第43話 Can't Take My Eyes Off You

三人の視線が菖蒲に注がれる。菖蒲は深いため息をつき、椅子に深く腰掛けなおした。

「ユーイチ君。最初に会った時に、助けてって言ったけどね。違うの。狗飼茅を殺してしまったから、それで追われていた。助けて欲しかったのは、私じゃなくて、私の中にいる茅だったの」

顔に髪がかかるせいで表情が伺えない。独り言のように、菖蒲の告白は続いた。

「私さ、酒川って苗字で、親戚みんな酒川製薬の関わりがあるのだけどね。だからなるべく酒川の子と付き合い多端だけど。でも、好きになっちゃったのは狗飼だもの。一緒になる方法はどちらかを取り入れるしかないの。だから一つになった。例え、私の躰が砕けたとしてもね。ユーイチ君もヨウコさんもありがとう。結構危険な目に合わせてしまって」

「助かる方法はあるんじゃないのか。ひすいさんいるし。石とかは、オレは用意できないけれど」

菖蒲は口元を緩ませた。

「それもできたかもしれないんだけれどね。でもいいの。躰が二つだと、何をやっても二人になってしまうでしょう。だから私は、私達は一つの躰を共有して、同じ景色を見るの。同じ風景を見て、一つの頭で楽しみ、一つの躰で痛みを感じるの。それが短い間でもね。芹澤さんもありがとうございます。私はどっかで破裂するし、そこにある元の茅の躰はもう使わないから。だから行かなくちゃ」

皿のクッキーをほとんど平らげたヨウコは問う。

「どこに行くのさ」

「タチバナミナトに食べられに行かなきゃ」

ひすいさんが立ち上がり、眼帯を外す。それとほぼ同時に、菖蒲は叫ぶ。

「【玩具修理バレエ=メカニック・プレスト】」

「【君の瞳に恋してるファイア】」

両耳を貫くような高い音が脳内でこだます。それにひるまずに、オレは刀を抜いた。

ひすいさんのほうが早くて、間に合ったらしい。

菖蒲は、眼と口を大きく開けたままの姿勢であおむけで倒れていた。左目が砕けて、がらんどうになっていた。

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