった。ドアノブはおろか、凹凸さえ存在しない球体で、何ならオブジェなんじゃないかと見紛う程であった。とか何とか言ってたけど見落としていただけで普通に扉はあった。そしてその横には「宇宙統轄局」と書かれた表札のような木札があり、添えられるようにお行儀よくチャイムが出っ張っている。
益荒子は意を決し、チャイムを押した。
チャイムは、益荒子が思っていた感触と違っていた。益荒子と打つ時、一旦益荒男が予測変換で出てきてこれを入力し、その後に男を削除して子を入力しているからもう本当に面倒くさい。なので以降益荒子は益荒子でなく、花子ちゃん可愛い子だね、ちゅっちゅと記す事とする。
チャイムは、薄いゴムに包まれているようで、押しはじめは全く抵抗がなかったが、ゴム内側のボタン本体に到達した瞬間、それこそ「ポチッ」という効果音がお似合いな確かな押し心地を感じたのであった。
そしてチャイムを押すと同時に、建物が「ゴゴゴゴゴッ!!」という不穏な奇怪音を漏らし出す。
「な、何?」
という声を軽く打ち消すほどの凄まじい爆音。一体何の音かと見ていると、何と建物が変形していくではありませんか。
あれ程見事な球体から脚が生え腕が生え、頭部が突き出しては博士も飛び出してきた。
「何をしとるかー!!」
怒りの声を上げる博士は、もはや二足歩行のロボットと化した統轄局の胸部のコックピットらしきところから飛び出てきた。博士は椅子にしがみついており、その椅子とロボットはバネで繋がっている様子であった。
バヤヤンバヤヤンと跳ねる椅子と博士、その揺れは一向に治る気配を見せず、博士はグルグルと目を回すのであった。
六
「ったく、酷い目に遭った……」
湯気立つほかほか湯呑みお茶を啜りながら、博士はポリポリと頭を掻いた。
「ご、ごめんなさい……」
「いや、構わんよ。元はと言えばあんなところに変形ボタンを設置したワシが悪いんじゃからな。というか設計した小原君が悪いんじゃからな……ん? となればやっぱりワシは悪くないの! ん? とは言えお主も悪くない……ので、この話はここまでにしよう、不毛極まるからの」
「はぁ……」
「そんなことよりお主じゃよ。お主は一体何の用でここまで?」
「あ、え、えっと……あの、私、宇宙との交信が趣味で……」
「ほう! それは素晴らしい」
博士、舌を垂らして大喜び。
「でも、なんか、うちの学校内で急に交信が流行っちゃって……何回試しても、アクセス集中とか言われて交信が出来なくて……」
「はぁ〜、まさかそんなブームが来とるとは」
「……あの、ここ宇宙の事を専門にしてる研究所なんですよね?」
「ん? あぁ、研究所……というと少し語弊があるが、まぁそんなところじゃな」
「宇宙との交信もここで管理してたり……?」
「お、そこまで知っとるのか。いかにも、宇宙との交信はここで管理して……」
と、博士が言い終わるより先に、花子ちゃん可愛い子だね、ちゅっちゅは「バッ!」と両手両脚を床に付き
「交信が出来るようにしてください!!」
と、頭を床に叩きつけた。
凄まじい衝突音と声量に気圧され目を丸くする博士であったが、直ぐに平静を取り戻し
「うーん」
と、渋い顔をした。
「手を加える事は可能じゃが、直ぐに交信出来るかと言われると、うーん……なんとも」
「そ、そんな……」
「じゃが、手が無いわけではない」
「ほんとですか!」
驚きと嬉しさを満面に携え、花子ちゃん可愛い子だね、ちゅっちゅは勢いよく顔を上げた。
「ふふふ、実は、ワシは今とある実験をしていての」
「実験……」
「聞いて驚け、ワシはつい先日、常時パルスパワーを放出出来る技術を開発したのじゃ!」
「パ、パルスパワー……?」
「パルスパワーとは、まぁ端的に言うと「めっちゃ短い時間に、めっちゃ大きなエネルギーをめっちゃ放出する技術」じゃ」
「?」
花子ちゃん可愛い子だね、ちゅっちゅは「何のこっちゃ分からん」と首を傾げる。
