第32話 出発

「ユーイチ君のご主人様が真犯人か。とんでもない人に助けを求めちゃったね。菖蒲ちゃん」

ソファの上で足をばたつかせて、ヨウコは伸びをした。ひすいさんが本当に魔眼の移植をした後、手術をしたのだろうか。いくつも疑問が浮かぶが、おとといの晩に届いたものに思い至る。

「ひすいさんが修理をしたのかどうかはわからないですけれど、脳と瑰玉がくりぬかれた死体の持ち主を探していました。今日はソレを調べるからといって、休みにさせられましたけれども」

ヨウコと菖蒲、二人の視線が集まる。菖蒲のほうにはなるべく目を合わせないようにするために、ヨウコのほうを向いた。

「ひすいさんじゃないので、そうすると菖蒲さんを追っていた人たちがわからないですね」

「それは一つ、心当たりがあります。東京警備局の人たちです」

ひすいさんの名前だけでなく、土生津の所属する警備局の名前まで出てきた。出されたグラスには水滴がなくなっていた。

「東京警備局かぁ。あんまし相手にしたくないね。ユーイチ君だったら楽勝かもしれないけどさ。あ、でも菖蒲ちゃんの魔眼で躰交換して相打ちとか」

「オレ、局長から一本も取れたことないですよ。奏術アリでも」

菖蒲の顔が引きつったのを横目で見た。現状、目を合わせただけで奏術が発動してしまう。正面は見られなかった。

「ヤバいじゃん。多分ここも襲われそう。警備局の連中、数が多いし、遊び方も下手だし、マジ無理。覚悟決めて、地獄蝶のところ行くしかないんじゃない」

「オレもそう思います。普通ならうちの屋敷は見つけられませんが、オレならたどり着けます」

「よし、決まりだ。行こう。私は子供だからさ、ユーイチ君、おんぶして」

「いいですけど・・・・・・・。屋敷の門まで来たら降りてくださいね。また改造されそうになるんで」

「こわいなあ」

お茶を出したお礼と共にオレは立ち上がった。

屋敷を目指して、三人は部屋を出た。

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