「まぁ細かい事は分からんでもいい。とにかく、この技術を応用すれば、いずれは時空パルスへと到達し、新たな宇宙を生み出すことが出来る筈なんじゃ!」
「新たな宇宙!?」
花子ちゃん可愛い子だね、ちゅっちゅは、あまりに壮大な話に口あんぐり。言葉を失ってしまった。
「既存宇宙との交信なんてケチな事を言ってるようではまだまだ! お主はこのパルスパワーを使い最強のヒーローになるのじゃ!」
「ひっ……ひっ……ひっ……!」
驚きを通り越し過呼吸気味になる花子ちゃん可愛い子だね、ちゅっちゅ。
「交信とかそんなレベルではない……宇宙の創造主となるのじゃ!」
「待って」
一周回って冷静になった花子ちゃん可愛い子だね、ちゅっちゅは、掌を突き出し盛り上がる博士を制止した。
「情報が多すぎてまとまんない。ちょっと宇宙と交信して聞いてみる」
と耳を押さえた。
「あ、え……」
博士焦る。
そんな博士の様子には気付きもせず、花子ちゃん可愛い子だね、ちゅっちゅは宇宙との交信をはじめた。
「パルスパワーを使うことで、宇宙を作る事は可能?」
【第四宇宙がお答えします】
「あ、やっべ……」
博士益々焦る。
【それは、未だ誰も試した事がありません。ですが、不可能とも言い切れない】
「見えない未来なら」
【やるに越した事はない】
交信を切り、博士に向き直る。
「やりましょう」
「やったね」
ガシッ、と2人は固く腕を絡ませた。
七
〜5年後〜
『奴じゃ、奴が最大規模であり最強の宇宙蟲「アラズ」じゃ』
変子改め益荒子改め花子ちゃん可愛い子だね、ちゅっちゅ改めパルスウーマンは、宇宙空間を回遊する人型の害虫「アラズ」と対峙していた。
地球を握り潰せるほどの拳を持つ宇宙蟲「アラズ」。あまりに巨大すぎて、人間の目ではその全身を捉えることが出来ない。
人間同様五体で構成されており、二足歩行で移動している事は判明しているが、その足下を観測する事は未だ出来ていない。
一体どこを地として歩いているのか? いや、そもそも地面を必要としていないのか? 何が目的で、何をエネルギーとして行動しているのか? 悉くが謎である。
パルスウーマンが耳を押さえる。
【第二宇宙がお答えします。「アラズ」の生息域は広く、また多くの惑星・恒星を消滅させています。「アラズ」によって滅ぼされた生物も少なくありません。正直、現段階で完全に退治するのは難しいかと思われます】
「パルス創界で押し潰せば良い」
『!? そんな事をしては、既存宇宙が押しつぶされてしまうぞ!』
【確かにそれでしたら「アラズ」を消滅させる事は可能でしょう。しかし、博士のおっしゃるように宇宙も一つ消えてしまう。最悪、あなたも無事では済まない。あなたが消えると、パルスパワーによって生まれた新たな人工宇宙も消滅してしまうかもしれません】
「私にとって宇宙なんて別にどうでもいい。てか秋無君はどうなったんだ?」
言って、パルスウーマンは通信を切った。その目はもはや「アラズ」を見てすらいなかった。
バッ、と掌を前に突き出す。そのまま拳を強く握り縦一文字に虚空を切った。
瞬間、何かを察知したかのように「アラズ」がウーマンへ向け突進する。
「もう遅い」
言うや否やんや、宇宙が凄まじい速度でなんかグィンドォォンってなった。
火花のような綺麗な粒を撒きながら、ウーマンの体が溶けていく。
同時に、第二宇宙が人工宇宙に押し潰される。
その後、ウーマンがどうなったのかを知るものはいない。
生きているのか、死んでいるのか。はたまたそのどちらでもないのか。
みんなも考えて教えてね。どうなったんだろうね? AIとかに聞いちゃダメだよ。相談だけならいいよ。
あ、どうしよ、タイトル思いつきません 西野アリス @kamacho1002
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